グランベル学園都市物語

第24話

パティのチーズケーキを盗んだ犯人はラナである。
昔は父に似て真面目だったのだ。他人のものを勝手に持ち出すどころか部屋に入る時だって無断で入ったりはしなかった。ところがいつの頃からか、勝手にズカズカとレスターの部屋に入り、ペンやらインクやら貯金箱を持ち出して自分のものにすることも日常茶飯事となっていた。そして、この時もレスターのところからインクを分けてもらおうとやって来たラナは、机の上にチーズケーキの箱を見つけて持って行ってしまったのだ。
これにはレスターも怒りを押さえ切れなかった。好きな子から貰った手作りチーズケーキを横取りされて笑って許せる訳がない。
「えっ?」
「えっ、って何だよ。」
赤面しながら聞き返すレスターに、パティも赤面しながら問い返した。
「だってチーズケーキあげたのって、まだ中学の頃じゃなかったっけ?」
「悪いかよっ!」
その頃はまだ、パティはレスターのことを従兄としてしか見ていなかった。お菓子作りに興味を引かれていろいろ作っていたので、気軽にレスターにお裾分けしたのだ。でもレスターの方は既に、パティを従妹ではなく1人の少女として見ていたのか。
「悪くなんてないよ♪」
あの頃のレスターはパティが自分の事を従兄以上には見てないことを知っていて、気付かれないようにしていたんだろう。もしあの頃の自分が、レスターが自分に特別な感情を持ってるということを知ってしまったら、多分どうしていいのかわからなくなって遠ざかってしまったと思う。
パティはレスターの気遣いと、そしてずっと想い続けてくれたことが嬉しかった。
「それで、その後どうなったの?」
それでも骨の随までお兄ちゃん魂が染み付いたレスターは、さすがにラナに手を上げることはしなかった。だが珍しく声を荒げてラナに抗議するレスターに、エーディンが慌てて止めに入った。チーズケーキくらいなら作れるから今度ラナと2人で作ってあげる、などと頓珍漢なことを言うエーディンに、レスターは更に怒りを煽られた。
しかし、どんなに抗議したところでラナが食べてしまったチーズケーキが戻ってくる訳ではない。
「この時心に誓ったんだ。高校生になってバイトが解禁となったら、バイト料で鍵付き冷蔵庫を買おうって。」
その後、再び金を溜めて部屋のドアも鍵付きにした。そして、ここを自分だけの空間にするとエーディンに内緒で洋風の夜食を取れることに気付き、食器や電子レンジなども買い揃えていった。次々買い足された家電や雑貨によって、もともとバストイレ付きだったこの部屋は、今ではまるで一人暮らしのアパートの一室と化している。
しかし、パティは不思議だった。何故レスターは先にドアに鍵を付けなかったんだろう?ラナ達はレスターの貯金箱を持ち出したこともあったのに。
その答えは簡単だった。
「学習机の一番上の引き出しって、元から鍵付きなんだ。」


 

昼食と内緒話の後、再び試験勉強が再開された。
だいぶ進んだところで、ドアをノックする音がした。
「お兄さま。お母さまがケーキを焼いて下さいました。」
レスターがドアをあけるとラナが入って来て、パティが慌ててノート類を退かした卓袱台の上に3人分のケーキと紅茶を並べた。パティは一瞬焦ったが、レスターが刺繍無しの座布団をラナに渡してやってるのを見て、何も知らない振りをした。
しばらく他愛のないお喋りをしながらティータイムを過ごし、ラナは大人しく退室した。
「別に、仲悪くはなってないのね。」
「まぁね、油断がならないだけだから。」
行動に目を光らせていれば、犯行は未然に防ぐことができる。例え聖女の皮を被った悪魔だったとしても、ラナが可愛い妹であることにもエーディンが敬愛すべき母であることにも変わりはない。
レスターは備え付けの台布巾で卓袱台を綺麗にすると、パティと一緒に試験勉強を続けた。
そして試験勉強を終えてレスターにバス停まで送られて行ったパティは、バスを待ちながらレスターに質問した。
「ところで、あの鍵ってちょっと特殊じゃない?」
「おっ、目敏いな。デューさんのとこの特注品だ。」
お助け鍵屋のデュー、彼は結構有名人である。彼に開けられない鍵はない、と言われるくらいどんな鍵でもあっさり開けてしまう。昔は盗賊だったと言う噂は、多分本当だろう。しかし、現在はその特技を生かして鍵のトラブルを解決している。もちろん、トラブルなんて頻繁に起こるものじゃないから普段は鍵の取り付け・販売や、合鍵作りをしている。
彼への特注品は作った本人でもそう簡単には破れない。そんなものを自室のドアに取り付けたレスターの警戒心は相当なものだ。それもこれも、デューが改心したのはエーディンのおかげだと聞かされている所為である。デューの元に合鍵を残さないという取り決めをした以上、エーディンが無理に鍵を開けさせようとしても時間がかかることになるので多分安全だ。興味本意でとか何かを借りようとしてちょっと開けてもらおう、と思ってもちょっとでは済まないのだから。
「もちろん、お前には破れないぞ。」
デューはパティ達の両親とも親しかったらしく、彼等が都会から離れている間はいろいろとパティ達の面倒を見てくれた。パティはデューに良く懐き、時々工房にも出入りしてる内に結構複雑な鍵でも開けられるし合鍵も作れるようになってしまった。だが、そのことを知ってるのはレスターと兄くらいである。
「いつか破っちゃうからね。」
「無駄だよ。お前にはちゃんと合鍵を作らせてやるから。」

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