グランベル学園都市物語

第20話

アレスが辛うじて家庭教師の役目を果たしていると、リーフがやって来た。
「図書館の帰りなんだけど、外にアレス殿のバイクを見つけたんで寄ってみたんだ。」
「何で俺のバイクがあると寄るんだ?」
「ナンナに妙な真似をしないように見張るために決まってるでしょう。」
やっと失恋の痛手から立ち直ったリーフは、アレスを認めはするけど諦めないし兄代わりとしてはナンナに節度を超えた行為は許さない、と心に誓った。
「まぁ、いいか。お前の方が記憶に新しくて役に立つかも知れないしな。」
アレスはあっさりと勉強会へのリーフの参加を認めた。ナンナも、実は邪魔だと思ってもこれを断る口実が見つからなかったので、リーフを招き入れた。
「それで、どこがわからないって?」
「ここ。」
遺伝性の病気の発症の話だった。
ナンナは、病気の遺伝子が入っていて発症すること自体には疑問を持たなかった。逆に、入っているのに平気だったり発症したりするケースがよくわからなかったのだ。
「そんなの、パターンは決まってるんだから丸暗記しちゃえば…。」
「そういうものなんですか?」
ナンナはリーフに疑惑の目を向けた。
「まぁ、確かにそれも一つの手ではあるな。」
アレスはそう言いながら、X・Y・X~の下に○・ロプト・ロプトと書いた紙を示した。
「YやX~に含まれる他の情報が違っていても、ロプトが揃うとロプトウスが復活するんだ。」
そう言ってアレスは次々とパターンを紙に書き付けて行った。
ロプトが揃うとロプトウスが復活する。X~X~でもX~Yでも。
父親が違っても同じ母親から受け継がれたロプトの血を継いだ者の中にロプトウスが復活する。先年こっそり流れたある噂の通りである。
それを繁々と見ていたリーフは、ナンナ共々納得してしまった。


 

「こっちのも同じようなことなのかしら?」
ナンナが指し示したのはABO式血液型の話だった。
「えっ?これ、どこか悩むようなところあったか?」
「AAとかBBとかOOとかABがそれぞれA,B,O,ABになるのはわかるんだけど…。」
ナンナは、どうしてAOやBOがA,Bになるのかがわからなかった。
「そりゃ、AとかBの方がOより優性だから…。」
「こらっ、嘘を教えるんじゃない!」
アレスはリーフを小突いた。
「AとかBっていうのは血液中に含まれる要素のことなんだ。だから、持っている要素の名前が血液型になっている。」
A型はAの要素を持っている。B型はBの要素を持っている。AB型はAの要素とBの要素を持っている。そして、これらの要素無しをOと言っている。
アレスは説明しながらメモに書き付けたが、ナンナは「A要素?B要素?」と首を捻るばかりだった。
「わかったよ。説明の仕方を変えよう。ただし、機械的に聞けよ。」
そう言ってアレスはいきなりリーフの首根っこを掴むとナンナの前に押し出した。
「こいつの父親と姉は地槍ゲイボルグを使えるが、母親とこいつは神器を使えない。ここまではいいか?」
「いきなり、うちの家系図を確認してどういうつもりなんですか?」
「いいから、黙ってろ。ここまでは理解出来るか?」
理解も何もあったもんじゃないので、ナンナは頷いた。すると、アレスはリーフから手を放して、『ゲイボルグ』&『資格無し』・『資格無し』&『資格無し』という文字を2組書き付けた。
「『ゲイボルグ』は地槍ゲイボルグを扱う資格とする。血液中にこれを持ってると地槍ゲイボルグを振るうことができる。ここまでいいか?」
ナンナは頷いた。
「つまり『ゲイボルグ』を2つ揃いで持ってなくてもあの神器を扱える。地槍ゲイボルグが使える者を『地槍型』と呼ぶとすると、見た目上は使えるか使えないかのどっちかでしかないから、こいつの父親と姉は『地槍型』だ。ここまでいいか?」
ナンナはまた頷いた。
「ではここで、最初に戻ってこの資格をA要素、資格無しをOと現わすと考えると…?」
「あ、そうかぁ。だから、AOがA型になるのね。」
ナンナはやっと要素のあるなしの話が納得できた。
「今の話なら何もわざわざ私を引き合いに出さなくても、自分の家系で説明すればいいじゃないですか?」
リーフは不満そうに言った。説明内容には納得できたのだが、それをレンスター家の人間で説明する必要はないと思われた。
「俺の家系、って俺とナンナの子供で説明して欲しかったのか?それはちょっと無理があるだろう。まだ生まれてないんだから。」
しゃあしゃあと自分とナンナの仲を当てつけてアレスは言い返した。
「エルトシャン様とあなたとあなたの母上で説明すればいいでしょう、と言ってるんです!」
「俺は一人っ子だ。」
今の説明にはA型の親からO型の子供が生まれる仕組みについての説明も併せてできるという利点があった。そのためには、リーフは身近にいた好物件だった。
「う〜ん、でもこれでやっと謎が解けたわ。」
「そいつは良かったな。」
ナンナは、先程リーフに当てつけたアレスの問題発言は聞いていなかったらしい。
「ええ、それじゃぁ最後にこれもお願いね。」
そう言ってナンナは化学の問題集を開いた。

前へ

次へ

インデックスへ戻る