あ はっぴぃ にゅう いやぁ
〜セティの支度風景〜
「セティ様には、どんなドレスが似合うのかしら?」
ティニーは衣装ハンガーの前で頭を悩ませていた。
その横で、セティが次々とハンガーを寄せてドレスを物色している。真剣にドレスを選んでいるセティの様子が、ティニーにはちょっと不思議だった。
「あの、セティ様…。」
「何だい、ティニー?」
服を選ぶ手を止めて、セティはティニーの方を向き直った。
「随分と乗り気のようですけど、もしかしてお好きなんですか、女装?」
セティの心をシレジアの真冬のようなブリザードが吹き抜けた。
「…そう見えるのかい?」
「はい、随分と乗り気に見えますけど…。」
「確かに結構乗り気だけどね。別に女装が好きな訳じゃないよ。」
それではどうして乗り気なんでしょう、と首を捻るティニーに、セティは言いにくそうに理由を話した。
「私もアレスやリーフ様と同類でね。賞品の食材が欲しいんだよ。」
「シレジアも、財政が苦しいのですか?」
「いや、さほどでもないんだけど…。」
元来、シレジアは基本的に自給自足体制を保っていた。しかし、帝国軍に田畑を荒らされ働き手を減らされた結果、現在は食糧難なのだ。
しばらくは他国からの輸入に頼らざるを得ないのだが、まだ安定した貿易ルートが確保できないので、食料を買い付けようにも品薄で充分な数の入手に困窮している。
「だから、米・味噌・小麦粉1年分は大変魅力的な賞品なんだ。」
「そうだったんですか。」
ティニーは改めて自分の置かれた状況が如何に恵まれていたのかを知った。
フリージは国庫も豊かだし、国内の物流も良い。他の公国との輸出入も円滑に行われており、困った時はセリスやアーサーが助けてくれる。
「セティ様。絶対に優勝しましょうね!」
いきなり燃え出したティニーに驚きながら、セティは再びドレスを選び始めた。
「これ、どう思う?」
お洒落なブラウスとシンプルなスカートを取り出して、セティはティニーに向き直った。
「素敵だと思います。使い勝手が良さそうですね。」
服自体が自己主張しないので、着こなしとアクセサリーなどの組み合わせ次第でかなり使えそうだった。
「それでは私はアクセサリーを選びますので、セティ様は靴とストッキングを選んでください。」
二手に分かれて小道具を物色すると、2人は支度部屋へ入って行った。
部屋を仕切っているカーテンの陰でセティは服を着替えた。
「…よくお似合いです、セティ様。」
「…ありがとう。」
複雑な心境で言葉を交わし、セティはティニーに化粧を施してもらった。
更に、髪飾りやアクセサリーをつけてもらい、その仕上がり具合に揃って溜息をついたのだった。