眠り姫 SIDE-L

エルト兄様が亡くなった。
シャガール王に停戦を進言して、処刑されてしまった。
あの時、城へ向かう兄様にはこうなることがわかっていたのだろうか。「何かあったら形見と思え」と言われた剣は、本当に形見になってしまった。
「大丈夫か?」
「元気だしてね。」
あれ以来、皆、私にそう言ってくる。
でも、心配してくれているのだということはわかってるつもりだけど、言われる度に腹が立つ。
大丈夫なわけないじゃない!元気なんて出せやしないわ!!
それに、何とかして他の事を考えようとしているのに、皆の言葉が悲しみを揺り戻す。
皆と顔を合わせるのが辛くて、裏の木立のところまで来てしまったけど、ここなら誰にも邪魔されずに泣くことが出来そうだ。

いつの間に眠ってしまったのだろう?
ここに逃げ込んだのは昼前だったはずなのに、気が付くとすっかり日が暮れてしまっていた。
でも、何だか様子がおかしいわ。確か、私は城に背を向けて座り込んでいたはずなのに、視界に城が入っている。それに…毛布?
「お目覚めになられましたか?」
フィン?
「どこか痛むところはございませんか?お腰ですとか、その…。」
「いいえ、大丈夫よ。」
さらっと答えたけど、私は今「大丈夫」って言ったのよね。このところ、ずっと繰り返していた時は、とっても辛い言葉だったのに、今は自然に言えたんだわ。
「あなた、ずっとそこに居たの?」
「いえ、その、ずっとと言う程でもないのですが…。」
フィンは、簡単に事情を説明した。
姿が見えないので心配して探していたら、ここで私が眠っているのを見つけたこと。身体が冷えないように、急いで自分の野営用の毛布を取ってきたこと。危害が加わらないように、ここで静かに護衛をしていたことなどを。
聞きながら、何かが引っ掛かった。はっきりとはわからないけど、何かがおかしいような気がした。
「申し訳ありません。お部屋へお連れしようかとも思ったのですが、お起こししてしまいそうだったので。このところ、殆どお休みになられていないのでしょうから、折角の眠りを妨げてはいけないのではと…。」
「あら、謝らなくていいのよ。ここの方が、きっと寝心地が良かったわ。」
フィンの言う通り、このところ殆ど眠っていなかった。なのに、ここでは随分と良く眠れたんですもの。それに、もしフィンが私を部屋へ運び込んだりしたら、きっとまた余計な心配をして声をかける人たちが黙っていないわ。
「でも、あなたはここに居て大丈夫だったの?勝手に長時間、キュアン様のお側を離れていては問題なのではなくて?」
「御心配には及びません。毛布を取りに行った時にはキュアン様にお断り出来なかったのですが、手紙を残して参りまして…間もなくこちらへいらしたエスリン様より、正式に姫様の護衛を仰せつかりました。」
「そう、それなら安心ね。」
私は、そう言いながらフィンに笑いかけていた。笑顔なんて忘れていたのに。何だか、少し気が軽くなってるみたい。
「併せて、エスリン様からこれをお預かり致しました。」
フィンが差し出した包みを開けてみると、中には私のマントが入っていた。
「直にお座りになられていた時に、姫様のお召し物はかなり汚れておられるので。」
言われて見れば、お尻のところにべったりと泥がついている。マントでうまく隠して戻らなくては、格好悪いことこの上ない状態だった。
それと同時に、私がさっきまで座っていたところに何かが敷かれていたことに気が付いた。何だか、見覚えがある色で…そしてさっきから感じていた違和感と合わせると…。
「これ、もしかしてあなたのマントなのではないかしら?」
「申し訳ありません、このようなもので…。」
そう。引っ掛かっていたのは、これだったのだわ。目の前にいるフィンがマントも上着も纏っていないこと。そして、毛布。
見習いとは言え騎士ならマントをしているはずなのに、わざわざ毛布を取りに行ったのは、自分のマントを畳んで湿った地面と私のお尻の間に敷いてしまったから。多分、毛布を取りに行ってる間、私に上着を掛けておいたのだろう。そして、戻って来てから着直すことが憚られて、そのまま…。本当に、真面目なのね。
「ありがとう、フィン。さぁ、早く城へ戻りましょう。二人分の洗濯物を片付けなくては、ね。」
不思議と軽い足取りで私は城へ向かって歩き出した。

-《SIDE-L》 了-

SIDE-F

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