若き戦士達の集い

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〜旅立ち〜

シレジア城にセリスから1通めの親書が届いた時、セティは当事者達に話すことなくあっさりと不参加の返信をした。それは、事がグランベル国内の問題に過ぎず、シレジアから遠路はるばる援軍を出す必要性を感じなかったからだ。
しかし2通めの親書と前後して、ヴェルトマーからも親書が届いた。その結果、セティはフレヴィとシルフィアを呼び出したのだった。
「…と言う訳なんだけど、行ってみるかい?」
話を聞いたフレヴィは、少々考え込んでから斜め後ろに控えるように立っていたシルフィアをちらりと見てから答えた。
「シルフィと一緒なら行きます。」
「勿論、彼女にも行ってもらうつもりだよ。」
セティがそう答えると、傍らでティニーも微笑みを浮かべて頷いた。
「どうかな、シルフィア?」
「勅命、謹んでお受け致します。」
意向を伺うセティにシルフィアは淡々と答えたが、途端にその場に居た3人が揃って溜息をついた。その様子にシルフィアはおろおろとしながら、フレヴィの方を見た。
「あのね、シルフィ。父上は君に僕の護衛を命じてるわけじゃないんだよ。」
「えっ、あの…。」
「君は、ヴェルトマー公女として参加するんだ。実家からも要請が来てるしね。」
「ですが、私は天馬騎士団に入る時にその名を捨てて…。」
「だからと言って、家族の縁まで切れたわけじゃないだろ? 大体、あんなの建て前だし。」
「そんな…。」
「久しぶりに里帰りしなよ。で、ついでに皆にシレジア天馬騎士の優秀さを見せつけてやるのもいいね。だから、一緒に行こう。」
「…はい。」
戦闘がついでなんですか? と顔に書いた状態で小さく頷くシルフィアに苦笑しながら、セティとティニーは2人をグランベルへと送りだした。

イザークでも、子供達の旅立ちには一騒動あった。
最初はシャナンもイード砂漠を超えるほどの大事には感じられなかったので断ったのだが、再度親書が来た時にはセリスと同様に子供達の親睦を深めるのに良いかと思い直したのだ。
しかし、いざ出発となると簡単にはいかなかった。普段から身軽に立ち回っているマリクとアイリーンとラシャの支度は簡単だったのだが、滅多に外に出ないマリアとそんな妹を全てにおいて優先させているマリオンの支度が一向に進まなかったのだ。
今回は普段と違って行き先がバーハラ城ではなく屋外で、しかも戦闘を行う予定である。いくら何でもドレス姿で行くわけにはいかないだろう。
マリアは母が昔着ていた服と同様のものを何着か急ぎで仕立ててもらう一方で、他にどんなものを持っていけば良いのか両親にいろいろ相談した。
「『リザイア』と『ライブの杖』があれば、戦力として問題ないよ。」
「それに、セシル王子がマリアを前線に出すとは思えませんし…。」
こうして、後は身の回りの必需品を詰め込めばマリアの支度は完了というところまで来て初めて、マリオンの支度が手付かずになっていることに気づいてソファラ城は大騒ぎになった。
そして出発寸前に慌てて支度をしたマリオンは、持って行く予定だった剣を1振り取りこぼしたのだった。

トラキアやヴェルダンの子供達の旅立ちは実に簡単なものだった。
そもそもトラキアの子供達の場合、アリアンはデュークナイトでアリシアはドラゴンナイトなので、移動力に問題はない。その上、2人とも視察や偵察・連絡などで普段から国内を徘徊しているから最小限の手荷物はいつでもまとめられている。
遠いからと断っていたリーフが謝礼につられて2人の参加を決めてしまえば、その意向に従ってグランベルに向けて旅立つだけだ。
「グランベルで美味しいものを見つけたら、ついでに貰ってきてね。」
にこやかにそんなことを言う国王に見送られながら、必殺の槍を手にした2名の若い騎士はトラキア大陸を後にした。
一方ヴェルダンはと言うと、間に砂漠や海があるわけでもなく親同士が実に深い血縁関係を持っているため、親子とも普段から何かと隣立しているユングヴィ公国へ出入りしているのである。
ルディもレイティアもその気になればいつでも参加出来るのだが、だからと言って「はい、そうですか」とあっさり話をしたりはしない。そこはヴェルダンの『歩く家計簿』と呼ばれ陰ではユングヴィの国庫管理も行っていると噂されるレスターのこと、志はビジネスに優先しても友誼は優先しないのである。
「割の良いバイトの口が見つかったわよ〜。」
こうして、2通目の親書を受け取った両親に呼び出されたルディとレイティアは、母の言葉に従ってグランベルへと出稼ぎに行くことになった。
「2人ともうまく立ち回るんだよ。経験値もお金も、稼ぎは皆に適当に回してあげないと恨まれるからね。」
損して得取れの精神を胸に、ルディは新品の『鉄の弓』と父から借り受けた『シーフの腕輪』と『勇者の弓』を、レイティアは母から受け継いだ『風の剣』をしっかりと握り締めたのだった。

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