グランベル学園都市物語

第22話

アレスが一生懸命ナンナに勉強を教えている頃、セティの部屋ではティニーが熱心に勉強していた。
「そろそろいいかな?」
「えぇっと…。」
セティは先を教えたいのを我慢しながら、ティニーが自力で解こうとする姿を見守っていた。あっさり答えを教えてしまうとその問題のみ解けて、僅かな違いのある似たパターンの問題は解けないと言うことになりやすいので、本人が考える時間を与えたのだ。
「ん〜?ダメです〜。」
「それは、教えちゃダメって事?」
ティニーは首を横に振った。
それではとセティはティニーの正面から隣へと移動し、解法を説明しはじめた。
「ここをこうすると…ね。そして、こうすると…どう?」
「あっ…。」
「ねっ♪それじゃやってみて。」
「はい!」
ティニーは問題を解きはじめた。
また正面に移動し直してしばらく見守っていたセティだったが、急に立ち上がった。
「あの、どうされたんですか?」
「しっ、黙って!」
セティは人さし指を立てて、唇の前にあてた。ティニーが息を飲んで見つめていると、セティはそっとケースをあけてバイオリンを取り出し、ティニーの耳もとに口を寄せた。
「しっかり耳をふさいでいるんだよ。」
「あの…。」
「いいね。」
ティニーはよくわからないけど頷いて、しっかりと耳をふさいだ。それを確認したセティは自分も耳栓をすると、徐にバイオリンに弓をあてた。
  ギギ〜 グギャギャ〜 ギギ〜コ ギャギャギギ〜
短いようで長い破壊音を響かせると、セティはバイオリンをしまって何もなかったかのようにティニーに続きを解くように促した。
「あの、今のはいったい…。」
「ちょっとね。」
何だか良くわからないがまぁいいかと、ティニーは続きを解きはじめた。


 

夕食まで御馳走になってティニーが帰った後、部屋で自分の試験勉強をしていたセティの元にメイドが飲み物を運んで来た。
セティが返事を返すとトビラが開かれてメイドが入って来たが、その後ろからフュリーも入って来た。
「母上、どうかされましたか?」
「セティ、あれはちょっとやり過ぎよ。レヴィン様とフィー、泡吹いて倒れてたわ。」
「自業自得ですよ。」
2人が部屋の前で聞き耳立ててたのを察知して、セティは2人に破壊音をプレゼントしてやったのである。
「でも、やっぱりやり過ぎよ。フィーはコップだったからまだ良かったものの、レヴィン様なんて盗聴器使ってらしたのよ。」
セティは母の言葉に面喰らった。てっきり、トビラに耳付けて必死に聞き耳立ててるんだと思ってたのに、そんな小道具まで用意して自分達の様子を探っていたのか、あの2人は。それに、父上だけならともかくフィーのやつまで一緒になってコップ使ってたなどとは、とセティは軽い目眩を覚えながらも何とか踏み止まった。
「さぞかし耳と頭が痛かったことでしょうねぇ、父上は。これに懲りて、少しは悪ふざけを慎んでいただけるといいのですが…。」
「セティ!!」
「私は悪くありませんよ。そんなものを使ってひとの部屋を盗聴する方が悪いのです。」
確かにレヴィンとフィーのことはあの2人が悪い。しかし、セティが2人にプレゼントした破壊音は、近くの部屋で仕事をしていた使用人達を数人巻き添えにしたのだ。あの2人と違って妙なアイテムも使ってなかったし耳もすましてなかったから大した被害ではなかったが、暫くの間耳鳴りがしていたらしい。
「それは…その者達には申し訳ないことをしましたね。後で謝っておかなくては…。」
「その必要はないわ。彼等にはその場で私から謝っておきましたから。」
只でさえフュリーの詫びの言葉に恐縮してしまったのに、後でセティが改まって謝ったりしたら、彼等はこの家に居づらくなってしまうだろう。
しかし、セティが使用人の被害まで全てレヴィン達のせいだなどと言い出さなかったことで、フュリーは少し安心した。彼はあの2人の行為にかなりの怒りを覚えているらしいが、己の行為がもたらしたことへの責任は感じているようだ。どうやら、レヴィンのせいで捻くれて思いやりをなくしたという訳ではないらしい。
「これからは、もう少し手加減して差し上げてね。」
「そう心掛けます。」

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