After War(アグストリア編)

聖戦が終わって、アレス、ナンナ、デルムッドはアグストリアに戻ってきた。そして、戦いの中でデルムッドと結ばれたリーンも、彼と一緒にアグストリアにやって来た。
長い間、王が定まっていなかったアグストリアは荒れ果てていた。盗賊や海賊が横行し、田畑は荒れ、人々の心は荒廃していた。
しかし、かつてのノディオン王エルトシャンに瓜二つのアレスの帰還は人々の心を奮起させた。彼が実際にエルトシャンの息子だと知り、人々は未来への光を見い出した。そして、やはり母にそっくりのラケシスの娘ナンナがアレスに寄り添っている姿に、昔を思い出して涙する者もあった。そんな民衆の姿に、アレス達はアグストリア統一にかける想いを強くするのであった。


村を解放するため盗賊と戦っていた時のことだった。
後方に控えていたはずのリーンが前線近くに姿を見せた。次々と襲っている盗賊に必死に抵抗を続け疲弊していた村の者たちを元気づけようと、密集した村々を踊り回っている内に、前線まで来てしまったのだ。
「リーン、前へ出てくるな!」
まっ先に気付いたアレスが間に入り、辛うじて、リーンに襲い掛かった盗賊は切り捨てられた。
「大丈夫か?」
アレスの問いにリーンがうなずくと、慌てて駆け付けたデルムッドにリーンを任せ、アレスは再び先頭に立って戦いはじめた。しかし、この僅かな時間の出来事はナンナの心に小さな刺となって突き刺さったのだった。
その夜、ナンナは自分の天幕を離れ、ノディオン城の見える丘の上に座り込んでいた。
「城を眺めるには、暗すぎるんじゃないのか?」
「大丈夫よ。」
「さっさと天幕に戻ってこいよ。」
「アレス。少し、一人にしておいてくれない?」
心配しているアレスを追い返して、座り込んだままでいると、今度はデルムッドがやって来た。
「どうかしたのか、ナンナ。アレス様が心配して俺のところまで来たんだけど。」
「何でもないわ、ほっといて。」
「具合でも悪いのか?」
「何でもないったら!」
ナンナの勢いに、デルムッドは逃げるように走り去った。
「どうだった?ナンナの様子は。」
「ダメですね。何でもないの一点張りですよ。」
天幕まで報告に来たデルムッドに、アレスは椅子をすすめ、そのまま2人は果実酒を飲み始めた。
「アレス様、何か心当たりはないんですか?」
「ない。」
「ナンナに意地悪したとか、からかって遊んだとか・・・。」
「今更するかっ、そんなこと!」
「ですよねぇ。」
酒を飲みつついろいろ思い当たることがないかを考えてみたが、いくら2人が思い返しても、ナンナが不貞腐れている原因はわからなかった。
「リーンに相談してみましょうか。あいつなら、俺達にはわからない女心ってやつもわかるでしょうし、女同士で話しやすいでしょうから。」
結局、2人はリーンにナンナの様子を見に行ってもらうことにした。
頼まれたリーンは、「鈍感!」と言い残して、ナンナのいる丘の方へ走って行った。


「ナンナさん、ちょっとお話して行っていいかしら?」
「勝手にすればいいでしょ!」
膝に顔を埋めて動こうとしないナンナに毛布をかけて、リーンは話し始めた。
「デルムッドがね、あなたの心配ばかりしているの。昼間、私が盗賊に切られそうになった時も、あなたの方を見ていて気付くのが遅れたのよ。」
「じゃあ、やっぱりアレスは私じゃなくてあなたの方を見ていたのね。」
押し殺したような声でそう言ったナンナに、リーンは笑い出した。
「あ〜、やっぱり昼間のこと気にしてたんだぁ。」
「だって、アレスったら他の誰よりも早くあなたのことに気付いたし、「大丈夫か?」なんて・・・。」
「あのね、誰よりも早く気付いて当然なのよ。だって、あの人は指揮官なんだから。みんなを指揮するには、常に自分の目の前だけじゃなくて全体を見渡しながら戦っていなくちゃいけないの。それにあなただって、戦いながら怪我してる人とか弱気になってる人とかのチェックしてるし、そういう人に「大丈夫ですか?」くらい言うでしょ。」
「それは、そうだけど・・・。」
やっと、顔を上げたナンナの両頬に手を掛けて、リーンは続けた。
「解放軍に参加した頃アレスが私を気にかけてくれたのも、今日の昼間助けて心配してくれたのも、仲間だからよ。あなただって、リーフ様が危なくなったら幼馴染みとして助けるでしょ。」
言われてみて、ナンナは自分が振ってしまった高貴な幼馴染みのことを考えてみた。確かに、アレスと結ばれた今でも、彼が困っていたら力になりたいし、危ない目に会っていたら助けようとするだろう。
「自信持ちなさいよ。あのすさんだ心を開かせて掴み取ったのはあなたなんだから。」
そう言いながら、リーンはナンナの頬を掴んで引っ張った。ナンナはびっくりして、そして慌ててその手を払い除けた。
「痛〜い。何するのよ、もうっ!」
「あら、そのくらい我慢しなさい。しょーもないことでデルムッドを心配させた罰よ。」
「しょーもなくない!」
「だって、デルムッドったら、私のこと差し置いてあなたの心配ばっかりしてるんだもん。妬けちゃうなぁ。」
そのまま2人は毛布にくるまって、お互いの恋人の紛らわしい行動に対する不満をネタにおしゃべりを続けた。
そして、いつまでも戻ってこない2人を心配してこっそり様子を見に来たアレスとデルムッドは、そこで繰り広げられていた愚痴の言い合いに、深く溜め息をついたのであった。

-End-

あとがき

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