After War(シレジア&フリージ編)
突然の婚礼からしばらくして、ティニーはフリージの全権をアミッドに委ね、シレジアへやってきた。
もともと私物などあまりないので荷造りは容易かった。ティニーの持ち物の中で私物と言えるのは、ティルテュの形見とセティからの手紙の束&プレゼントくらいで、それ以外は公費で買った物ばかりである。その中から、お気に入りの服やアクセサリー、残しておいても他に人には使えないであろうものなどを持たせてもらって、荷造りは終わりであった。
しかし、引き継ぎやシレジアへの同行者の人選に時間がかかったのだ。
あの婚礼は、セリスが唐突に言い出して行ってしまったものだったので、フリージ城では何の準備も進んでいなかった。かと言って、今さら反対出来るものでもないし、そうなればフリージの面目にかけて、盛大に送りださねばならない。それなりの支度が必要だった。
ともあれ、ティニーはやっと正式にシレジア王妃に迎えられた。
「あれ、そのクマ…。」
セティはティニーの荷物の中に、自分が贈ったぬいぐるみを見つけた。何と、セティが戦時中に見につけていた服に良く似た服を着ている。そして首からは、セティの字で『セティ代理』と書かれた札を下げていた。
「あ…もう、代理は必要ありませんね。」
そう言うと、ティニーは札をはずし、
「今までありがとう。」
と言って、クマを抱き締めた。
「いつも、そうやって抱き締めていたのかい?」
「ええ、寂しくなった時は…やだ、セティ様ったら何を言わせるんですか!?」
ティニーは真っ赤になってクマを更にきつく抱き締めた。それを見て、セティはティニーの腕の中のクマを軽く指先で小突いた。
「うらやましい奴だな、こいつ!」
「いじめちゃダメですよ。」
クマをセティから遠ざけるようにティニーは身を捻ったが、セティはその腕の中からクマを取り上げてしまった。
「君の席は用意してあるから、いつまでもそんなうらやましいところに居るんじゃないよ。」
セティはそう言うと、スタスタと私室の奥へと歩を進めた。慌ててティニーが追い掛けて行くと、セティは椅子の前で立ち止まり、先にそこに置かれていたものをずらしてクマを隣に置いた。
そして、クマの頭に手を置いて、真面目に告げた。
「さぁ、これからはこっちのティニーを君に任せるから、人間のティニーは私に任せなさい。」
ティニーが覗き込むと、そこにはティニーが贈ったウサギのぬいぐるみがドレスを纏ってクマのセティと仲良く座っていた。
「これでいいよね。」
「はい、セティ様。」