グランベル学園都市物語

第41話

卒業式の後、ラクチェはいつものようにシャナンの道場へ練習に向かった。
いつものようにシャナンに稽古を付けてもらい、一汗流して帰ろうとすると、シャナンに呼び止められた。
「ラクチェ、卒業おめでとう。」
その言葉と共に、シャナンは小さな箱を差し出した。
「私からの卒業祝いだ。」
開けてみると、中には朱玉のイヤリングが入っていた。
「気に入ってもらえると良いのだが…。」
照れくさそうにシャナンが言ってる間に、ラクチェはさっさとイヤリングを付け替えていた。
「似合いますか?」
「…とても良く似合っている。」
シャナンは目の前に回り込んできたラクチェの姿にドキリとした。アイラのお古のイヤリングをしてた時はどこか背伸びしてるような感覚もあったのでまだ良かったのだが、自分が贈ったイヤリングを嬉しそうに付けてる姿に年相応の美しさを感じ、つい抱きしめたくなってしまう。似合いそうだと思って贈ったのはいいが、ちょっと早まったかなという気がして来た。
「どうしたんですか、シャナン様?」
「いや、あまりに似合っているものだから…。」
まさか、似合い過ぎて理性のブレーキが危うくなってるなどとは言えなかった。
「ありがとうごさいます!!」
あろうことか、ラクチェはシャナンの葛藤など知らずに首に抱きついて来た。
シャナンはついラクチェをそのまま抱き寄せてしまい、ラクチェの顔を上げさせて唇を重ねようとして我に帰った。さっと手を離すことも出来ずに顔を反らしていると、胸の辺りから声がした。
「シャナン様。やっぱり、私の事まだお子さまだと思ってますね?」
「えっ?」
「構わなかったのに…。」
改めてラクチェの顔を覗き込むと、拗ねたような目でシャナンを見ていた。
「本当にいいのか?」
「わざわざ確認しないで下さい!」
怒っているような物言いだが、シャナンはそれを肯定の返事と受け取った。改めてラクチェの顎に手をかける。
「お子さま扱いも卒業だな。」


「今日は卒業式だったそうだな?」
「ええ。」
セティは家に帰るなり父親に出迎えられてしまった。
「卒業式って、こんなに遅くまで掛かるようなものなのか?」
「そんなことはありませんが、式が終わってからまっすぐ帰宅する義務なんてないでしょう?」
「つまり、彼女とデートしてたわけか。」
図星である。
セティは卒業式の後カフェテラスでティニーを待っていた。彼女が式の後に生徒会の引き継ぎを行うことはわかっていたので、それが終わったらデートしようと待ち合わせをしていたのだ。
卒業式が終わったのは12時近くだった。ティニーはいつものように3人でお弁当を食べ、他の者もそれぞれ昼食を取ってから生徒会室に集合した。そして引き継ぎを終えたティニーがカフェテラスにやって来たのは、3時半過ぎになっていた。
それから2人は中央エリアへ出て、デートして来たのだ。
「楽しんで来たか? 今日は何処まで行ったんだ?」
「あなたには関係ありません。大体、どうして最近は頻繁にお帰りになるんですか?」
やたらと詮索好きな父親に腹を立てて、セティは常々思っていた疑問をぶつけた。
「そりゃ、気ままに旅をしてるよりお前をからかう方が楽しいからに決まってるだろ。」
セティは何も言い返せなかった。
「悪趣味ね、お父様って。」
脇からフィーの声がした。
「でも、お兄ちゃんには悪いけど、お母様やお祖母様はお父様が帰ってくると喜ぶから許してあげる。」
「お前ももうちょっと犠牲になってみれば、気が変わると思うよ。」
フィーも時々からかわれてるはずなのだが、被害にあう率は圧倒的にセティの方が高かった。
「こんな時間までデートしてて、お父様にネタを提供するから悪いのよ。」
フィーの方は、アーサーとクラスが一緒ということもあって放課後にデートすることは殆どなかった。あってもただちょっと寄り道してただけなのかも知れなくて良くわからないのだ。休日に、買い物に出掛けたのと区別が付かない程度にデートしてることもあったが、本当に趣味のウインドウショッピングに出掛けてることも多かったので、レヴィンとしてもからかうきっかけを逸していた。
「卒業しちゃったら連絡が取りにくくなるから、こんな遅くまで一緒にいたかったのはわからないでもないけどね。」
同じ校内にいれば、それこそ何処かで会える機会だってあったし、イシュタルを介して連絡を取ることも容易だった。だが、今度はイシュタルと学部が別れてしまっている。履修科目だってバラバラだから、大学の中でイシュタルを見つけてティニーへの連絡を頼むだけでも一苦労だ。
「アーサーなんて、これでティニーをお兄ちゃんの毒牙から守れるって、小躍りして喜んでたわ。」
「何だと〜!?」
「ああ、ちゃんと殴り倒しておいたからね。」
「そうか、よくやった。」
しかし、解決にはなっていない。セティとティニーの間に立ち塞がる壁は依然として強力だった。

- 卒業編 完 -

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