若き戦士達の集い

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〜戦場〜

偵察に行っていた者達が相次いで戻ってきた。
その報告を元に再び作戦会議を開いたセシルだったが、そこで挙げられた2つの案のどちらを採用すべきか簡単には決めきれなかった。
「どっちも、それぞれ良いと思うし…。」
囮を使って誘い出して総攻撃を掛けるか、それとも封じ込めて歩兵で殴り込みを掛けるか。
結局セシルは、親睦を深める意味を込めて、囮を使って誘い出してフォーメーションを組んで総攻撃を掛けることにした。
「あ、でも誰を囮に使おうか。」
あんまり強そうだと誘い出されてくれないだろうし、かと言って弱い者だと危険だし。適度に腕が信用できて機動力があって、それでいて敵の目には弱そうに見える者というのが最適である。
「それなら、うってつけの人物が居るぞ。」
そう言ってニヤリとしながらセシルの方をジッと見ているルーファスに、セシルはジリジリと後ずさった。
「まさか、僕だなんて言わないよね?」
セシルは腕と弱そうに見える点には自信があったが、クラスチェンジ前なので機動力に自信がなかった。ただ馬に乗って移動するだけならいいが、適切な手綱さばきが出来るとは思えない。
「セシル殿は、囮には不向きでしょう。」
「途中で落馬されても困りますし…。」
アリアンとルディが相次いでセシルの不安を否定した。他の者達も、ルーファスも含めてそれに賛同する。
「じゃあ、そのうってつけの人物って誰?」
「アレイナだよ。あいつは、こういうのが凄く得意なんだ。」
クスクスと笑いながら言うルーファスに、セシルは「大切な妹を囮なんかに推薦して良いのか?」と思い、他の者達は「囮が得意ってどういうことなんだろうか?」と首をひねった。
とにかく他に心当たりがあるわけでもないし、自信満々に請け負うルーファスの推薦を受けて、セシルはアレイナに囮役を依頼した。
「どうして私がやらなくてはならないんですの?」
希望者を募るでもなく一方的に白羽の矢を立てられて、アレイナはフイっとそっぽを向いた。規模が違うとは言えこういう役目は今までに何度かやっているが、だからと言ってあっさりと引き受ける気にはなれない。
「俺の推薦だ、と言ったら?」
ルーファスのこの言葉でアレイナの態度は反転した。兄の推薦と聞いて断れるアレイナではなかったし、見込まれたのがとっても嬉しくて二つ返事で引き受ける。
「お任せください。一人残らず引きずり出してご覧に入れますわ!!」
こうして囮となるアレイナを中心に各人の配置を綿密に打ち合わせた後、セシル軍は静かに城を後にしたのだった。

