グランベル学園都市物語

第19話

体育祭が終了すると、もう中間試験は目の前だった。
テスト直前の日曜日、ナンナ達は1学期と同じように3人でテスト勉強をしようかと計画していたのだが、ティニーがあっさりキャンセルし、ならばとパティも抜けてしまった。2人とも、恋人に教えてもらう方を選んだのである。
「いいわよねぇ、上級生の恋人がいる人は。」
ナンナの場合、相手は更に年上なので一緒にテスト勉強するわけではなくバイトに精を出していた。
「私もアレスに教えてもらいたかったなぁ。」
溜息をつきながら、ナンナは教科書と向かい合った。
ナンナがだらだらとテスト勉強をしていると、玄関に誰か来たようだった。
「アレス様、いらっしゃいませ。突然どうなさいました?」
「ああ、バイトが早く引けたんで、ナンナに陣中見舞いでこれを持って来たんだ。」
アレスはフィンに鯛焼きを手渡した。
今日のアレスのバイトはバイク便である。バイト料は基本的には件数性で、近場で同じ方向に適度にまとまった数の仕事があると早く終わるのだ。何しろ、全員がそのことを知ってるため、効率良く伝票と荷物が捌かれるのだから。誰だって、バイト料が同じなら早く帰れる方がいい。
「中でお茶でも如何ですか?」
「いや、邪魔しちゃ悪いから…。」
「邪魔なんかじゃないわよ。是非、上がって行って。」
帰りかけたアレスをナンナが呼び止めた。
「お前、試験勉強が忙しいんじゃなかったのか?」
「そうよ、だから上がって行ってちょうだい。」
ナンナの答えに、アレスは首を捻った。忙しいから上がってけ?
「もう、煮詰まっちゃって。だから、臨時の家庭教師してちょうだい。」
「臨時の家庭教師ねぇ。その言い方だとバイト料が出るみたいに聞こえるな。」
どうせ出る訳ないよな、と思いながらタダ働きでもやってやろうじゃないかと上がり込んだアレスだったが、ナンナはあっさりと「成功報酬だけどね」と言って微笑んだ。


 

とりあえず、アレスの持って来た鯛焼きで一息付くと、ナンナはアレスを連れて自室へ上がった。
「で、何が煮詰まってるって?」
「これよ、これ。」
ナンナが差し出したのは、数学の教科書だった。
「俺は一応文系なんだぞ。」
「でも、経験者でしょ。」
そんなこと言われてもアレスがその教科書を使っていたのは5年も前のことで、細かいテクニックまで覚えてなんかいなかった。しかし、幸いにもナンナはちょっとした迷路にはまり込んでいただけだったので、アレスが問題を見てすぐに思い当たった解法で乗り越えられると、後はスムーズに事が運んだ。
「次はこれね。」
そう言ってナンナが差し出したものは、理科の問題集。しかも、物理のページだった。
「だから俺は文系だって。」
「でも経験者。」
ナンナに押し切られるようにして、アレスは渋々と問題集に目を落とした。電池の直列・並列の電圧計算や、入り組んだ接続の電球の明るさ比較の問題などが並んでいた。
「これくらいなら、何とかなる。」
「そう?良かった。じゃあ、この問題どうすればいいのか教えて。」
電池がいろいろ入り組んだ形で並んでいて、3つの電球のうちでもっとも明るく点灯するのはどれか?
アレスは、ナンナが指差した問題を単純化したケースに分解して解説していった。電球にA・B・Cと振ってあるのでそれぞれ他の電球を無視して、Aにくっ付いてる電池が直列にして何個分でBが何個分でCが何個分でという説明に、ナンナは「あら、線をなぞって電池を数えれば良かったのね」と拍子抜けした。
「じゃあ、次はこれをよろしくね。」
同じ問題集の生物のページ。
「だから俺は…っと、もうこうなりゃ何でも教えてやるよ。」
アレスは開き直った。

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