RUNAWAY

-3-

バーハラ城へ寄ったルーファス達は、そこでセシルが戻るどころか足取り自体つかめていないことを知らされた。
「兵士達が平和惚けしてるのか、セシルのお忍びが上手すぎるのか。どちらにしても、ソファラまで行ってみるしかないな。」
読みが外れていた場合かなりの無駄足になるだろうが、他にアテもないしこの読みにはかなりの自信がある。とにかく、もしセシルが無事にソファラへ着いた場合はまた1人で旅をさせるのは危険なので足留めしておくように、ルーファスはセリスにスカサハ宛の鳩を飛ばしてもらった。
「ごめんね、面倒なことに巻き込んじゃって…。」
セリスは、さすがにルーファス達を送りだす際に申し訳無さそうな顔をした。しかし、アレイナはにっこりと微笑みを返す。
「あら、私はお兄様と旅が出来るから構いませんわ。」
これには、その場に居た者全てが苦笑した。どうやら、アレイナ姫の世界は兄を中心に回っているという噂には嘘も誇張もないらしい。
そして、ルーファス達はセリスに見送られてバーハラを後にした。
表向きはアイリーンの里帰りなので堂々とセシルの行方について聞いて回ることは出来ないものの、普通の旅人の振りをしているだけに兵士達では聞けないような話も耳に出来る。その結果、やはりセシルはマリアの元へ向かおうとしているらしいと思われる情報を得て、ルーファス達はヴェルトマーからイード砂漠へと抜けたのだった。

足元の岩が砂へと変わる頃、そこに小さな牧場のようなものがあるのを見てアレイナは首を傾げた。そこで、ルーファスの横に並んで聞いてみる。
「あれは何ですの?」
ルーファスはアレイナが指差した方向を見て、答えた。
「ああ、あれか。砂漠を渡るのに適した装備などを貸し出してるんだ。」
答えてから、ルーファスは素早く考えを巡らせて馬足を落とした。そして、小屋のようなものの傍で馬から降りると、中の男に向かって言う。
「力もスピードもある砂馬を2頭。それから、馬を3頭乗せられる馬車を借りたい。急いでイザークまで抜けたいんだ。」
「へぃ、毎度。」
1日半の遅れを取り戻すには、この砂漠を渡る時間を節約するのが一番である。これなら、セシルが北と南のどちらの迂回路を進んでいたとしても関係ない。
ただ追い掛けるだけではまず追い付くのは不可能なので、ルーファスはここでセリスから渡された金貨にものを言わせることにした。
提示された料金に少々色をつけて支払うと、相手は女性用のフード付きマントを貸してくれた。
「あんたは大丈夫そうだが、そっちの嬢ちゃん達はその格好じゃあ砂まみれになっちまうだろ。」
ルーファスは、彼女達も馬車の中に入れてしまうつもりでいたが、有り難くそのマントを借りることにした。すると、案の定2人とも好奇心に勝てずに馭者台に上がりたがる。
「砂漠って、砂しかないのかと思ってましたわ。」
ささやかながらも砂の中から顔を出して懸命に根をはっている草木に、アレイナは目を丸くした。
「私もだ。話には聞いていたが、まさか本当にこのようなところで生活している動物が居るとは思っていなかった。」
彼方に小動物が動くのを見て、アイリーンは驚いた。この砂漠に隣接する国に生まれ育ちながら、その直中に足を踏み入れたのはこれが初めてだったのだ。
「百聞は一見にしかず、か?」
ルーファスの言葉に2人は揃って頷いた。
その他、宿にしろこの馬や馬車にしろテキパキと物事を決め、迷うことなく砂漠で馬車を進め、そして火を起こして料理までするルーファスにアイリーンは目を丸くした。
「随分と手慣れているのだな。」
「必要に迫られていろいろやってれば、嫌でも慣れる。」
「…そうなのか?」
不思議そうな顔をするアイリーンに、ルーファスは真面目な顔で答える。
「獅子は我が子を千尋の谷から突き落として這い上がって来た者だけ育てる、って話を知ってるか?」
突然何を言い出すのか、とアイリーンはきょとんとした。
「うちは、ある年令を前にオーガヒルに放り出して自力で帰って来た子供だけ育てるんだ。」
「う、嘘だろっ!?」
アイリーンは信じられないと言った顔をした。その後ろで、アレイナが複雑な笑みを浮かべている。
「勿論、嘘ですわ。」
アイリーンはアレイナを振り返ってから、再び向き直ってルーファスを睨み付ける。
「やっぱり、嘘なんだな?」
ルーファスは面白く無さそうに頷いた。
「だが、オーガヒルに放り出されたのは本当だぞ。」
アイリーンはルーファスの言葉に絶句した。
「しかもお兄様ったら、4年間もその嘘を信じてらして…。」
「……あの頃は素直だったからな。」
嘘に気付いたのはアレイナがその歳になっても放り出されなかったからだ。それ以来、ルーファスは父に対して子供らしい素直さというものを封印している。
「では、何故オーガヒルに放り出されたのだ?」
当然沸き上がる疑問であるが、それに対してアレイナは苦笑しながらこう言ったのだ。
「お父様ったら、とっても独占欲が強くていらっしゃいますの。」
いくら独占欲が強いからって、ナンナと2人っきりになりたいという理由でオーガヒルに放り出されたルーファスは堪ったものではなかった。
幼い妹達は上手いこと言い包められてマディノへお泊まり中だったが、そうはいかなかったルーファスは父に騙されてオーガヒルへ連れて行かれ、ブラギの塔の周りでハーブを摘んでる隙に橋を上げて逃げられた。
幸いこの時はマスターナイトになり立てで、様々な武器を携帯していた。廃虚と化した砦で雨風を凌げるし、摘んだばかりのハーブもあった。弓矢や槍で魚を捕ることも出来るし、薪を切り出す斧もある。読み物にあった方法を思い出して、ルーファスは一生懸命だった。そして夜が明けるのを待って海に飛び込み、対岸まで泳いだのだ。そうやって帰って来たルーファスにアレスが言った言葉が「千尋の谷」云々である。その時は妙だと思いながら信じていたルーファスだったが、後にやはり大嘘だったことが判明した時はかなりのショックを受けた。
また、父と喧嘩になり「出てけっ!!」の売り言葉に買い言葉で本当に城を出ていくこと数知れず。顔が売れているため街や村に行くわけにもいかず、森でサバイバルしたりヴェルダンやグランベルに行って日雇いの仕事したりして食い繋いだ。
「まぁ、その時の経験がこうして役立ってるから、今では少し感謝してるけどな。」
「確かに、無駄ではなかったのだろうが…。噂以上に凄いことをするな。」
セシルやマリオンのマリア絡みの行動に呆れていた頃に、それを「あんなのは、まだまだ可愛いものだ」と笑っていた両親からいろいろ聞いてしたし、実際にノディオンでアレスの様々な我が侭振りを見て来たアイリーンだったが、そんなものではなかったという証言を聞いて目眩すら覚えた。
「どうした、疲れたか? 明日には砂漠を抜けられるから、頑張ってくれ。」
「あ、ああ。わかった。」
アイリーンは促されるままに身体を休めた。
そしてルーファスの言った通り、翌日には彼女の住み慣れたイザークの土地を踏み締めたのだった。

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