あ はっぴぃ にゅう いやぁ
〜シャナンの支度風景〜
「う〜ん、シャナン様に似合いそうなドレスねぇ…。」
ラクチェは衣装ハンガーをカチャカチャと鳴らしながら、ドレス選びに苦悩していた。
「チャイナドレスはないか?」
「チャイナドレスですか? えぇっと…、ってシャナン様!?」
靴のサイズを合わせていたはずのシャナンが、いつの間にかラクチェのすぐ横に来ていた。
「セリスの事だから、多分用意してあるだろう。」
言われた通り探してみると、色とりどり模様いろいろのチャイナドレスが見つかった。
シャナンにはどれが似合うだろうと考えながら、自分が服に無頓着なだけにラクチェはなかなか候補を絞り切れなかった。
同じものを何度も持っては止め別のにしてはまた前に持ったものを取り上げるといった具合にラクチェが見比べていると、シャナンは横から手を伸ばしてそのうちの1枚を取り上げた。
「これにしよう。」
さっさと決めて、服に合わせてアクセサリーを選ぶと、先にサイズ合わせをしておいた靴の中から服の色に合ったものを持って、シャナンはスタスタと支度部屋へ向った。
慌てて追いかけたラクチェが支度部屋へ行くと、シャナンは既に部屋を仕切るカーテンの奥へと消えていた。
間もなく、着替えて出て来たシャナンは、ちゃんと胸に詰め物をして、隙なくチャイナドレスを着こなしていた。その姿は、既にそれだけで遠目には女性に見えてしまいそうだった。
「…一つお聞きしても良いですか?」
「何だ?」
「女装、お得意なんですか?」
途端に、ラクチェの頭には軽く拳骨が降って来た。
「痛〜い。」
「妙なことを言うからだ。」
シャナンの顔には不機嫌の文字が浮かび上がっていた。
「だって〜、ドレスは指定するし迷わず選ぶし短時間で着替え終わるし隙なく着こなしてるし、そんな踵の高い靴で綺麗に歩いてるし…。」
「このパターンの服が普段着に一番似てるし、ちょうどこれが目に付いただけだ。それにこんなヒール程度、私達のバランス感覚ならどうということはあるまい。」
そんなこと言われてもわたしはハイヒール苦手なんです、と口に出せるラクチェではなかったが、顔にはハッキリ書かれていた。
「ラクチェ…、私はお前に無理してハイヒールを履けとは言わないから心配するな。」
そもそもラクチェの好む服にハイヒールが似合うとは思えないしな、と笑いながらシャナンはメイクボックスを開けた。
ラクチェが驚いて硬直している間に、シャナンは迷いなく化粧品を取り出し着々と化粧をしていった。気付いた時には、きちんと薄化粧を終了している。
「どこでそんなこと覚えて…。」
「昔、何度かエーディンやエスリンに玩具にされてな。」
彼女達は、アイラに化粧しようとして逃げられて、ちょうどそこへ通りかかった幼いシャナンを身替わりにして楽しんでいたようだった。
「それより、髪を結うのを手伝ってくれ。」
ラクチェは言われるままにシャナンの髪を結うのを手伝い、指示通りにヘアコームを付けた。
その後、シャナンは肘まで覆う手袋をして扇子を持つとラクチェを促して支度部屋を後にした。
部屋を出る寸前、ラクチェは呟いた。
「やっぱり、お得意なんじゃないですか? 女装。」
それに対するシャナンの反応は、扇を握りしめて一言。
「こいつで叩かれたいか?」