グランベル学園都市物語

第31話

セティがティニーとの待ち合わせの場所に行くと、そこには振袖姿のティニーだけではなく毛皮に身を包んだイシュタルも一緒に居た。
「明けましておめでとう。邪魔なのはわかってるつもりよ。」
「いや、その、本年もよろしく。ティニーに見つかって連れて来られたんだろう?」
イシュタルは気まずそうに頷いた。
「姉様も一緒ではダメですか〜?」
すがるような目でティニーに聞かれてダメと言える2人ではなかった。
「ティニー、はぐれないように私達の手をしっかり握ってるんだよ。」
「はい♪」
ティニーは嬉しそうに返事をしてセティとイシュタルの手をそれぞれ握りしめた。セティは、これが真冬でなければなぁと手袋の存在を恨めしく思いながらも言われた通りしっかりと自分の手を握っているティニーを愛おしく思った。
3人は無事に賽銭箱まで辿り着き、それぞれ小銭を投げ入れてお参りをした。
「セティ様、何をお願いしたんですか?」
「ティニーは何を願ったんだい?」
逆に聞き返されて、ティニーは秘密を打ち明けるようにそっと願いを口にした。
「あの、皆が仲良く過ごせますように、と。」
「ティニーは優しいね。それに比べて私は心がせまいのかな?」
「何をお願いしたんですか?」
「ティニーが幸せでありますように…微笑みが消えませんように…。」
「セティ様、そんなこと言われたら困ってしまいます。」
セティはあくまで願いごとの内容を告げただけなのだが、聞いてるティニーは嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になってしまった。
その思いを誤魔化すように、ティニーは今度はイシュタルに尋ねた。
「あの、姉様は何をお願いしたんですか?」
予想はしていたものの、前置きもなく突然聞かれてイシュタルは焦った。それから、ちょっと目線を斜下に外して白状した。
「ユリウス様が元のお優しいユリウス様に戻れますように…。早くお会いできますように…。」
「もうじき出てくるんだったっけ?」
結構大きな事件だったから、その後の結果もセティの耳に入っていた。
「ええ。お迎えに行くつもりだけど、会って下さるかは別問題だわ。」
「姉様…。」
暗い表情をしたイシュタルに、ティニーは心配そうに声を掛けた。
「ごめんなさい、新年早々暗い顔してちゃダメよね。それじゃあ、私はこれで帰るからあなた達はゆっくり御神籤引くなり絵馬を書くなりしていらっしゃい。」
そう言うとイシュタルはハイヒールとも思えない早さで走り去った。


 

イシュタルに言われた通り、御神籤でも引こうかと思った2人だったが、あまりの混雑に引く気が失せてしまった。絵馬も同様である。
だが、初詣にかこつけて正月からデートするのが目的であって例年は初詣などしなかった2人には、見るもの全てが新鮮だった。何やら出店もあるみたいなので、あちこち覗いてみることにした。
すると、ある店でとっても良く知っている顔にお目にかかってしまった。
「あら、ティニーじゃないの。ねぇ、うちの破魔矢買ってかない?」
何と、パティが破魔矢を売っていたのだ。ティニーは目を丸くした。
「お正月からアルバイトですか?」
「一応、母方の家業の一環なんだけど…。」
弓使いウルの血を受け継ぐ家系。弓矢の関わる神事やイベントは、古来よりユングヴィ家の取り仕切るものである。これもその一環と言われてしまえば、納得できないこともない。
「1本如何ですか?」
奥から出て来たレスターがセティに破魔矢を勧めた。
「君も手伝っていたのか。」
「俺もウルの血を引く弓使いですから。」
「それに金銭の管理はレスターに任せておくのが一番なの〜♪お兄ちゃんは当てにならないんだもん。」
「何だと〜!誰がこの破魔矢作ったと思ってんだ、お前は!?」
奥からファバルが怒鳴りながら出て来た。
彼が怒るのも無理はないだろう。ここで売ってる破魔矢は全てファバルが一生懸命作ったのだから。正月に破魔矢を作るのは聖弓イチイバルを扱う者の務めである。これだけの破魔矢を一人で作り上げた以上、金銭に疎くてもさっきから裏でサボっていても、最低限の義務は果たしたのだから良いではないか。彼に課せられたもう一つの義務は"この店に居ること"であるが、裏でも店に居ることには変わりない。必要な時には表に顔が出せるようなサボり方しかしていない。
「お兄ちゃん、何年言ったらわかるの!? 売るなら喧嘩じゃなくて破魔矢を売ってよ!」
ファバルとパティのやり取りに、セティは笑いが押さえられなかった。
「そうだね。それじゃあ、破魔矢を売ってもらおうか。」
「あんた、ひょっとして俺に向かって言ってる?」
「そのつもりだけど…。」
ファバルは、この状況でよくもまあ、と呆れたようにセティを見ながら破魔矢を1本差し出して金を受け取った。
自分の分の破魔矢を買ったセティはティニーにも買うように勧め、その手にそっとお金を握らせた。ティニーはお金を渡されたことに戸惑いを見せたが、セティと同様にファバルから破魔矢を受け取った。
「お金渡すくらいなら、一緒に買ってあげればいいのに…。」
パティはセティの行動が不可解だった。
「こういうものって、誰かから譲られるものではないと思うからね。」
「そうだよな。やっぱ、自分で買った方が利き目あるよな。」
毎年、ブランド的に欲しがる人間が後を立たず、しかもまとめ買いしてくような輩もいる。そのことがファバルにとっては不快だったのだ。確かにそのもの自体に魔除的効果が期待されるが、本来こういったものは買うという行為にも意味が有るだろう。だからセティの取った行動は、ファバルを喜ばせた。
しかも、セティもティニーもわざわざファバルから受け取った。もちろん聖弓の使い手から手渡しされたがる輩も多く、毎年それでファバルは店先に呼び出され嫌そうに破魔矢を渡して来た。しかしこの2人の場合、ファバルから手渡しされることへのこだわりがミーハー的なものからではないことは明らかだった。
「どう、お兄ちゃん。ちゃんと自分の手で破魔矢を売った気分は?」
「悪くねえな。」
ファバルはちょっと照れくさそうに答えた。

- 新年すぺしゃる 完 -

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