あ はっぴぃ にゅう いやぁ
〜アレスの支度風景〜
「とにかく、肩幅の目立たない服を選ばなくっちゃ…。」
ナンナは衣装ハンガーの前で、あれこれドレスを物色した。
「あ、でも腰の細さは強調するといいかな?」
数あるドレスの中から、ナンナはレトリックなドレスを中心に選び始めた。
「色は…パステル調は不可ね。はっきりした色で、アレスに似合いそうなのは…この辺かなぁ。」
濃いめの色のドレスをたくさん抱えて、ナンナはアレスの支度部屋へと急いだ。
支度部屋で待っている間にマントや上着を脱いでいたアレスは、ナンナが抱えて来たものを見て目を丸くした。
「アレス、これ試着してみて。」
「試着しろって言われても…。」
ナンナが持って来たのは上流階級の奥方が着ているような本格的なドレスばかりである。
「あ、そうか。いちいち着てたら時間なくなっちゃうわね。」
そう言うと、ナンナはアレスを鏡の前に立たせて、抱えて来たドレスを次々とあててみた。その中で、ナンナが見ても不合格となった服はあっさり捨てて、それ以外の物はアレスの主観も取り入れて、3枚まで絞って優先順位を付けた。
「はい、それじゃ、これ着てみてね。」
「ああ。」
アレスは最優先順位のついたドレスを抱えて、部屋の中を仕切っているカーテンの陰に姿を消した。
間もなく、カーテンの中からナンナを呼ぶ声がする。
「ナンナ〜、これ、一人じゃ上手く着られない。」
「何、甘えたこと言ってるのよ。」
「とりあえず、ファスナー上げてくれよ。」
「はい、はい。」
仕方ないわねぇ、と呆れながらナンナはカーテンの陰に入り、ドレスのファスナーを上げてやった。その後、変によじれている部分を補正し、てきぱきとアレスの身支度を整えていく。
「なぁ、お前も普段、こんな窮屈な思いしてるのか?」
「そうねぇ、デザインによりけりかしら? 私が着てるのはゆったりしたものが多いわ。」
「ふ〜ん。」
アレスはナンナに促されて、カーテンの陰から鏡の前へ移動した。
「どう? 私は良いと思うけど…。布地が引きつれてるところもないし、このまま決めちゃわない?」
「いいぜ。お前に任せる。」
アレスの賛同を得て、ナンナは次にアレスのメイクに着手した。
アレスが大人しく目を瞑っている間に、ナンナは見事な手付きでアレスにメイクを施していった。そして、そのまま金髪の付け毛を付けてそれを結い上げ髪飾りを止め、耳に綺麗なイヤリングを付けた。
「はい、目を開けて良いわよ♪」
「お前…天才だな。」
ナンナの腕を褒めたたえて、アレスはレースの手袋と大きな指輪をはめた。
「ま、素材も悪くなかったってことなのかしら?」
「……。」
優勝賞品は欲しいからこの出来には満足しているが、ナンナにこういうことで褒められても決して嬉しい気はしなかった。