ほぼ全員が配置につき終わり、いよいよアレイナが砦に向かって出発する段になった。
「やるべきことは分かっているな?」
「はい。砦の中の敵を皆様の攻撃範囲内へ引きずり出せばよろしいのでしょう?」
しっかりと答えるアレイナに、ルーファスは深く頷くともう一つ命令を加えた。
「必ず、無事に俺の元まで駆け戻ってこい。」
ルーファスがそう言って抱きしめて頭をポムポムとたたくと、アレイナはパワー全開で砦に向かって駆け出していった。
「これで、あいつは絶対無傷で戻ってくるぞ。」
「そういうものなの〜?」
セシルは訝しげに呟いた。しかし、そんなセシルに賛同するよりももっと気になることがあったフレヴィは横から口をはさんだ。
「それより問題は、彼女が本当に敵を引きずり出せるかどうかではありませんか?」
「大丈夫だ。敵を逆上させるのは得意だから。」
だからこそ、囮に最適なのである。ノディオン城周辺の山賊や旧貴族の名にしがみつこうとした反逆者は、この方法でことごとく叩き潰されて来た。たかだか13才の小娘にいいように嘲笑われて頭に血がのぼり、後先構わず飛び出して来て簡単に一網打尽にされたのだ。
「その点は、私も保証しよう。」
背後から、マリクと共に居たアイリーンの声がした。
「あの者、実に巧みにこちらの神経を逆撫でしてくれたぞ。」
先日の喧嘩で身を持ってそれを証明してくれた『アイスドール』の言葉に、一同は妙に納得してしまった。
そうこうしている内にアレイナは砦の近辺まで到達し、生来の良く通る声を生かして、砦の中の敵に向かって辛辣な言葉を叩き付け始めた。間もなく、数人の敵兵が砦の中から出てきてアレイナに切りかかって返り討ちにされる。そこで更にアレイナは敵の怒りを煽った。
そんなことを何度か繰り返しながら、出てくる敵の人数の増加具合を見極めて、アレイナは砦の近辺で近づいたり離れたりしながら敵のボスの神経を逆撫でした。
そしてついに、待ちに待ったタイミングが訪れた。そこで更に駄目押しの一言を投げつけると、アレイナは味方の陣に向かって敵を誘導し始めた。ルーファスの言葉に偽りなく、見事なまでに敵の攻撃を躱し時々引き返して挑発し、巧みに敵を引き寄せて味方の攻撃フォーメーションに誘い込む。
「凄〜い。」
双眼鏡でその様子を見ていたセシルが感嘆の声を上げた。
「感心してないで、ちゃんと指示出せよ。俺もそろそろ配置につくぞ。」
『銀の弓』を手にして右翼に移動するルーファスを見送って、セシルは遠距離攻撃開始の合図を両翼の従姉達に送った。
セシルの合図を受けて、フレイアの『メティオ』とサンドラの『サンダーストーム』が敵の後方集団に降り注いだ。こうなると、敵は混乱した挙げ句に後戻り出来なくなる。彼らは恐怖と怒りを目の前の少女にぶつけるべく、更に躍起になってアレイナを追いかけ始める。
アレイナの姿を目視で確認したセシルは、弓部隊と魔法部隊に合図を出した。即座にルーファスとルディとラルファとルネが矢を放ち、フレヴィとアルフォンスが通常魔法の詠唱に入る。そうして敵の前方集団に矢と魔法の雨が降り注ぎ、敵は混乱の坩堝に落ち込んだ。
「もうちょっと…。もう少し近づけば…。」
敵がかなり近くまで来るのを待って、セシルは突撃命令を下した。歩兵部隊が一気に間合いを詰め、騎兵や飛兵が敵を囲い込むように動き回りながらヒットアンドアウェイを繰り返す。そんな中で、弓を剣に持ち替えて切り込んで行ったルーファスの元に、アレイナが誇らしげな笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「怪我はないか?」
「お兄様のお言い付け通り、無傷ですわ。」
「さすがは俺の自慢の妹だ。」
胸を張って言い放つ妹を褒めてやると、ルーファスは彼女にもう一働きするように言いつけた。
「この辺りの回復役は任せるぞ。」
「了解ですわ♪」
アレイナは剣を杖に持ちかえると、怪我をしていそうな味方を見つけてはややぎこちなくも回復の杖を振り始めた。

