グランベル学園都市物語

第33話

バレンタインデー前日。
手作りチョコを渡そうと考えている女性にとって、その日は戦闘日だ。夕方から夜中にかけてチョコ作りが行われる。それは、ここヴェルトマー分家でも恒例の事だった。
例年はティルテュだけだったのだが、今年はティニーもチョコを作っていた。
初めてキッチンに立つティニーは緊張していた。
「大丈夫よ。どれか一つくらい上手くできるから。」
一緒に作っている母はそう言ってるが、毎年作りながらも未だに"下手な鉄砲も数打ちゃ当たる"方式で乗り切って母を見ると、単純そうに見えてかなり難しいのではないかと思えてならないのだ。
実際は、そんなに難しいことをする訳ではない。確かに単純なだけに奥深いものはあるが、やけどに注意しなきゃいけないだけで子供でも出来る。何故なら、彼女達が作ろうとしているのは、湯せんしたチョコをハート形のアルミ型に流し込んで固まったら色とりどりのチョコペンシルでメッセージを書くという代物なのだ。
しかし、性格が大雑把なティルテュは湯せんしている最中や型に流し込む過程で湯をはねさせたりチョコをこぼしたり、固まり具合を確かめようとして指跡を付けてしまったりと、失敗作を量産しているのだ。何年もやっているのに全然反省がなかった。
「母様、このくらいの柔らかさでいいのでしょうか?」
慎重にチョコをかき回しながら湯せんしていたティニーが、横でがちゃがちゃとチョコをかき回しているティルテュに声を掛けた。
「どれどれ…。うん、もう流し込めるみたいね。」
ティニーは早速片手鍋の底を綺麗に拭って、前もって並べておいたアルミ型に恐る恐るチョコを流し込んだ。控えめにチョコを溶かしていたためか、3つ目まで流し込んだところで鍋の中のチョコがちょうど終わりになってしまった。ティニーは再びチョコを溶かそうかと思ったが、綺麗に流し込めたようなのでこの3つに期待をかけることにした。後は、常温で冷ましてから冷蔵庫に入れて固めて、明日の朝メッセージを書き込んでラッピングすれば出来上がりである。
ティルテュの作品と区別がつくようにアルミの色を違えておいたが、ティニーは念のために場所を移動させておくことにした。揺らしてこぼさないようにそう〜っと食卓の対角線上へトレイを移し、その端に名前を書いた紙を挟み込んだ。これで、間違う心配はないだろう。
使った鍋類を片付けると、ティニーは父兄のいる居間へと移動した。


 

「ティニーはどれ食べる?」
アーサーに言われて見ると、そこにはカップの麺類・インスタントの雑炊類・即席のスープ類・ベーコン入りのパン等が用意されていた。もちろん、湯沸かしポットや食器もある。
ティニーが迷っていると、アーサーは呆れたように言った。
「去年よりひどいメニューだから、選択に困るよな。」
しかし、すかさずアゼルが反論した。
「僕は去年よりティルテュが頭を使ったと思うけどね。」
「どこがだよ!?」
「室温で並べておいて困るものが置いてないだろう?」
去年は出来合いの弁当やサンドイッチや揚げ物、そしてペットボトルの飲み物が置かれていた。アーサーから見ればその方がマトモなメニューだが、当然の事ながら弁当の中身は冷めた御飯や焼き魚、飲み物や野菜サンドは室温まで温くなり、揚げ物も冷めきっていた。
しかし、今年は熱々のメニューである。熱湯を注いで数分待てば、やけどするような温度のうどんや雑炊が食べられる。パンも、室温で問題ない種類のものだ。
「コーンクリームとオニオンスープ、どちらにしようかしら?」
「ティニー…それで迷ってるのか?」
どうやらティニーはあっさりとベーコンパンを食べることに決めたらしい。しかし、スープをどうするかが決まらないのだ。
「カップは余ってるから、両方にしちゃえば?」
「そうですねぇ、でも先にどちらにしようかしら?」
こういう時のティニーはかなり優柔不断である。
「僕は今からコーンクリーム作るんだけど…。」
「では、一緒にお作りしますね。」
アゼルの誘いに簡単に乗って、ティニーは2人分のスープを作った。
「それにしても、母さんはまだ終わらないのかなぁ?」
アーサーはキッチンから聞こえてくるがちゃがちゃという音に耳を済ませながら溜息をついた。

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