グランベル学園都市物語

第18話

特別賞としてボーナスポイントを貰ったナンナのおかげでAクラスチームが体育祭で優勝した後、放心状態で家に帰り付いたリーフは寝込んでいた。あの借り物競争の時のナンナの叫びがショックだったのだ。てっきり、ナンナが一生懸命フィンから料理などを習っているのは自分のためだと思っていたのに、アレスのためだったなんて。
しかし、そんなリーフに家族は冷たかった。
「だから無駄なことはやめなさいって、母上が仰ってたでしょう?」
「姉上は御存じだったのですか?」
「ええ。あなたにも何度も言ったはずですよ。」
いろんな者がリーフに忠告した。ナンナ本人からも遠回しに振られていた。しかし気のせいだとかナンナが照れてるだけだとか思って、リーフは本気にしなかったのだ。
だが、あの出来事は決定的だった。あれだけ派手にやった挙げ句、特別賞を授与する時セリスが借り物の内容をバラしたため、アレスとナンナのことは全校生徒及び応援に来ていた人達の間で公認となってしまったのだ。
「これを機に、女性の扱い方を勉強し直すことですね。」
「姉上、冷たい〜。」
最初の頃こそ、ナンナに振られた弟が不憫で慰めてやろうと思っていたアルテナだったが、振られたと認識出来るまでにこれだけ時間を掛けられると、呆れて優しい言葉の一つも出て来なかった。
「だいたい、女性の扱い方って何なんですか?」
リーフはナンナを粗雑に扱った覚えはない。アレスと違って、ナンナを苛めたこともなかったし、一緒に暮らしていたこともあるだけにナンナの好みやその他いろいろ良くわかっているつもりだった。それなのにどうして、ナンナは自分じゃなくてアレスを選んだのかわからなかった。
「そんなことは自分で学びなさい。」
アルテナがリーフに言えることはそれだけだった。
それこそ恋愛は理屈じゃないのだ。ナンナがアレスを選んだのも、自分が秘めた恋をしているのも。論理立てて説明出来るくらいなら、アルテナは苦しんだりしてないし、リーフだって今泣いたりすることはない。
姉の冷たい対応にリーフが頭からすっぽりと布団をかぶってしまうと、アルテナはダイニングルームへ降りて行った。そこではキュアンがお茶を飲んでいた。
「どうだった?リーフの様子は。」
「不貞寝してます。」
「そうか。」
キュアンはそれだけ言うと、またのんびりとお菓子に手を伸ばした。
「それだけですか?こういうときこそ、父上の出番なのではありませんか?」
「う〜ん、でも私は振られたことがないからなぁ。」
そう言ってキッチンのエスリンに視線をやる父の姿に、アルテナは期待した私がバカだったのかと頭を抱えた。


 

フィンとラケシスに誘われて一緒に夕食を食べることとなったアレスは、彼等の家に招待された。すぐに支度ができるけどそれまでは適当に寛いでて欲しい、と言われたのでアレスはナンナに誘われるままにナンナの部屋に上がり込んだ。
道中は大人しくしていたナンナだったが、部屋でアレスと2人っきりになったとたん被り物のネコを脱ぎ捨てた。
「もうっ、あなたのおかげで大恥かいたわよ!」
「それはこっちのセリフだぞ。放送なんか掛けやがって。」
「あなたが姿をくらませたのがいけないんでしょ!!」
「うっ…。」
しかし、そのおかげで優勝できたことも事実だった。もしあっさりアレスを見つけだせたとしたら入る点数は1位の順位点だけである。それでは奇跡の大逆転は不可能だった。あのボーナスポイントがなければAクラスチームの優勝はなかったのだ。
「でも、ちょっと気が楽になったわ。」
「えっ?」
これでナンナはリーフに何て打ち明けようかと悩まずに済む。会う度に遠回しに遠回しに自分にはもう恋人がいるのだと話しているのに一向にわかってくれないリーフに、こうなりゃはっきりきっぱり言ってやろうかと思っていた矢先の事件だった。だが、今度こそリーフもちゃんと理解しただろう。
「じゃあ、また弁当作ってくれるのか?」
「あなた、お弁当だけが目当てなの?」
「いや、ナンナと弁当のどちらかを取れと言われたら、迷わずお前を選ぶけど。」
「迷われてたまるもんですか!?」
ナンナはアレスの腕をつねった。
「痛ッ。でも悪かったな、ちゃんと応援してなくて。」
「まったくだわ。でも最後にはちゃんと駆け付けてくれたから、許してあげる。」
ナンナはつねっていた指を放すと、その腕を抱き込んだ。
「夕飯だって何度呼んだら…っと、あら、お邪魔さま。」
飛び込んで来たラケシスは慌ててドアを閉めると走り去った、かのように見せて、こっそりナンナの部屋の前まで戻って来てドアに耳を付けた。
程なくして、フィンがラケシスの肩を掴んで引き剥がした。
「ナンナ達を呼びに行ったきりなかなか戻って来ないと思ったら…。はしたないですよ。」
「あら、フィンは気にならないの?」
「そりゃ、まぁ少しは。でもダメですよ、盗み聞きなんて。」
そう言うとフィンはラケシスの腕を引いてその場を離れようとした。
「やだぁ、放してよ〜。続きが気になるじゃないの〜っ!」
ラケシスはフィンの手を振りほどくようにして、再びドアに耳を付けた。
そのとたん、ドアが勢いよく開けられた。フィンはとっさにラケシスを抱え上げて飛び退った。しかし部屋のドアは内開きだったので、そのままでもラケシスが跳ね飛ばされることはなかった。そのことに気付き急いで下ろそうとした時、ドアの反対側から廊下を覗いたナンナがフィンに救われたラケシスを見て残念そうに呟いた。
「あら、お父さまったら余計なことをなさいますわね。」
「何だ、勘づかれたのか?」
ドアの陰からアレスが現われた。
「そう簡単には転がらないものなんだな。」
だが、もしあのままドアに耳を付けていたなら、勢い良くドアが開かれた拍子にラケシスは戸口の床にベタンっと転がっただろう。
「何よ〜、ひどいじゃないの2人共っ!」
フィンの腕の中からラケシスは抗議したが、賛同してくれるものは一人もいなかった。
「今度ばかりは、私もあなたの肩を持てそうにありません。」
「ひどいわ、フィンまで〜。」
ラケシスはシクシクと泣き出した。しかし、それが嘘泣きであることなどそこに居る誰にもお見通しだった。だからと言ってこのまま嘘泣きを続けさせてるわけにもいかないので、フィンは困ったような笑みを浮かべてラケシスに言った。
「夕飯が冷めてしまいますよ。」
「まあ、大変。早く行きましょう。」
ラケシスはあっさり泣き止むと、フィンの腕から飛び下りてそのまま腕を掴んで食卓へと急いだ。
「さすがはお父さまだわ。」
「それより俺達も夕飯…。」
感心して見送ってしまった2人が慌てて食卓へ駆け付けた時は、フィンが前もって取り分けておいてくれたものを除いて、殆どの料理がデルムッドに食い尽されるかラケシスの皿に盛られるかしていた。

- 体育祭編 完 -

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