続・お星様を見上げて

アレスの章

ペルルーク城の中庭で宴が催された。
見回りから戻ったアレスが着替えを済ませて庭に姿を見せた時には、だいぶ盛り上がっていた。
アレスは庭全体を見回しナンナの姿を探し求めると、奥の方に設えられた酒瓶が敷き詰められた場所に、レヴィン・フィン・オイフェらに酌をしているナンナとパティを見つけた。まっすぐにそこへ向けて歩き出したアレスではあったが、途中で方向をかえ、会場を殆ど一回りしてナンナのいる一角へ足を踏み入れた。


「随分といい酒が揃っているんだな。」
そう声をかけて、アレスは酒席への仲間入りを試みた。
「おお、お前も飲むか?」
「ああ。」
アレスはレヴィンから陶器カップを受け取ると、さっさとナンナの横に腰をおろした。
「ほら、ナンナ、注いでやれよ。」
すかさずレヴィンがナンナに酒瓶を渡すと、ナンナはアレスのカップに酒を注ぎ込んだ。
酒を半分程飲み干したところで、アレスは思い出したように持ってきたバスケットをナンナに差し出した。
「適当に持ってきたんだが、何か好きなものはあるか?」
「ええっと・・・」
バスケットの中には、サンドイッチ・パウンドケーキ・ポテトサラダ・ミートパイの他、クッキーやチョコレートなども入っていた。そして、脇の方にはミネラルウォーターやジュースのボトルが数本入っていた。
「ああ、それはオレンジ水だ。」
「おれんじすい?」
ミネラルウォーターのボトルを持ち上げたナンナにアレスが声をかけた。そして、別のボトルを持ち上げて言葉を続けた。
「普通のミネラルウォーターはこっちのやつだ。」
「『おれんじすい』って何?」
「簡単に言うと、ミネラルウォーターにオレンジ果汁を混ぜ込んだものだ。」
これ以上難しく言えるものでもないだろうと思われる説明だったが、ナンナはオレンジ水に興味を持った。
「飲んでみろよ。結構いけるぞ。」
言うが早いか、アレスはナンナの手からボトルを奪い取り、キャップを空けてナンナの方へ傾けた。ナンナが慌てて未使用のカップを手にすると、ささやかにボトルの中身が注がれた。
「とりあえず、味見だな。」


オレンジ水は、ナンナの口によく合った。
バスケットの中から食べ物をつまみながら、ナンナは自然な動作でアレスにおかわりを注いでもらっていた。
「ねえ、アレスもお酒よりこっちにした方がいいんじゃない?」
他人に勧める以上アレスもこれを好んでいるはずと見て、ナンナはアレスにオレンジ水を勧めた。
「だが、こんな酒は滅多に飲めないからなぁ。」
自分で作れるのだから、材料さえあればいつでもオレンジ水を飲めるのである。しかし、この高級酒は城に隠されていたものなので、この先いつお目にかかれるか知れない。
「ナンナったら、そんな言い方じゃダメよ。こうやって・・・」
パティはバスケットから掠めとったソーダ水のボトルを構えて、隣にいたオイフェにしなだれ掛かって見せた。
「「ねぇ、一緒に飲みましょう」くらい言ってあげなさいよ。」
一瞬静まり返った後、いきなりアレスが咳き込んだ。カップの底に残っていた僅かな酒を飲み下した時に、視界の端にパティの姿を捕らえ、酒が気管に入ってしまったのだ。
「何よ〜っ、そんなに変だったの〜?」
 アレスはゼーゼー言いながら、首を横に振って答えた。
「ナン・・が・・う・・る・・がたを・・ぞう・・ようと・・たら。」
「ナンナがそうする姿を想像しようとしたら、ですか?アレス様。」
フィンの通訳に、アレスは首を縦に振った。
それを受けて、その場にいた当事者以外の者達は全員、想像しようとした。
「あ、ははは・・・。ちょっと想像できないわね。」
「そうですね。ナンナは真面目ですから。」
「血のせいか、教育のせいか。どちらにしても父親の責任だな。」
「それは・・・否定できそうにありませんね。」


アレスは散々咳き込んだ挙げ句、ナンナに背中を摩られながら深呼吸を繰り返し、やっと普通に呼吸出来るようになった。
「大丈夫?」
「ああ、だが今日はもう酒はヤメだ。」
「それじゃ・・・一緒にオレンジ水を飲みましょう。」
ナンナは頬を朱に染めてボトルを差し出した。
「そう、するとしよう。」
つられてアレスも頬にひとすじ朱を差しながら、空になったカップを差し出した。
乾杯〜♪

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