戦闘も終盤に差し掛かって、フォーメーションが崩れがちになりながらも互いの連係は実に上手くいっていた。
ルディやレイティアやリナは敵から財布を掠め取っては味方の懐へ放り込んでいったし、ヴェルトマー三姉妹のトライアングルアタックの前にはどんな頑丈な敵も瞬殺されてしまう。そしてアリシアも上空から他の者達のフォローを忘れない。そんな彼女達を地上から弓や魔法で狙う敵も居たが、そのような行為はフレヴィの必殺『エルウインド』の餌食となるための優先チケットを購入するに等しかった。ヴァラは少々苦戦気味のようだったが、ルネがきっちりと守っている。
そんな中、『銀の大剣』を忘れてきたマリオンは攻撃力不足を秘剣でカバーしながら何とか戦い抜いていた。
しかし、奥義というものは連続で延々と使えるほど簡単なものではない。徐々に押されてセシルやマリアの居る方へ押しやられてくる。
「お兄様、大丈夫でしょうか?」
「マリオンのことだから、平気だよ。」
「それもそうですね。危なくなっても、近くにマリク兄様達がいらっしゃいますし。」
「サイドへ流れたらルーファスやアデリーヌが居るし、ここでは僕の『カリスマ』と君の支援効果があるし。」
フォーメーションを組む時、セシルは支援効果が最大限に生かされるように配置を決めておいた。その効果がダウンしているのはバラバラに配置されたアグストリア勢と両翼に別れた従姉達だけである。
戦場とは思えないくらいのほほんとした雰囲気でマリアと言葉を交わすと、セシルは戦況を把握するべくあちこちに視線を巡らせた。
セシルがあちこちに目をやっていると、敵は残り少なくなっていたが、中央から逃れて回り込んだ敵が側面をついてくるのが見えた。
「フレイア!!」
セシルは焦ったが、『メティオ』の呪文を詠唱中だったフレイアを庇うようにアルフォンスが敵との間に入り込んでハートを飛ばして必殺『ウインド』を放った。
「俺のフレイアに攻撃しようだなんて、とんでもない奴らだな。許せないぜ。」
こうして右翼の側面へ回り込んだ敵がアルフォンスの愛と怒りの必殺『ウインド』の前に散っていったのを見て、セシルはホッと息をついた。
しかし、左翼も似たようなことになっていた。
『サンダーストーム』の呪文を唱えていたサンドラに、敵が襲い掛かったのだ。
セシルは焦った。フレイアの場合は新婚ホヤホヤの夫であるアルフォンスがそれこそべったりと寄り添っていたから助かったが、独り身である彼女には特定の護衛はついていない。
だがその直後、セシルは目を疑うような光景を見た。
応援要員として近くに居たフィーナが祖父から譲り受けた必殺『勇者の槍』を手にしてサンドラと敵の間に立ちはだかると、弱冠11才とは思えぬ見事な槍さばきで彼女を守ったのだ。
「私が居る限り、こちらのお姉様には指1本触れさせはしません。」
フィーナは毅然とした態度でそう宣言すると、視界に飛込んで来たシルヴァンを呼び寄せて自分のパワー不足を補った。彼女がしとめ損ねた敵に対し、シルヴァンが次々とトドメを刺して回る。いくらシルヴァンの気が弱いとは言っても、幼い従妹がその身を敵の刃の前にさらして頑張っている時に震えてなんかいられない。追ってラルファの正確無比な援護射撃が加わると、もう完全にこちらのペースだ。
こうしてこぼれた敵がせん滅されたのを見て、セシルは最後の仕上げに掛かった。
「そろそろ行こうか。」
「はい、セシル様。」
セシルはマリアを伴って、正面の敵に向って行った。
弱そうな少年が出て来たのを見て、近くの敵は標的をセシルに向けて来た。だが、2人で同時に襲い掛かかられては躱し切れないだろうと思われた次の瞬間、辺りが光り、一人はセシルに切り捨てられもう一人はマリアに文字通り命を奪われた。
「絶妙のタイミングだったよ、マリア。息がピッタリだったね♪」
嬉しそうなセシルに向けて、マリアは遠慮がちにしかし嬉しそうに微笑んで頷いて見せた。それに気を良くして、セシルはマリアと一緒に更に前進する。
こうして手を繋いで徘徊するリーダーとその恋人が戦場を一巡りした後、敵は全滅していたのだった。
「どうやら、片付いたみたいだね。」
セシルが元のポジションに戻ってくると、他の者達がそこに集結して来た。
「お疲れさま。それじゃ、シアルフィ城に戻って打ち上げパーティーしようか。」

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