グランベル学園都市物語

第15話

高等部体育祭当日。
この日は休日のため、応援には生徒の家族・親戚などもやってきて、応援席は大変豪華な顔ぶれとなった。
「もうっ、アレスったら何処にいるのよ。もうじき私の出番が来ちゃうのに。」
ちょうどバイトもないことだし応援に行ってやる、と言ってたのにアレスの姿は見当たらなかった。そうこうしているうちに、ナンナの出場する最初の競技である100m競争は終わってしまった。
アレスを早く見つけ出したいナンナはさっさと競技を終わらせようとしたのかぶっちぎりで1位。Aクラスチームの点数を伸ばした。
今年のAクラスチームはなかなか強力で、スカサハ・ラクチェ・アーサー・フィーという好カードの揃ったCクラスチームといい勝負をしていた。
一人が出られる競技数は制限されていない。また、全員参加の義務があるわけではないので強い選手が数をこなすことができる。そのため丈夫で運動神経のいいスカサハ達がいるCクラスチームは前評判が高かった。彼等は昨年も休み無しに競技に参加して好成績を収めているのだ。ところが、Aクラスチームでは今年に限って競技に参加したセティがその持ち前の素早さで短距離走を漏れなく征し、やたらと燃えまくっているリーフが更に追打ちをかけていた。彼等はスカサハ達と違って馬鹿げた競技には殆ど出なかったが、加えてはしっこいパティやいい線いってるナンナが点数を稼ぐので、Aクラスチームの点数はCクラスチームと競り合いをしていた。
「次は、パン食い競争です。」
進行アナウンスが流れ、リーフは立ち上がった。
「ナンナ〜、君のために勝つからね〜!」
パン食い競争で自分の為に勝ってもらってもあまり嬉しくはないのだが、点数的には嬉しいのでナンナは手を振って答えた。その甲斐あってかそれとも性格のためか、リーフは見事に糸に下がったどら焼きに一口でかぶりつき、ぶっちぎりでゴールテープを切った。
この手の競技には、審査員の主観によるボーナス点が追加される。リーフのあまりにも見事な食い付き振りに、審査員を務めるセリス・シグルド・ディアドラは揃ってリーフにボーナス点を付与した。
「ナンナ〜、私の活躍見てくれた〜?」
高得点を稼ぎ出したリーフは、ぶんぶんと両腕を振り回してはしゃぎながらナンナの元へ駆け寄って来た。
その姿にナンナは、「恥ずかしいからやめてっ!!」と怒鳴りつけたくなったが、ここでリーフにテンションを下げられては優勝が危ういので、そこはグっと堪えて引きつりかけた微笑みを浮かべ、嬉しそうに戻って来たリーフを出迎えた。


 

「まさか、あなたが自主的に参加するとは思わなかったわ。」
イシュタルはセティの足が早いのは知っていた。クラスメイトの間では、それは周知の事実だったから、毎年クラス中の人から参加を要請されている姿を見て来た。ところがどんなに頼まれても、自分達の力で勝ってこそ大いなる感動が味わえるというものです、などと言って決して参加しようとはしなかったのだ。ところがそのセティが今年は自分から参加を希望した。
「ティニーが同じチームじゃなかったら今年も不参加を決め込んだんだけどね。」
「まぁ、そんなところだろうとは思ったわ。」
セティは体育祭などで自分のチームが勝とうが負けようが興味なかったのである。でも、優勝してティニーが喜ぶ姿は見たかった。
「君だって、ひとのことは言えないだろう?」
イシュタルも普段以上に好成績をマークしている。
「今年はトレパンとスニーカーなんだね。」
「別にいつものヒールでも勝てるけど、この方が確実でしょ?」
「本気だね。」
「ええ、私もティニーの喜ぶ顔が見たいもの。」
イシュタルは毎年拝み倒されて渋々いくつかの競技に参加してきたが、気が乗らなくて結局ギリギリで仕方なく参加するので普段着のまま競技に出ていた。いつものハイヒールとドレスで体操着の雑魚生徒を押さえてゴールテープを切る姿はなかなかの見物だったが、今年は頼まれた競技には全て参加して、しかもTシャツにトレパンそしてスニーカーの完全な運動スタイルである。もちろん、セティもマントの下は同様の格好だ。
「見たいよね、ティニーの喜ぶ顔。」
「ええ。そのためにはどんな協力も惜しまないわ。」
お互い、自分が取れる得点は落とさない。あとは、他の者たちがどれだけ食い下がってくれるかが勝負の鍵だ。その中には、借り物競争に参加するティニー本人も含まれている。自分がちょっと目を離した隙にセリスが何を書いたのかは気になるが、何が何でもティニーの指定された借り物を素早く用意してみせようとイシュタルは心に誓った。

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