若き戦士達の集い

-5-

〜戦士達の休息〜

シアルフィ城で、ささやかな宴が開かれた。
子供が多いとは言え少量のお酒も振る舞われ、共に戦った仲間達はそれを酌み交わして更に親睦を深め合った。
そんな中、アイリーンはシルヴァンの姿を目にすると、そっと近寄って言った。
「どうやら、ちゃんと戦えたようだな。」
「えっ?」
「先日は、弱気な者など足手まといだ、などと言ってすまなかった。」
「いいい、いいえ、その、気になさらないで下さい。俺も、あれで少しは奮起しましたから。」
「そうか。」
慌てふためくシルヴァンを置き去りにして、アイリーンはまたスタスタと兄達の居る方へと戻って行った。
「ちょっと、シルヴァン。今度はあの女に何を言われたんですの?」
「あの、えっと…。先日はすまなかった、って言われたんです。」
アレイナは驚いたようにアイリーンの後ろ姿を見た。
「…ちゃんと、謝ってくれたんですのね。」
アレイナは、思ってた程悪い人じゃないのかも、とアイリーンに対する認識を改めた。
そうしてアレイナは自分の行いを改めて反省し、アイリーンの元へ走って行くと少々言葉を交わして晴れ晴れとした顔で戻ってきた。そんなアレイナの元へセシルが近づいてくると、彼はアレイナの腕を掴んで、そのまま有無を言わさず会場の奥に位置する一段高い所に引っ張り上げる。
「さぁ、今回の作戦成功の最高殊勲者だよ〜。」
「はぃ?」
「僕は、今回の作戦が成功したのは、やっぱりあれだけの敵を一人残らず砦から引っぱり出して僕らの元まで誘導した彼女のおかげだと思うんだけど、皆はどう思うかな〜?」
会場から「異議無し」の声が一斉に上がる。
「と言うわけで、何か欲しいものとか、して欲しいこととかない?僕に何とか出来るものなら、用意するよ。」
「あの…、本当に何でもよろしいんですの?」
「うん。僕に都合出来ないものでなければいくらでも都合するよ。」
セシルの言葉にアレイナはパッと顔を輝かせた後、そっとリクエストを耳打ちした。
「えぇっと、それは僕の一存ではちょっと…。」
困ったような顔で、セシルはルーファスを呼んだ。
アレイナの奴いったい何を言ったんだろう、と訝しみながら招き寄せられたルーファスは、セシルがこっそり告げたアレイナのリクエスト内容に硬直した。
「…で、俺に皆の前でそれをやれってのか?」
「ダメかなぁ。」
セシルとルーファスが壇上のアレイナの方をそっと見ると、彼女は期待に胸を膨らませてルーファスの方を見つめていた。
「でもさぁ、もの凄い大活躍だったでしょ。そのくらいしてあげても罰当たらないんじゃない? 大体、彼女の気持ちを利用するだけ利用しちゃってさ。ちゃんと責任取りなよね。」
「ああ、もうっ、わかった、わかりました。やればいいんだろ、やれば。」
ルーファスは観念すると、セシルと共に壇上に上がった。
「えぇっと、それではアレイナ姫のリクエストにお応えして、彼女にルーファスからのお褒めの言葉とご褒美のキスを送りたいと思います。」
セシルが場内に向けてアナウンスすると、会場からは囃し立てるような歓声が上がった。
ルーファスは、内心穏やかでないものの表面上は平静を装って、アレイナの元へ歩み寄るとその肩に手を置いた
「よくやったな、アレイナ。見事な働きだったぞ。」
そうしてアレイナの額に今まさにキスしようとして目を閉じた瞬間、アレイナが伸び上がってその位置を唇へと変えた。会場からは大歓声の嵐が巻き起こり、ルーファスはとっさに離れようとしたものの、そんなことをしては余計に始末に困ると考えて踏み止まり、必死に動揺を押し隠した。
そうして見ている者にとっては短くルーファスにとっては長い時間が経過し、ルーファスがやっと解放されて目を開けると、彼の目の前には「大満足」と書かれたような笑顔を浮かべて会場に向けてVサインを出しているアレイナの姿があったのだった。

翌朝、ルーファスが一刻も早く国に帰るべく支度を整えていると、セシルがやってきてお茶に誘った。案内された先には、他の者達がほとんど集まっていた。打ち上げパーティーの2次会みたいなものである。
「2、3日ゆっくりして行けば良いのに。」
「そう言われても、長々と留守にしてる訳にはいかないしな。」
ロイヤルミルクティーをすすりながら、ルーファスは自分を待っているであろう光景を想像して溜息をついた。
「せめて、今日はゆっくり眠ってから帰った方がいいんじゃない?」
疲れをねぎらうかのような口調で言うセシルに、一番疲れが溜まっているのはマリオンなんじゃないだろうかと思って、ルーファスは隣のテーブルに視線を走らせた。彼は、まだボ〜っとした表情で濃い目のコーヒーをすすっている。しかし、自分は大して疲れるようなことはしてないしのんびりしている訳にもいかないし、などとルーファスが考えていると、セシルは楽しそうな顔でこう続けたのだ。
「だって、君、帰ったらまた徹夜で書類決裁することになるんでしょ?」
ルーファスは、危うく口に含んだものを吹き出すところだった。
「何故、そんなことを…?」
「えっ、違うの? 先日の君の連日徹夜の理由は絶対それだって、アリアンが言ってたんだけど。」
セシルは最初の会議の後、訳知り顔だったアリアンから茶飲み話で聞き出したのだ。
「アリアン〜、よくも我が家の恥をばらしてくれたな〜!!」
ルーファスは、ティーカップを置いて椅子から立ち上がるとアリアンの方を睨み付けた。
「あはは…、悪いな。セシル殿が、グランベルの美味しい特産品を荷馬車一台分くれるって言うものだから。」
美味しいものを貰ってくるように養父から言い付かっているアリアンが、それに釣られないはずがなかった。ルーファスは脱力しながら椅子に戻り、頭を抱える。
「どうして、お前はそう他人を懐柔するのが上手いんだ?」
「父上譲りで〜す♪」
その答えに、ルーファスは父達の話を思い出した。聞くところによると、セリスは戦中も戦後もとにかくアレスやナンナや他の仲間達を物や人で釣ってはいいように操っていたとか…。
「でもさ、僕は君のこと心配して言ってるんだよ。絶対、ちゃんと休んでから帰った方がいいって。」
面白がっているようだが心配しているのは確からしいので、ルーファスはその日一日のんびりと他の者達と歓談しながらお茶を飲んだり、フェリオとチェスをしたりして過ごすことにした。
そしてノディオンに帰城したルーファスは、予想を上回る書類の山を見て、自分が留守にしている間の父の怠惰ぶりを思い知らされたのであった。

- 了 -

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