若き戦士達の集い

-3-

〜2人の王女〜

各地の若き戦士達がシアルフィ城に続々と集まってきた。
そして今、ルーファス達を最後に参加者全員がここに終結した。
「遅くなって悪かったな。もう前哨戦くらいしたのか?」
飛びつくようにして出迎えたセシルを、ルーファスはベリっという音でも聞こえそうな動作で引き剥がした。
「ううん、まだ何もしてないよ。マリアたちも今朝方着いたところだし、それなら君の到着を待って作戦会議開いた方が良いと思ったんだ。」
イザークの者達をまとめて示す際に「マリア達」と言ってしまうあたりは正直と誉めて良いのかどうか難しいところである。
とにかくルーファスは後をアデリーヌに任せると、そのまま作戦会議へと向かった。会議の参加者は各地の世継ぎのみで構成され、ひとしきり案が挙がったところで最終判断はセシルに委ねられた。
そして最初の会議の結果は、まずは情報を集めることが基本ということで、ヴェルトマーの三姉妹及びシーフであるレイティアとリナが情報収集のために出かけて行ったのである。
「これでまたしばらくは待機だね。これからマリアとお茶するつもりなんだけど、一緒にどう?」
誘われた王子達の反応はまちまちだった。マリクはアイリーンと約束があるのであっさり断ったが、フレヴィとルディとアリアンは他の者の様子を探るようにしながら曖昧な答えを返し結局アリアンだけが誘いに乗ることになった。そしてルーファスはと言うと、こちらもあっさり拒否した。
「悪いが、一眠りさせてくれ。この5日間、碌に寝てないんだ。」
「駄目だよ、睡眠はちゃんととらなきゃ。」
まるで説教するかのような口調と表情のセシルをルーファスは軽く睨みつけた。
「よくもそんなことが言えたもんだな。俺が連日徹夜する羽目になったのはお前の所為でもあるってのに…。」
「えっ、僕、何かしたっけ?」
セシルはきょとんとした顔で首をかしげた。確かにルーファスの好きな本を置いては来たけど、あれを読むのに5日も徹夜する程のことはないだろうし、第一いくら好きでもそんなことをしてまで読むような性格ではないはずだ。
「忙しいって言ってるのに、父上を懐柔してくれたのは誰だったかな?」
「僕で〜す♪」
セシルは元気いっぱいに手を挙げて答え、そんなやり取りを見て、他の者達はクスクスと笑った。そして、アリアンが口を挟む。
「セシル殿を責めるのはお門違いだろ。恨むなら、怠惰な上に懐柔されてしまった父親を恨むんだな。」
「…確かに。」
言わなくても、アリアンにはルーファスが徹夜した原因がわかっているようだった。さすがはリーフの元で暮らしているだけのことはある。おそらくは、茶飲み話にでもアレスとナンナのことをいろいろ聞かされているのであろう。
ルーファスが苦笑して話を切り上げると、セシルはルーファスがゆっくり休めるように離れの部屋を用意するようフェリオに頼んでくれた。

会議の参加者達がぞろぞろと移動していると、庭の方から騒ぎが起きているような雰囲気が伝わってきた。
皆で庭に出てみると、人垣が出来てて騒ぎの中心は見えなかったが、声はかなりはっきりと聞こえてきた。
「あの声は…。」
2人の王太子が人を掻き分けて輪の中に飛び込むと、それぞれの脳裏に浮かんだことを裏切ることのない人物がそこに居た。
「剣を引け、アイリーン!」
マリクが毅然とした声で妹に命じた。その声に、アイリーンはアレイナの喉元に突きつけていた剣を鞘に収める。だが、それを見たアレイナが手をかけたままでいた剣を抜き放とうとした。
「やめろ、アレイナ!」
即座にルーファスの制止の声が飛び、アレイナは動きを止める。
そして、その場に居た者が揃って息をつくと、セシルがパンパンと手を叩きながら輪の中に入り込んできた。
「はいはい、見せものじゃないからね。関係者以外は散って、散って。」
セシルに追い立てられるようにして、その場に居た野次馬達は散って行った。そんな野次馬達をしばらく見送り、アリアン達を先に行かせてからセシルが改めて当事者達の方を向き直った。
「一体、何があったの?」
当事者2人は互いの兄の顔に気まずそうな視線を何度か流した後、ほぼ同時に口を開いた。
「その者がいきなりつかみ掛かってきたのだ。」
「その人がシルヴァンを侮辱したんですわ。」
かみ合わない証言にセシルは面食らったが、互いの兄達はこれだけで大体の事情を察するに到ったのだった。
「すまない。うちの妹は言葉がきつくて…。」
「いや、こちらこそ。なんとも気の短い奴で…。」
マリクとルーファスは、お互い申し訳なさそうに言葉を交わす。それを見て、アイリーンとアレイナは面白くなさそうに顔を背け、セシルは抗議の声を上げた。
「ねぇねぇ、2人だけで納得してないで、僕にもわかるように説明してよ。」
マリクとルーファスは顔を見合わせてから、交互に言葉を紡いだ。
「大方、アイリーンがそこの−シルヴァンだっけ?−彼に何かきつい言葉を掛けて…。」
「それを聞いたアレイナが割り込んでつかみ掛かって…。」
「アイリーンが冷ややかに振り払って…。」
「怒ったアレイナが剣に手をかけて…。」
「アイリーンが彼女の喉元に剣を突き付けた、ってところだろう。」
その光景が目に浮かぶようだ、と言わんばかりにルーファスが頷いて説明は終わりだった。
「しかし、アイリーンに剣を抜かせるとは大したお嬢さんだな。」
腕に覚えがあり自らの敏捷性にかなりの自信を持っているアイリーンが先に剣を抜いたとなるとただごとではない。しかも、彼女は『アイスドール』と呼ばれるくらいに感情が表に出ない性格で、他人に対して妙に冷めたところがある。そんな彼女が声を荒げ焦りで剣を抜いてしまう程、アレイナの気迫が凄まじかったということだ。しかし、この場においてルーファスはそれを素直に喜ぶわけにはいかなかった。
「何にしてもだ、あまり騒ぎを起こすなよ。これは、お前が出しゃばる問題じゃない。」
ビシっと叱りつけるルーファスに、アレイナはシュンとした表情を見せた。
「それから、シルヴァン。お前、もう少しでいいから堂々としてろ。せめて、アレイナが完全に爆発する前に、自分で言い返すかアレイナを止めるかしてくれ。」
「ははは、はい!」
急に声を掛けられたシルヴァンは立ち上がって直立不動の姿勢をとると、心臓が飛び出しそうな勢いで慌てて返事をした。
「アイリーンも、言動に気をつけろ。それから、友軍相手に剣を抜くことのないように。いいな?」
「わかった。」
素直に返事をするアイリーンを伴って、マリクはその場を離れて行った。
とりあえず大事には到らずに済んで皆でホッとしていると、ルーファスの腕をつつく者が現われた。フィーナである。腕の中にチェスセットを抱えていた。
「すまないが、俺はこれから一眠りするから相手出来ないぞ。」
「いえ、あの、お姉様にお相手して頂きたいのですけど…。」
アレイナがアイリーンと衝突したのを見て取るなり、彼女はオイフェの元にチェスセットを借りに行ったらしい。確かに、アレイナの頭を冷やし大人しくさせておくにはもってこいの代物だ。
アレイナを連れて行っても良いかどうか伺いを立てるフィーナに、ルーファスはこれでどうやらゆっくり眠れそうだと思いながら、アレイナの身柄を引き渡したのであった。

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