眠り姫 SIDE-F

エルトシャン王を亡くしてから、ラケシス姫は鬱いでばかりいる。
周りの方々が何か話し掛けても、すぐにその場を立ち去ってしまう。
そうなるのも無理はないか。あんなに敬愛していた兄上を亡くされたのだから。それに今でも、エルトシャン王を死地へと向かせたのはご自分だと思われているのかも知れないし。でも、あの時の姫様の行動はエルトシャン王にとっても救いだったと思えるのだけど…心をねじ曲げて戦いに挑んだあの方に、剣を引くだけの理由を見い出させたのだから。結局、どちらにしても悲劇的な結末は避けられないところまで事態は悪化していたんだ。なんて、割り切れないよなぁ。
「元気出してね、ラケシスさん。」
デューが声を掛けたけど、姫様は黙って行ってしまった。
当たり前だ。こんな時に「元気出せ」なんて言葉は禁句だよ。善意で言ってるとわかるだけに始末が悪い。
あの様子だと、どこかでこっそり泣いておられるのではないだろう。
暫くはお一人にして差し上げた方がいいだろうな。でも少ししてから、お探ししてみよう。

木立の中、茂みの影に隠れるようにして姫様が座り込んでいらした。
泣き疲れて眠ってしまわれたようだ。ここ最近、よくお休みになれなかったことも影響しているのだろう。
しかし、場所があまりよくないな。ここの地面は少々湿っている。只でさえ、直に地べたに座り込んでいたら冷えてしまうのに、これでは身体に悪すぎる。
「失礼致します。」
呟きながら、そっとお身体を持ち上げてみたが、私には少々荷が勝ち過ぎるようだ。まだまだ鍛練が足りないな。お起こししないようにお連れするのは難しすぎる。
仕方がない。こちらで休んでいただこう。
でも、このまま地べたにってわけには行かないよな。マントを敷いて、その上に座っていただくことにして、何かお掛けするものを取って来なくては。とりあえず、この上着を掛けていていただいて…その間、誰にも邪魔されませんように。

「キュアン様、ご相談申し上げたいことが…。」
あれ?お二方ともいらっしゃらない。
困ったなぁ。一言、キュアン様にお断りしておかないとまずいのに。でも、姫様をそのままにしておくわけにもいかないし。

「……以上の事情により、この地点でラケシス姫の護衛を務めさせていただいております。
〜フィン」

特に用事を頼まれたりはしていないし、簡略地図も付けて居場所等がはっきりしていれば、大目に見て下さいますよね、キュアン様。
祈りを込めて置き手紙をして、あとは早いところ毛布を持って、姫様の元へ戻らなくては。こうしている間にも、誰かが姫様の眠りを妨げてしまうかも知れない。

戻ってみると、姫様はまだぐっすりとお休みになられていた。
上着を取って、毛布をかけて、と。あとは、お目覚めになられるまで、邪魔や刺客からお護り致しましょう。
と、思った矢先に、木陰から声をかけられた。
「フィン。」
「あ、エスリン様。」
「ちょっと入れ違っちゃったみたいね。置き手紙を見て、すぐ来たの。」
「あの、キュアン様はお怒りになっておられませんか?」
「心配しないで。逆に、喜んでたわ。そのまま護衛するようにってキュアンから言いつかってきたから、心置きなくラケシスの側においでなさい。」
「有難うございます。」
「それから、これ。ラケシスが目覚めたら渡してあげて。」
「はい、畏まりました。」
私は、包みを受け取ると、そのまま姫様がお目覚めになられるまで、ずっとお側に居させていただいた。
目覚められた姫様は、どこか明るさを取り戻しておいでだった。私に自然な笑顔を向け、軽い足取りで城へ戻って行かれた。

-《SIDE-F》 了-

SIDE-L

おまけ

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