LIVING DAYLIGHTS

昼過ぎまでぐっすり眠った二人は、お茶の時間に合わせてリーフとフィンの元へ行った。
「ああ、まだ腫れが引いてないね。」
リーフは、ナンナの顔を見て心配そうに声を掛けた。
「あれだけの力で殴られたんじゃ、半日やそこらじゃ直らないだろうな。」
「痛みがひどいようならライブ掛けるけど、どうする?」
優しく声を掛ける二人に、ナンナは無理に笑みを浮かべた。そして、静かに首を横に振った。
「いいんです、リーフ様。これは、私の我が侭が招いた結果ですから。」
ナンナは、そのままテーブルについた。
後を追ってテーブルについたリーフは、フィンに向かって言った。
「お前の気持ちも解らなくはないけど、ちょっとやり過ぎたんじゃないか?」
「はぁ、慣れないことはするもんじゃありませんね。」
「でも、おかげで実質上無罪放免だ。」
あのレヴィンも「今回だけは大目に見てやる。あんまり甘やかすなよ、2人とも。」と言って許してくれた。
「私もそれを聞いて、少しホッとしたんだ。普通なら、こんな簡単に済むような問題じゃないものね。」
「ええ。正規軍よりは遥かに甘いですが、一応ここも軍隊ですからね。」
「良くて謹慎処分、下手すりゃレンスターに追い返されるかな?」
何やら3人だけで納得しているような会話に、ナンナは首を傾げた。
「フィン、手が痛かったんじゃない?」
「ええ、まぁ。」
「まったく、驚きましたよ、あの時は。まさか叔父上が、って。後で気付いて得心しましたが。」
ナンナは、ますます混乱した。
「しかし、アレス様の態度にも驚きましたよ。」
「うん。皆も驚いてたね。あれでは、セリス様も大幅に譲歩せざるを得ないよね。」
「別に…俺はスジを通しただけだ。」
3人だけで進められる会話に、ついにナンナは爆発した。
「さっきから、3人で何を話してるんですか?私にも解るように説明して下さい!」
ナンナに怒鳴られて、3人は視線を交わしあった。結局、当事者であるところの2人は言いにくそうだったのでリーフが最初に説明の口を開いた。
「だからね、今回のナンナの処分の話だよ。普通は、こんなもんじゃ済まないんだけど、戻るなりフィンが手を上げたってことで皆ナンナにきついこと言えなくなっちゃったんだ。」
「それに、アレス様が庇って下さいましたしね。」
「私は本気でアレス殿が悪いと思ってるんだけどね。」
フィンが「まあまあ」とリーフを押さえてると、アレスは平然とした顔で言った。
「それで構わんさ。実際、俺が事故ったのが原因だしな。」
リーフは、目を丸くしてアレスを見た。
「…言ってくれますね。これは認めざるを得ないかな?」
「何を?」
「あなたとナンナのことを。でも認めるのは事実関係だけで、私は諦めたりはしませんよ。」
堂々たる宣戦布告だった。
「上等だ。だが、お前の入る隙など与えんからな。」
言いつつ、アレスはナンナを抱き寄せた。
「ああっ、わざわざ当てつけてる〜。」
「ふん、悔しかったらお前も彼女を作ればいいだろう?」
「嫌です。私はナンナがいいんです!!」
その様子に、ナンナは呆れたように溜め息をついた。
「まぁ、しかし今回はリーフにも結構負担を掛けたんだろうし、ちょっと話し相手でもしてやれよ。」
アレスはナンナをリーフの方へ押し出した。
「何か企んでませんか?」
訝し気に問うリーフに、さも心外だというアクションを示しながらアレスはリーフに耳打ちした。
「ちょっと、叔父上に内緒話があるんでね。ナンナにはあまり聞かれたく無いんだ。」
フィンに内緒話って何だろう、と気にはなったがリーフはナンナを独り占めできる喜びの前にあっさり引き下がった。多分、今回の一件について何か話したいのだろうと勝手に納得して、ナンナの席を自分の傍に移動させた。
「あの…何でしょうか、内緒話って?」
声を潜めて問うフィンに、アレスは小声で応じた。
「俺のことは殴らなくても良かったんですか?」
「えっ?」
「姿を見せるかなり前から、見ていたのでしょう?」
確かに、フィンは娘のラブシーンをしっかり目撃してしまった。戻ってきたのに気付いたものの、声を掛けるタイミングを逸していたらあの光景にお目にかかってしまったのである。
今回の一件でフィンはナンナがアレスのことをどう思っているのか知らしめられると同時にアレスがナンナのことをどう思っているのもよく分かってしまった。暁の光の中で見た光景は目の錯角ではなかったことを、その後のアレスの行動から再認識させられた。
フィンの様子に、アレスは確信を持った。
「やっぱり、見てたんですね。そんな気がしたから、あの時俺はてっきりその振り上げられた手が俺の方に飛んでくるのかと思いましたよ。」
「何故ですか?」
「父上は昔、「万が一にもラケシスの眼鏡に適う男が現われたら、一発殴ってから祝福してやる」って言ってたことがあるそうです。」
「は、ははは…。キュアン様も確かそのようなことを仰ってましたね。」
アルテナを嫁にしたければ私を倒してからにしろとか何とか。まだ生まれたばかりの娘を前にもう嫁に出す心配かとエスリン様に呆れられていましたっけ、とフィンは懐かしく思い出した。
「幸い、私はエルトシャン様に殴られずに済みましたので…。」
「おかげで俺も助かったって訳か。」
「まぁ、そんなところでしょうか。」
ナンナに詰め寄られてとくとくと何かを説明しているリーフの姿を眺めながら、アレスとフィンは今回の一件が全て穏便に済んだことを喜んでいた。

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