第11話
夏休みが明けると文化祭はすぐだった。
各クラス・クラブ・委員会はそれぞれイベントの準備に奔走していた。それはここ高等部生徒会も同様である。
「指名制芝居?」
出し物をきめる会議中、会長のセリスから出された案に他の役員は面喰らった。
「だって、レスターが予算はあまり割けないって言うし、スカサハはクラブの方が忙しいみたいだからあまり時間が取れないだろう。」
レスターは、予算増加の交渉はセリスでも成功率2割にして他の者は0割という、生徒会の歴史に残る堅実さをもつ驚異の会計である。彼が予算を割けないと言ったからにはセリスが交渉しても大した額は出ないだろう。
となると、展示絡みは無理なので衣装代が掛からないような芝居をするのがお手軽なのだが、書記のスカサハが忙しいとなるとあまり練習時間がない。しかし、剣道部の出し物ってそんなに準備が忙しいものだっただろうか?
「スカサハ、何でそんなに忙しいの?」
「・・・」
答えられないスカサハに代わって、レスターがイシュタルの質問に答えた。
「剣道部の出し物は賭け試合と模擬戦なんですが・・・。」
賭け試合というのは、剣道部が選んだ男女各1名が待機しており挑戦者は模擬店チケット1枚を支払って試合をして勝つと豪華商品が貰える、というものである。もちろん、スカサハ&ラクチェの死神兄妹がスタンバイしている時間帯には、豪華商品が出るようなことはないだろうが。
問題は模擬戦の方である。スカサハはそこでラクチェと試合をすることになっているのだ。
「母さん譲りの見切りスキルのおかげで、あいつが流星剣や月光剣を繰り出す心配はないけど、どう考えたって俺の方が不利なんだよ〜。」
スピードも技も向こうの方が優れているし、シャナン様が見にくると言って燃えてるし。
「何とかラクチェに殺されずにすむために、試合までの残り少ない日数を練習に費やさないと・・・。」
「と、とりあえずあなたが忙しいことは納得したわ。」
噂には聞いていたけれど、このスカサハにここまで恐れられるラクチェってあの子いったい今どのくらい強くなってるって言うのよ、と興味を抱くと同時に、不用意には近付かないようにしようと心に誓うイシュタルだった。
「それで、セリス様。指名制芝居ってどう言うものなのですか?」
気を取り直し、副会長の職務を全うすべくイシュタルは話を戻した。
文化祭当日。
スカサハはどうにかラクチェの魔の手を逃れ生き延びた。すべては両親とシャナンの下準備のおかげである。
スカサハは毎日両親から特訓を受けた上、父からシールドリングを渡された。その裏でラクチェはシャナンに、打ち込んだ瞬間にスカサハを殺さぬ程度に衝撃を緩和する術を教え込まれていた。
「お前には、それだけの技量があるはずだ。私に練習の成果を見せてくれ。」
とシャナンに言われ、ラクチェはスカサハを3分殺し程度にして試合に勝利した。
むろん、シャナンにそうさせるよう仕向けたのはセリスである。スカサハが半殺し以上になると生徒会の出し物のスムーズな進行に支障が出るので、昔セリスの母ディアドラが川に落ちたシャナンを助けたのが原因で数年間行方不明となった時の事をネタに、脅しを掛けたのだ。「恩返ししてくれてもばちは当たらないよね〜」と。過去何度も恩返しさせられてる割に、シャナンはこの一言に逆らえないのである。
「さあ、それじゃあそろそろ生徒会の出し物を始めるよ。」
演目は『白雪姫』。
進行役はスカサハ、魔女のお妃はイシュタルが務めるとして、残りの役者は会場からいきなりの指名で舞台に上げられた観客生徒である。話の進行に従って会場をピンスポットが回り、セリスが指定した生徒の上で止まるのだ。
指名された者は有無を言わさず舞台に引き出された。別に練習なんてしてなくてもみんなよく知ってる話だからストーリーはわかってるし、セリフも自分が言いやすいように言って構わない。必要な小道具などは渡されることにはなっているが、衣装はそのままで実に金の掛からない出し物だった。特に、白雪姫を森へ捨ててきた狩人にファバルが選ばれた時など「小道具は手持ちのイチイバルを使ってね♪」などと楽しそうに言いながらセリスは彼を舞台中央に蹴り出したのである。
普通なら「ふざけんな!!」という出し物なのだが、セリスにそんなことを言える者などなく、また選ばれる生徒を見てみんな妙に納得してしまったりもして、これはこれで結構新鮮でいいじゃないかという評価が下された。
そして白雪姫に指名されたのはティニーだった。