グランベル学園都市物語

第14話

レンスターガードの社長室で、フィンはスケジュール調整のためにカレンダーを眺めながら溜息をついていた。
「どうした、フィン。具合でも悪いのか?」
「いえ、別にそのようなことは・・・。」
キュアンが心配してくれたが、フィンは気が重いだけで身体の方は何ともなかった。
「あら、もうそんな時期なのね。」
「え?そんな時期って何のことだい、エスリン?」
「運動会シーズンよ♪」
それでキュアンはフィンが溜息をついていた原因を察した。
運動会シーズンと言えば、グランベル学園でも体育祭が催される。そしてその時期になると異常なまでに張り切る人間がフィンの家には1名いるのだ。
この時期、デルムッドはやたらと燃えている。何故なら、彼は応援団に所属しているのだ。しかし、この学園都市内には各等部1つずつしか学校が存在しないため、対外試合などない。高等部応援団の出番は、中等部や大学部との対戦の時くらいしかない。そこで、クラス対抗だろうとなんだろうと応援する機会が有れば、応援団員は率先して自らの属するグループを応援し、にわか応援団を指導するのだ。
そしてこの時期のデルムッドは、普段の倍以上の食事を平らげる。団長になっている今年は例年よりも更に張り切っており、食欲もそれに比例している。
「リーフが最近帰りが遅いのも、体育祭と関係あるのかなぁ?」
「ナンナちゃんにいいトコ見せたいのかも知れないけど、今さら張り切ってもねぇ。」
実は、エスリンは既にナンナに恋人がいることに気付いていた。しかし、リーフは気付いておらず、ここでいいトコ見せて差し入れ弁当を貰おうと放課後クラスメイトとリレーの練習に励んだりしている。無駄だと言ってやってるのだが、全然わかってない。
「・・・申し訳ありません。」
ナンナがリーフを振ってしまって尚リーフに望みを持たせたままでいることが申し訳なくて、つい謝ってしまったフィンだった。
「おいおい、お前が謝ることじゃないだろう。」
「そうよ。ナンナちゃんがリーフを選ばなかったのはあなたのせいじゃないし、ましてやナンナちゃんだって悪くはないわ。」


 

いよいよ高等部の体育祭が明日に迫った。生徒会室は大騒ぎだ。
「セリス様。御自分で借り物の設定をさせろと言い出されたのでしょう?早く書き上げて下さい。」
イシュタルに急かされて、セリスはメモ用紙の前で頭を抱えていた。
そもそも借り物競争の借り物は実行委員が適当に決めるはずだったのだが、変わった物の方が面白いとセリスが口出しした結果、セリスが全部決めることになったのだ。最初こそ面白がって「学長の詩集」とか「どらやき」とか「ラブレター」などと変な物を書いていたセリスだったが、すぐにネタが尽きてしまった。
「イシュタルも手伝ってよ。」
「ダメです。横やりを入れて引き受けた以上、責任を持ってお一人で書き上げて下さい。」
ティニーも出ることになってるのに変な借り物にされるとわかった時点からイシュタルはセリスの手元を見張っているが、決して手伝おうとはしなかった。今も他にするべきことがないのをいいことに、ずっとセリスにプレッシャーを掛け続けている。本来仕事熱心な彼女は、担当の仕事がなければ後ろで忙しく動いているレスターやスカサハを手伝ったりするはずなのだが、セリスが書いた妙な物のせいでティニーが泣いたりしないように、すべての借り物を入手可能にするべく見張っているのだ。代わりに無難なものを書けばいいのかも知れないが、それではセリスが楽をしてしまうので時間切れ寸前まで手伝うまいと心に決めていた。
「あの〜、すいません〜。生徒会のテントのことで・・・。」
セリスとイシュタルの睨み合が続く中、入り口から実行委員の一人が声を掛けて来た。
「あ、イシュタルは手が空いてるよね。ちょっと行って来て。」
助かったとばかりに言うセリスにイシュタルはムッとしたが、状況的に今一番手が空いてるのは確かだし本来こういった管理・調整的な仕事はイシュタルの受け持ちだったので素直に実行委員と一緒に校庭へと出ていった。
残されたセリスは、ちょっとホッとしたのも束の間、借り物メモを前にして頭を抱え直した。

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