若者よ悩みを抱け!!

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トラキアでの戦いを終えて、改めてグランベルへ向う前に英気を養うため、解放軍の戦士達はしばしの休息を得ていた。
そんな中、ティニーの表情はずっと優れないままだった。
「ティニー、何か悩みでもあるの? あたしで良かったら相談に乗るわよ。」
フィーは心配そうに声をかけた。
「あの、実はわたし…。」
深刻な顔で話しかけて、ティニーはハッとなって口をつぐんだ。
「どうしたの?」
「ご、ごめんなさい! でも、フィーさんには言えません!!」
あっけにとられるフィーを置いて、ティニーは普段は見られないような駆け足でその場から逃げ出した。
フィーから逃げ出したことを気に病みながらティニーが植え込みのところで座り込んでいると、彼女を探してセティがやって来た。
「ああ、良かった、見つかって。君が何か悩んでるようだから相談に乗ってやって欲しいとフィーに言われて探してたんだ。大して力にはなれないかも知れないけど、私で良かったら悩みを話してもらえないかな?」
セティにそう言われて、ティニーは心の何処かで嬉しく思ったが、弾かれたように立ち上がるとまた全速力で逃げ出した。
「ごめんなさい、言えないんです!!」
信頼してもらえないのかと傷つくセティに背を向けて、ティニーは驚くべき速さで姿を消した。そして、何処をどう走ったのか解らぬままフラフラになるまで全力失踪したティニーは足がもつれて転んだまま起き上がれなくなったのだった。

デート帰りのアレスとナンナがそこを通りかかったのは、ティニーが転ぶ直前のことだった。
「おい、今、変な音しなかったか?」
「変な音? 気付かなかったけど、どんな音だったの?」
「何か砂袋が落ちたような、それと同時に尻尾踏まれた猫の声みたいなのも聞こえた気がする。」
アレスとナンナは、警戒しながら建物の角を曲がった。すると、前方に何やら白っぽい布に包まれたものが見えた。
「あら、本当に砂袋が落ちてるみたい。」
一体どこから落ちたものかと駆け寄ってみて、アレスとナンナは驚いた。
「妹魔道士!?」「ティニー!?」
同時に叫んだ2人は、そっと触れてみて息があることを確認し安堵した。どうやら意識もしっかりしているらしく、そのままの格好で泣き伏しているようだった。
「ティニー、起き上がれる?」
「……ナンナさん?」
優しく声をかけられて、ティニーは顔を伏せたまま身を起こした。するとナンナはすかさずハンカチを渡す。
「立って歩けるかしら?」
ハンカチで顔を覆ったティニーを支えるように手を貸しながらナンナは彼女を立ち上がらせたが、その足はまだまともに力が入らなかった。
「アレス、運んであげて。」
「ああ、構わんが、何処へ運べばいい?」
こんな状態でティニーが皆の居るところへ帰りたくはないだろうと思うのは、アレスも一緒だった。
「そうね、どこか静かなところ。綺麗な水のあるところがいいわ。」
ナンナに促されるままに、アレスはティニーをマントで簀巻きにして抱えて近くの泉に向った。
淡々と事が運ばれて、泉の横でマントが解かれた時にはティニーの涙は止まっていた。
「さぁ、とりあえず顔洗ってね。」
「……はい。」
何がなんだか解らない状態で、ティニーは泉で顔を洗った。ついでに水を何口か飲むと大分気持ちが落ち着いてきた。転んだ時に汚れた手足も洗ってナンナに傷の手当てをしてもらうと、ティニーはすっかり落ち着きを取り戻していた。
「どうして、あんなことになってたのか、話してもいいと思ったら話してね。話したくなければ無理には聞かないし、誰かに言いふらしたりもしないから安心して。」
ナンナににこやかに言われて、ティニーはフィーとセティから逃げてきたことを話した。
「そういうことだったの。その悩みについては、聞いてもいいのかしら?」
今度はかなり考え込んだが、ティニーは小さくコクリと頷くとポツリポツリと話し始めた。
ティニーの話す気を挫いたりしないように、アレスとナンナはティニーの言葉が途切れても先を促したり意見したりせず、最後までジッと聞いていた。
「……どうしていいのか解らないんです。」
話し終えてティニーが言葉を求めるように顔を向けたのを見て、アレスとナンナはサッと目線を躱した。そして、ナンナが言葉を返す。
「本当に解らないの? 本当は、解っているけど実行に移せないんじゃないのかしら?」
ティニーは俯いた。
「相手の気持ちを思いやるのも大事だけど、自分の気持ちに正直になることも時には必要よ。」
「本当に欲しいものならば、手に入れるために行動あるのみ。他の事には一切構うな。それが出来ないなら所詮はそれだけの想いしかなかったということだ。」
アレスのきつい言葉に、ティニーはビクンと肩を震わせた。
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ!! 皆が皆、アレスみたいに自分勝手じゃ居られないのよ。」
「だが、間違ったことを言ったつもりはない。」
平然と言ってのけるアレスに、ナンナは呆れたように肩を竦めた。そして、ティニーに向き直る。
「アレスの言い方はともかく、行動すべきだというのは私も同意見だわ。」
「でも、御迷惑になっては…。」
消え入るような声で、ティニーはためらいを口にした。そんなティニーを諭すように、ナンナは彼女の肩に手を置いた。
「ティニーをどう想ってるにしても、セティ様は決してその気持ちを迷惑だなんて思ったりしないわ。大丈夫よ。」
「喜ぶ方に5万G。」
アレスの呟きは幸か不幸かナンナの耳にしか届かなかったが、ティニーはナンナの自信たっぷりな様子に勇気づけられた思いがしたのだった。

