RUNAWAY

-4-

イザークに着いたルーファス達は、砂漠の出口で借りて来たものを返した。最短コースで来たため追加料金は掛からず、貸し馬屋に驚かれた。
「あんた、いい腕してるねぇ。ここで馭者の仕事しねぇか?」
「仕事にあぶれたら頼むかな。」
ルーファスは愛想笑いで応じた。実際に彼が仕事にあぶれる時は、国が滅んだ時だ。それはまず有り得ないだろう。
「でも、今は別の仕事を抱えてるんだ。それで、ちょっと思い出してもらえると有り難いんだけどな。」
「おぅ、何だい?」
「つい最近、この辺を青くて長い髪の少年が通らなかったか? 多分、馬にしがみつくような乗り方をしてるから見かけたら印象に残ってると思うんだが…。」
ルーファスの問いに、貸し馬屋の男は少し考え込んでから奥に居た者達にも声を掛けた。すると、中の1人が声を上げる。
「ああ、見た見た。って言うか、今朝のことだが道聞かれたぜ。「ソファラはどっち?」ってさ。何か、育ちが良さそうなガキだったな。額に銀の輪とか締めてよぉ。教えてやったら、でかい荷物を括りつけた妙な目つきの馬にしがみつくようにして行っちまった。」
「サンキュー。助かった。」
これで、セシルがここへ来たことはほぼ確定したと言っていい。とにかく、今日はもう日が落ちるまでそう長くはかからないので、リボーの城下町辺りでゆっくり休んだ方がいいだろう。
ルーファス達は久々に設備の整った場所で早めに休んで、翌日からの強行軍に備えたのであった。

イザーク城で休むことなく馬を駆ったルーファス達がソファラに着くと、そこにはセシルは居なかった。
「とっくに到着されていてもいい頃なのですが…。」
スカサハは困惑した顔で彼等を出迎えた。
しかし実際にセシルはここへは来ておらず、ソファラ領内のあちこちに配備されている手の者からも何の連絡も入っていなかった。
「この国ではセシル様の容姿は目立ちますから、何らかの情報は入っても不思議はないのですがね。」
その証拠に、同じく目立つ容姿のルーファスがアイリーン姫と妹姫と共に領内に入った、という情報はスカサハの耳に届いていた。
「待ってくれ。私達のことが伯父上の耳に入っていたのなら、マリアもこのことを知っているのか?」
「はい。」
スカサハが頷くのを陰から見ていたかのように、マリアがそっと顔を出した。
「やはり、本当に姉様方がいらしたのですね。」
勘の鋭いマリアは、それが何を意味するものか解っていた。
「それで、セシル様は?」
「残念ながら、まだ見つかっておりません。リボーまでは辿り着いたようなのですが…。」
ルーファスの答えに、マリアは何やら真剣な顔で考え込んだ。そして、しばらくしてから決意に満ちた顔で宣言する。
「私も捜しに参ります!!」
もちろん、これにはすかさずマリオンの制止がかかった。追って、スカサハも賛成し難いといった顔をする。
「ダメだよ、マリア。危険だし、第一足手纏いになるだろう?」
スカサハはマリアの説得を試みたが、彼女は決して引こうとはしなかった。
しまいには、マリオンまでもがおかしな方向へと話を進めて行く。
「どうしてもマリアが行くんなら僕も行く!」
「それは、もっとダメ。」
スカサハはマリオンの主張をあっさり切り捨てて、またマリアの説得へと戻った。
しかし、遥々やって来た3人は反対の意を唱えなかった。ここで無理に置いていって、セシルのように飛び出されでもしたらそれこそ目も当てられない結果となるだろうことが容易に想像できたのだ。
「マリア姫1人くらいなら、俺が連れて行けなくもない。」
「私も一緒だし、どうにかなるだろう。」
「マリア姫に御一緒していただければ、早く見つかるかも知れませんわ。」
少なくともルーファスの居場所を突き止めることにかけては世界一を自負しているアレイナは、同じくセシルを見つけるのにマリアが役に立つかも知れないなどとまで考えていた。もしかすると、マリアがあちこちで呼びまくれば、どこからともなくセシルがやってくるのではないかとさえ思っていたのだ。
そして、すっかり連れて行くつもりでルーファスはマリア姫に告げた。
「動きやすい服装と着替え。あと、杖と魔導書と小銭があればいいでしょう。」
「小銭、ですか?」
ルーファスの言葉に不思議そうに首を傾げるマリアに、アイリーンがこの旅で教わったばかりの小銭の使い所を伝授した。
「はぁ、乗り合い馬車、ですか?」
「そうだ。使わずに済めばそれにこしたことはないが、はぐれたらそれを使って最寄りの城へ行くと良いのだそうだ。」
その際に小銭が必要となる、と聞かされて、マリアは納得したように軽く何度も頭を縦に振った。そこへアレイナが説明を補足する。
「正規の乗り合い馬車の見分け方は、後程ゆっくりお教え致しますわ。」
うっかり非合法のものに乗ってしまうと、ぼられたり攫われたりする危険があることもしっかり教えておく必要があるだろう。それらを聞いて尚、マリアが付いてくるかどうかはまた別の話だ。
「旅に危険は付きものと覚悟の上でそれでも同行を希望されるのなら、マリア姫の身は俺が責任を持って護衛しましょう。」
結局、普段大人しいマリアに頑として言い張られ、ルーファスにここまで言い切られては、これ以上の説得は無意味であろうとスカサハも納得した。そして、マリアの支度とルーファス達の休息の為に出発を明日の朝と定められたのであった。

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