グランベル学園都市物語

第25話

波瀾含みの試験勉強を終えて挑んだ中間試験。
結果は、ナンナはいつもよりそこそこ上。アレスの苦悩と苦労のおかげであろうか、教わったところがバッチリ解けた。
パティも、そこそこ上。メリハリが付き、気分が乗って勉強できたのが良かったらしい。
そしてセティに丁寧に教わったティニーはいつもよりかなり上で、廊下に名前が貼り出された。
「ちゃんと勉強させてたのね。」
「どういう意味だい?」
「別に。ただ、ティニーの成績によってはあなたの部屋にトールハンマーの2〜3発も叩き込もうかと思ってただけよ。」
ティニーの成績が著しく下がったとしたら、それはセティが試験勉強以外のことをティニーに教えてたことになるのだから。
それに図書館で勉強すると言っておきながら実際は自分の部屋に連れ込んだ、という情報を入手したイシュタルはセティのことを疑っていたのだ。開いてる机と椅子がなかったからということだったが最初から混雑してることを計算してたんじゃないか、と。
「人聞きの悪いこと言わないで欲しいな。」
皆で寄ってたかってそういう目で自分の事を見るんだから。どうせあの2人もそれを期待して聞き耳立ててたに決まってるんだ。自分をそういう目で見る人間が増えているのを、セティは頓に感じていた。
そりゃ確かに自分はあのレヴィンの血を引いてるし、文化祭の舞台での一見手慣れた振る舞いを見てたらそう誤解するかも知れないけど、実は普段はティニーの手を握ることも出来ないんだぞ、とセティがブツクサ言っているとティニーが走って来た。
「セティ様〜。」
「やあ、ティニー。今回の試験、よく頑張ったね。」
「廊下に名前が出るなんて凄いじゃないの。」
イシュタルは自分達が毎回その凄いことになってると言うことは棚上げしていた。
「セティ様のおかげです。また、期末テストの時も教えて下さいね。」
そう言ってティニーは元来た方向へ走って行った。どうやらナンナやパティと歩いていてセティの姿を見かけたので、慌てて駆け寄って来たらしい。
「ティニー、廊下を走ってはいけないよ〜。」
後ろから掛けられたセティの言葉にティニーは慌てて急停止すると、振り返って一礼してから急ぎ足で立ち去った。


 

ティニーの元気な姿を愛おしそうに見つめていた2人だったが、突如背後より殺気を感じて飛び退った。直後、セティが居た辺りを廊下に一筋の傷を残して風の刃が通り過ぎた。
「アーサー!?」
ウインドの魔法が放たれた方向を見やって、イシュタルは叫んだ。
「ちっ、外したか。」
と言うことは、当てるつもりだったということか。
次の出方を警戒しながらセティとイシュタルが身構えると、アーサーは呪文の詠唱を始めた。
「エルファイヤー!?」
「バカな!?そんなもの校舎内で使ったら…。」
校舎は木造ではないから一気に全焼はしないが、アーサーの魔力で火を付けられたら消し止めるのは一苦労だ。どんどん被害が広がってしまう。
しかし、アーサーの呪文はほぼ完成している。今からではサイレスをかけるのは間に合わない。こうなりゃ殴り倒すか、と2人がアーサーの方へ駆け出そうとした矢先、アーサーは背後からフィーに殴られて詠唱を中断した。
「フィー、何すんだっ!!」
「何すんだ、じゃないっ!!!」
フィーはもう1発アーサーを殴った。
「こんなところで魔法なんかぶっ放すんじゃないわよ!大体、お兄ちゃんに攻撃しかけるなんてどういうつもり!?」
「だって、ティニーってばこいつの話ばっかり…。」
気に食わないから叩きのめしてやろうと思い続けてこれまで全然会えなくて、やっと見つけたので攻撃した。そこがどんなところかも認識できないくらい頭に血をのぼらせて。
「ばっかじゃないの〜。」
「何だと〜!」
「ティニーが聞いたら泣くだろうね。」
言い争っていたアーサーとフィーのセリフに、別の声が重なった。
「それに、少しは僕の立場も考えて欲しいよ。」
息子が一時のヒステリーから校舎を焼き付くしました、なんてことになったら世間に顔向け出来なくなって、兄のように姿を暗ませなくてはならなくなってしまう。
「とにかく、現行犯だ。一緒に職員室まで来てもらうよ。」
アーサーはアゼルに連行されていった。
「ねえ、お兄ちゃん。このことティニーには内緒にしておいてくれる?」
「いいよ。私もティニーを悲しませるようなこと言いたくはないからね。」
「同感だわ。」
「ありがと、お兄ちゃん、イシュタルさん。」
フィーは2人に礼を言うと、職員室へアーサーの処分を聞きに走った。幸い、廊下にちょっと傷を付けただけだったので、お説教と廊下磨きで済んだらしい。
その処分の甘さにアーサーは浮かれていたが、放課後に傷をパテで埋めてせっせと磨いて家に帰った彼を待っていたのは、夕食抜きの宣告だった。
学校では起きたことへの責任のみを追求したが、父親としてのアゼルは、危うく校舎を全焼させるところだったアーサーをあれで許す気にはなれなかったのだ。魔法はほんの少し使い方を誤っただけで大惨事を引き起こすこともある。高い魔力を持った者程、その使い方についての責任が問われるのだ。これを機にアーサーにはそのことを良く考えてもらいたかった。

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