グランベル学園都市物語

第9話

あの一件以来、ティニーはいろいろ思い悩んでるうちにセティを単なる憧れの先輩として見られなくなってしまった。
夏休みが終わり、ナンナやパティと再会し、二人と話をしているうちに段々原因がわかってきた。
「それじゃさぁ、リーフ様ってばまだ真相を知らないわけ?」
「そうなのよ。私が家事の勉強してるのはリーフ様のためだと思ってるみたいなの。」
「早く言っちゃいなよ。もう恋人がいます、って。」
「言おうとはしてるんだけど、なかなかチャンスが無くって・・・。」
「ああ、それに難しいよねぇ。相手が、親の勤め先の社長の息子じゃ。」
キュアンやエスリンはそういうことを気にしない人だと思ってはいるのだが、下手な振り方をするとフィンが気にしそうなのでナンナは困っているのだ。いっそのことアレスとのデート中にリーフが現われてくれれば話も早いのだろうが、要らん時にはやたらと現われるくせにそういうときには姿を見せない。
「でもさぁ、やっぱり家庭の味に飢えてる人への告白アイテムは手作り弁当だったね。」
レスターの場合も、エーディンは料理が下手ではないのだが何しろメニューが精進料理系なので、パティの作る洋風メニューやおふくろの味系に弱かった。
「まぁ、ストレートには行かなかったけど結果オーライってとこだったわ。」
「あの…。」
「ん?ティニー、どうかした?」
「高級な味に慣れてる人にも、それって効き目あります?」
話を聞いてるうちに、つい素朴な疑問を漏らしてしまったティニーに、パティは察しをつけた。
「さては、ティニーってば好きな人が出来たわね。」
「えっ、えぇ〜っ、そそそそ、そんなことは・・・。」
思いっきりどもりまくって真っ赤になって固まったティニーの態度は、これ以上ないくらいはっきりと、パティの言葉を肯定していた。
「まぁ、味は効果あるかもしれないけど、シチュエーション的に無理があるわね。」
「そうね、食べ物には不自由してないもの。」
相手がわかればそれなりに案も出してあげようという2人だったが、固まってしまったティニーからは相手の名を聞きだせなかった。


「なんか、最近お兄ちゃんってば元気ないよね。」
「さては、彼女に振られたか。」
「えっ?お兄ちゃん、彼女なんていたの?」
「じゃぁ、彼女にする前に振られたのか。」
好き勝手なこと言ってるレヴィンとフィーを無視してセティが溜息をついていると、フュリーが2人をたしなめた。
「他人の恋愛事に首を突っ込む前に、まず自分のことに決着をつけたらどうかと思いますよ。」
現在、レヴィンはまたしても旅先で声を掛けた女に付きまとわれ、フィーはアーサーと喧嘩中である。レヴィンの方はいつものことだが、フィーの方はちょっとやっかいだ。何しろ喧嘩の原因は、フィーが
「あたしと妹のどっちが大事なのよ〜!!」
とキレたことなのだから。
そもそも、アーサーのシスコンぶりは前からわかっていたことなのでいつかはこうなることを周りでは予想していたのだが、最近妹の具合が悪いとかでアーサーが大変付き合い悪くなったため、とうとうフィーが爆発してしまったのだ。
「いいのよ、あんなやつ。」
「本当にいいのか?」
念を押されるとちょっと困るのだが、思い返せばあんなに気の合うやつはいない、という認識がありありなので、フィーは言葉に詰まった。
「も、もうちょっとしたら仲直りしてあげてもいいかなって思うんだけど・・・。」
「甘いな、フィー。そういう態度が相手を調子付かせるんだぞ。」
「そんなことくらい、お父さまを見てればわかるわよ!」
しょっちゅう浮き名を流しては結局許されてしまうレヴィンは、未だに外で遊び歩いている。
「だいたいねぇ、ちょっとはお母さまに申し訳ないなぁとか思わないわけ!?」
「思ってるさ。俺の仕事を肩代わりさせて忙しいんだなって。見ろよ、太る暇もないおかげで、こんなに見事なプロポーションだ。」
そう言ってフュリーの脇腹の線を指先で撫でたレヴィンを見て、これでフィーが殺意を抱かなかったと言ったら嘘になるが、フュリーが
「嫌ですわ、レヴィン様ったら・・・。」
などと顔を赤らめるので、それ以上非を責めることが出来なくなってしまった。
そしてセティは、誰か悩みを相談出来るような人間がいないのかこの家には、と独り深く溜息をつくのであった。

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