グランベル学園都市物語

第23話

ナンナやティニーが恋人の指導で試験勉強をしていた頃、パティもまた恋人であるレスターの部屋で試験勉強に励んでいた。
初めてこの部屋へ招き入れられたパティは驚きの連続だった。
まず、レスターはバス停から家まで案内して来て部屋の前まで来ると、ポケットから鍵を取り出したのだ。そして、パティと自分が部屋に入るとすかさず内側から鍵を掛けた。一瞬ギクリとしたパティだったが、外から開けるには複雑な形の鍵が必要でも内側からはノブを回すだけであっさりドアが開く形式になっているのを見て取り、すぐに緊張を解いた。
次に、部屋の中を見回すと妙にスッキリしていた。
「ひょっとして、あたしが来るんで必死に片づけたとか?」
「逆だ。お前がくるから卓袱台と座布団を出したんだよ。」
目の前にドンと置かれた卓袱台。確かに普段は使わなそうだった。そしてその卓袱台のところに置かれた座布団のふちには、何故か2人の名前が刺繍されていた。
「スカサハが作ってくれたんだ。」
確かにあの人ならこのくらい簡単に作るだろう、と納得してパティが自分の名前の付いた座布団に座ってノートなどを取り出し始めた。
「とりあえず、始める前に何か飲むか?」
「うん、何か冷たいもの欲しいな。」
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「紅茶。」
「了解♪」
レスターはそう答えると、何故かドアから遠ざかって行った。そして影になったところで何かゴソゴソやってたかと思うと、缶の紅茶を2本持って戻って来た。しかも、ちゃんと冷えている。
「どこから出したの?」
「冷蔵庫に決まってるだろ。」
パティが先程レスターの居た辺りに行ってみると、そこには鍵付きの冷蔵庫が置かれていた。近くには、電子レンジや食器ケースなども置かれている。
「これ、どうしたの?」
「バイトして買ったんだよ。」
レスターはさも当たり前の事のように言っているが、中流家庭で家族と同居の高校男子がバイトで買い揃えるようなものには見えない。
「何で…?」
「聞きたいか?」
「うん。」
「1課目終わったら話してやるよ。」


 

パティが1課目分の問題集を終えたところで、お昼となった。
パティは持って来た重箱弁当を広げ、レスターは再び冷蔵庫を開けて麦茶の1リットルポットを取り出し食器棚からグラスを持って来た。
雑談しながら2人で美味しくお昼を平らげたところで、パティはふと思い出した。
「ねぇ、約束の話してよ。」
「えっ?ああ、冷蔵庫の話か?」
「うん。」
レスターは麦茶のグラスを置くと、ポツポツと話しはじめた。
「この家で信用出来るのは父さんだけなんだ。」
他の2人は、他人のものと自分のものの区別がつかない。否、他人のものでも構わず自分のものとすると言った方が正しいだろう。他人の部屋に勝手に入り込み、そこにあるものを勝手に持ち出しそのまま返さないことなど珍しくもない。さすがに他所の家ではやってないようだが、家族のものなら自分のものだと思ってるらしい。
「小学生の頃、小遣いでプリンを買って帰ったことがあったんだ。」
友達とコンビニに寄って皆でアイスを食べた。その時、棚に並んでいたプリンに興味を引かれて、皆と別れた後もう1度コンビニに寄って買ったのだ。
夕飯の後に食べようと楽しみにしていた。
ところがレスターが夕飯の後でワクワクしながら冷蔵庫を開けると、そこにはプリンの姿はなかった。レスターが部屋で着替えている間にエーディンがラナに与えてしまったのだ。困惑するレスターに何も知らないラナはあっさりと自分が食べたことを告げた。その瞬間、レスターはラナを殴りそうになったが、ラナは何も知らなかったんだと自分に言い聞かせて、辛うじて怒りを押さえた。
「だから、次はちゃんと名前を書いておいたんだ。」
ところが名前が書かれているにも関わらず、レスターが夕飯の時に飲もうと買って来たジュースをエーディンが飲んでしまった。しかも、ちゃんとラナと分けようと思って瓶のやつを買って来たのに、それを全部1人で飲み干してしまったのだ。
「ちょうど咽が乾いてましたの。御馳走様♪」
この言葉からもわかるように、エーディンはレスターの名前を見落とした訳ではなく、わかってて飲んでしまったのである。この時から、レスターはエーディンに心の中で距離を置くようになった。
「そして極め付けはお前のチーズケーキだ。」
「あたしの?」
パティがレスターに作ってあげたチーズケーキ。それが、机の上に置いてちょっとキッチンまでお茶を取りに行ってる間に消えてしまったのだ。

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