第40話
3月1日。グランベル学園高等部では卒業式が執り行われた。
3年生達は全員無事卒業し、式の後で生徒会室では生徒会の引き継ぎが行われた。
来年度の生徒会長はリーフに決まった。副会長・会計・書記はそれぞれナンナ・パティ・ティニーが務めることとなった。ナンナはリーフが会長に立候補したことでお目付役として白羽の矢が立ち、パティは自ら率先して立候補し、その結果ティニーも巻き添えで駆り出されたという結果である。
「リーフが暴走しないように、しっかり見張っておいてね。」
引き継ぎの際、それぞれの後継者にいろいろレクチャーした後で、セリスはナンナのところへ来てよくよく頼んでいった。
「あ〜、酷いですよ、セリス様。」
リーフは不満そうに言ったが、それに続くイシュタルの言葉でセリス共々押し黙った。
「そうね、リーフは最近セリス様と似て来たもの。セリス様と同様に外面よくて内部で我が侭放題に振る舞るまうかもね。シアルフィ家の血のなせる業かしら?」
セリスは、何も知らないティニーの前で本性を暴露されて慌てた。幸い、彼女はスカサハからの引き継ぎに一生懸命になっていて気付かなかったようだが、危うくまた1人本性を知る人間が増えてしまうところだった。
そして、内部の姿を良く知る身内であるところのリーフとしては、セリスに似ていると言う言葉はかなり堪えた。
「…大丈夫だよ。書記は話の矢面に立たされたりしないから。友達を信じてればいいんだ。」
2人の友人に引き摺られて書記の座に付いたけど、ティニーはちょっと自信がなかった。そんなティニーを、スカサハは仕事の流れを教えた後、一生懸命励ました。
「ティニー、大丈夫よ。リーフは対外的には立派な生徒会長として振る舞えるようだから。内部で暴走してもナンナがうまく止めてくれるらしいから安心しなさい。」
「はい、姉様。頑張ります。」
2人掛かりで勇気づけられて、ティニーは少し前向きになった。
そして会計の引き継ぎについては問題なかった。
「パティ、後は頼む。」
「任せておいて♪」
引き継ぎを終えて、生徒会室では新旧生徒会役員によるお茶会が催された。
「でも、レスターが商学部ってのは意外だったなぁ。」
「そうか?」
パティは漠然と、レスターが経済学部へ進むのかと思っていたのだ。
しかし、会計士を目指すレスターは商学部へ進むことにした。税理士とどちらにしようか迷いはあるが、どちらにしても進む学部は変わらない。
「セリス様はどちらへ進まれるんですか?」
「あれ? リーフに言ってなかったっけ? 医学部だよ。」
これには、新生徒会のメンバー全員が驚いた。いや、旧役員も初めて聞いた時には驚いたのだ。
「セリス様が、お医者さんですか〜!?」
「いや、ちょっと違うんだ。」
セリスは医学者になりたかったのだ。中でも、遺伝関係に大いに興味があった。
「ロプトの遺伝子を消し去る方法なんて研究できたらいいね。」
そう言われると、なんとなくセリスの進路に納得いく気がしてしまう。でもその場合、自分の身体を実験台にするつもりなんだろうか。イシュタルは、ユリウスや将来生まれてくるかも知れない自分達の子供が実験台にされるのだけは絶対に阻止しようと心に誓った。
「イシュタル姉様は、工学部でしたよね?」
「ええ、情報システム工学科よ。」
これには誰もが納得してしまった。
既にイシュタルは独自の情報網をもって様々な活動をしているらしいから意外性は少なかった。人を使っての情報網を構築して来たイシュタルが、更にシステム的なことにまで手を広げようとしても違和感はない。
「ところで、スカサハ先輩は?」
「…健康科学部社会福祉学科。」
聞いた者はしばし沈黙するという謎の学科だった。文字を見ると何となくイメージが湧くものの、言われた瞬間は頭が真っ白になってしまうのだ。
「…ところで、ティニー。セティ様がどこへ進むのかは聞いたの?」
苦し紛れに、パティは話題を変えることにした。
「え? セティ様ならやっぱり音楽科じゃないの?」
「でも、いずれは財団のトップになるんでしょ。だったら経営とかの方かも知れないじゃない?」
ナンナの意見もパティの意見もそれぞれあり得ることだった。
「ああ、セティなら…。」
「教養学部芸術課程音楽科弦楽器専攻です。」
イシュタルの言葉を遮るように、ティニーは自信を持ってセティの進路を答えた。