第4話
中間試験の後の試験休み、ナンナは弁当を持って大学部へ潜り込んだ。
広い敷地内を案内図に従って法学部校舎目指して歩み行き、校舎前のベンチでパンと牛乳を手にしている目的の人物を発見し駆け寄った。
「アレス!!」
ふいに声を掛けられ、なおかつそこに居るべきでない人物を目にしたアレスは驚いた。
「お前、こんなところで何してるんだ?」
「お弁当持って来たの♪」
「学校は?っと、ああ試験休みか。」
アレスも同じ高等部を出ているので、その辺のスケジュールは詳しかった。
もちろん売店で買ったパンよりナンナの持って来た弁当の方がいいに決まってるので、アレスは食べかけのパンをしまって弁当を食べはじめた。
「美味しい?」
「ああ。」
肯定はされたものの、今一つ感動の薄い反応にナンナはちょっと不安と不満を覚えた。もうちょっと何か言ってくれてもいいのになぁ、と思いながら、黙々と弁当を食べるアレスの姿を見つめていた。
「ごちそうさん。」
「ねぇ、美味しかった。」
「ああ。」
やっぱり素っ気無い。
しかし、一生懸命作ったのに、と文句を言おうとした矢先に他の学生がやって来てアレスに声を掛けた。
「随分かわいい子引っ掛けてるんですね〜。」
「ひょっとして彼女?」
「キャンパス内で逢い引きなんて、よくやるねぇ。」
「ば、莫迦野郎!こいつは親の遣いで弁当を届けに来ただけの親戚のガキだ。」
アレスは慌てて否定すると、手早く弁当箱を包みなおし、ナンナの手を引いて足早に駐車場へ向かった。
「次の時間は授業無いから、家まで送ってやるよ。」
そう言ってナンナに予備のメットをかぶせ後ろに乗せると、アレスはバイクを発進させた。
アレスに掴まってしばらくおとなしくバイクに乗っていたナンナだったが、だんだん腹が立ってきて、思わず掴まる腕に力を込めかつ指先をめり込ませるように爪を立ててしまった。
「何すんだ、いきなり!?」
バイクを停めて怒鳴ったアレスに、ナンナは負けずに言い返した。
「だって、アレスったらひどいんだもん!」
「乱暴に運転した覚えはないぞ。」
「親の遣いなんかじゃないもん!」
いきなり発されたセリフに、アレスは面喰らった。
「あのお弁当は私が作ったのよ!それなのに「美味しい?」って聞いても素っ気無くて。それに、「親戚のガキ」なんて言うし。」
「えっ?」
「もういいわよ!私のことなんか何とも思ってないってわかったわよ!!」
そう言ってナンナは泣き出してしまった。
ここは、大通りではないにしても人通りがある。若い男女が怒鳴りあった挙げ句に女の子が泣き出したとなれば、通りすがる人々は皆アレスを白い目で見て行った。
焦ったアレスは何とか泣き止ませようと、ナンナが言ったことを反すうして、掛ける言葉を探した。そして、
「お弁当箱返して。ここから一人で帰るから。」
と泣きながら伸ばされたナンナの手を掴んで引き寄せ、アレスはナンナに囁いた。
「まだ、弁当箱もお前もかえさない。」
驚いて泣き止んだナンナを再びバイクに乗せると、アレスは通りすがりの人の冷やかしの声を無視してバイクを発進させた。
そしてその言葉通り途中で進路を変更し、行き付いた先は海を眺められる公園だった。