After War(ユングヴィ編)
聖戦が終わって、父の国を継ぐと思っていたファバルは紆余曲折を経て、ユングヴィ公爵となった。
もともとここを治めていたスコピオは、領民を迫害してた訳でもなく、さりとて領民から慕われてた訳でもなく、ただ単に公爵面して存在していただけだった。実際の政務や財務は元々ユングヴィに勤めていた者やアルヴィスが選定した者達によって執り行われていた。
そして、それはファバルが公爵位に就いた後も、大して変わりはしなかった。
ファバルは政治の事などわからなかったし、金を稼ぐことはあっても使い方はパティや大人達に任せていたから財政の事もわからなかった。追々学んでいくとしても、すぐにどうなるものでもなかった。
しかし、そのことを不満に思うものが2名、存在していた。
「叔母さんとラナが?」
「はい、自由に金を使わせて欲しいと騒いでおります。特にエーディン様が。」
財務担当官の報告に、ファバルは首を捻った。
「何か欲しいものでもあるのかな?」
「さあ。それでしたら仰っていただければ…。」
「それが面倒なのですわ!」
2人が乱入してきた。
「ハンカチ1枚買うにも、いちいち財務部を通さなければならないなんて。」
公費で買うものはどんな小さなものでも財務部を通して、管理部が手配するようになっていた。ファバルはそれで不自由を感じたことはなかったが、元々この城で暮らしていた叔母からすれば窮屈なのだろうか。
「別に、ハンカチくらい勝手に買えばいいじゃないか。叔母さんだって、無一文じゃないんだし。」
私費で買うならいくらでも自由に買い物ができるのだ。実際、ファバルは城下を散策中に、ちょっとした食べ物を小遣いで買うことがある。
「私の事を「叔母さん」なんて言ったのはこの口かしら〜?」
エーディンはファバルのほっぺたをつねり上げた。
「にゃにひゅんひゃよ、おひゃひゃん。」(何すんだよ、叔母さん)
「母さま、そのくらいで許してあげて。ファバルは、なかなか呼び慣れないのよ。」
「仕方がないわね。でも、早く「お母さま」と呼べるようにおなりなさい。」
ファバルは心の中で、絶対呼んでやるもんか、と叫ぶのであった。それと同時に、やっぱり母さんと一卵性双生児だったってのは本当かも知れない、と再認識していた。
「それで、いったいどうして欲しいんだよ。」
気を取り直して聞くファバルに、エーディンとラナは公費で買うものについても、いちいち財務部を通さなくて済むように要求した。
結局、高額のものは今まで通りの扱いとするが、ちょっとした買い物なら前もって財務部を通す必要はなくなった。事後承諾的な形で、請求書を財務部にまわすことになったのである。
そして、悲劇の幕は開かれた。
あれから3ヶ月と経たずに、ユングヴィの財政は傾いたのである。
ちりも積もれば、とは言うが、些細な金額の買い物でも数が膨大になればとんでもない金額になる。エーディンとラナが、頻繁に杖を修理したり可愛いものや綺麗なものをちょいちょい買い込んだりした結果、財務部に回ってきた請求書の合計金額は国家予算なみに膨れ上がっていた。
バーハラから支援金をもらい、グランベル軍弓箭部隊最高指揮官の特別手当までもらっているというのに、それでも支払いには困窮した。
直ちに、以前の方式に戻すことが検討されたが、エーディン達は首を縦には振らなかった。彼女達にしてみれば、そんなに買い物をしたつもりはないのである。
そこでラナが家計簿(買い物帳)をつけることで、ひとまず譲歩することとなった。
しかし、それで金が湧いて出る訳でもなく、財政を立て直すためにも元手は必要だし、生活するにも金は要る。
「パティ〜、頼む。金貸してくれっ!!」
ファバルは、隣国で元気に金勘定している妹に頭を下げまくるのであった。