「好きです!!」
アレスとナンナに後押しされて、ティニーはセティを見つけるなり駆け寄るとそのままマントの端を掴むようにして一言叫んだ。ティニーにとってはそれでもう精一杯の勇気を使い切ったようなもので、後は続かずただセティを見つめるだけだった。
そして、セティは突然の告白に驚いた後、ティニーの言葉を反すうしてからそっと彼女の身を抱き締めた。
「あ、あの、セセセ、セティ様っ!?」
「ありがとう。」
それは、断わりの言葉だろうかとティニーは不安になった。
「このところ、ずっと避けられてたみたいで落ち込んでたんだ。さっきも凄いスピードで逃げられたし…。」
「すみません。」
「謝らなくていいよ。私が勝手に落ち込んだんだから。」
「はぁ……。」
ティニーはセティが何を言わんとしてるのか解らず、そのまま抱き締めて来る腕に身を任せていた。
「おかげで、どれだけ自分が君の事を想ってるか、思い知らされた気分だ。」
「えっ!?」
予想外の流れに、落ち着きかけたティニーの鼓動が再び激しくなった。
「愛してる、ティニー。ずっと私の傍にいて欲しい。そして、どうか未来のシレジア王妃に…。」
「……はい、喜んで。」
ささやかな拍手に包まれて、セティとティニーは晴れて恋人同士となった。
「良かったわね、ティニー。」
「はい、ナンナさん達に言われた通り、行動してみて良かったです。」
ティニーは花畑に薫るそよ風のような微笑みを浮かべた。
「だから、言ったろ。喜ぶ方に5万Gって。」
「アレスったら…。もしかしてセティ様の気持ちを知ってたの?」
ナンナとティニーに丸い目を向けられて、アレスは不敵な微笑みを返した。
「落ち込んだセティにも相談されてたからな。」
「私がぐずぐずしてる内に、ティニーに先を越されてしまったね。」
苦笑するセティに、ティニーは泣き笑いのような複雑な顔を向けた。上目遣いに見つめるティニーの可愛いさに、セティは今度はその頭を自分の胸元に引き寄せると、ティニーが落ち着くまでずっとその髪を撫でていたのだった。

-了-

《あとがき》

シリーズ第2弾。ティニーちゃんの章です。
途中で何を悩んでるのか気付いた方も多いと思いますが、ティニーちゃんの悩みの具体的なことについては敢えて書かずに進めてみました。その所為か、はたまたティニーちゃんとセティ様では誰かが後押ししないとこういう問題では全然前に進めない所為か、とにかくアレスとナンナがいっぱい出ばってしまいました(^_^;)
ごめんね、ティニーちゃん、砂袋なんて言って…。でも、アレスの感覚からすると人が転んだ音はそういう表現になるんじゃないかと思ってしまいました。そして、短い悲鳴は猫。
それにしても、セティ様だと何度抱き締めても書いてて全然アダルトっぽく感じないんですが、読んでる方はどうなんでしょうか? 振り返ると、うちのセティ様はティニーちゃんを抱き締めて髪を撫でたり頭をポムポムしたりする癖があるみたいです(汗;)
感じ方は人それぞれと言うことで、これからもうちのセティ様はこのままの路線を貫きたいと思います(^o^)/