グランベル学園都市物語

第10話

ピンポ〜ン♪
「あら、いらっしゃいイシュタルちゃん。」
「ティニーの具合、如何ですか?」
「ん〜、熱は大したことないんだけど・・・。」
寝込んでしまったティニーの見舞いに、イシュタルはティニーの好きなケーキを持ってやってきた。
「きゃ〜、美味しそう♪」
「叔母さまの分もちゃんとありますから、ティニーの分まで手を出さないで下さいね。」
釘を差しておかないと他人の分まで食べてしまうティルテュに、イシュタルはすかさず先制の一撃を放っておいた。
「わかってるわよ。イシュタルちゃんのイジワル。」
子供っぽい仕種で拗ねてみせた後、箱をかかえてキッチンへ向かうティルテュの姿に軽い頭痛を感じつつ、イシュタルはティニーの部屋へ上がった。
「・・・姉さま。」
「ティニー、あなた恋患いでしょ。」
家族にも見抜かれなかった病因をずばり言い当てられて、ティニーは跳ね起きた。
「ねねね、姉さま、何でそれを・・・。」
「わかりやすい反応ね。私の情報網をなめてもらっては困るわ。まぁ、相手の見当もついてるけど、ああいうのが趣味だったとはね。」
「・・・姉さまにだけは言われたくありません。」
イシュタルの恋人は、元警察庁長官アルヴィスの息子ユリウスである。イシュタルより1つ年下で、高等部に入って間もなく急にグレ始め、1年生の終盤辺りから飲む・打つ・買うの乱行を繰り返し、連続放火事件や幼児誘拐、果ては通り魔殺人事件を起こして現在は少年院送りとなっている。この件が原因でアルヴィスは職を失い、今は表舞台から姿を消している。
「あら、言ってくれるじゃないの。少しは強くなったのね、ティニー。」
昔は絶対言い返せなかったのにこれは随分とご執心のようね、とイシュタルは一抹の寂しさを感じていた。
「でも、なかなか目が高いわよ。セティは女泣かせなくらいいい男だし。」
「女泣かせ」と聞いてズキッと痛みを感じたティニーに、イシュタルはクスクス笑いながら続けた。
「言い寄る女性をみんなふっちゃうのよ。身持ちが固いので有名なの。」
イシュタルは、ユリウスのことを悪く言われた腹いせにちょっと意地悪してみたのだ。
実は、イシュタルはセティのことをよく知っている。何しろ、同じクラスでしかも同じような立場なのだ。イシュタルも頭脳明晰・容姿端麗にして、電力産業のトップ「フリージコンツェルン」会長の令嬢で、神器トールハンマーの使い手として兄を差し置いて次代を担う者と目されている才女である。お互い釣り合いのとれるような親しい友人がいない者同士、割と懇意にしているのだ。
だから本当は、そんなに悪い人だとは思っていない。
ただ、ティニーはミーハー的なことには縁のなかった子だったからちょっと驚いたし、セティはどこかズレてるところのある人だということを知っているのでこの可愛い従妹の相手に推奨出来るか迷いがある。まぁ、どっかズレてるのはこの子も一緒だから結構お似合いかも知れないけど、とも思っているが。
それに最近セティには気になる人が出来たらしいので、どうしたものかとも思っている。まさか、今目の前にいるのがその相手とは思いもよらなかったのである。
「まぁ、機会があったら思いきって告白みることね。失敗したら気のすむまで泣きつかせてあげるわ。」
そして好きなだけ奢ってあげるわよ、と心の中で呟きながらイシュタルはティニーの背中を押してやるのであった。

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