グランベル学園都市物語

第50話

春休みの旅行は絶望的と思われていたアレス達だったが、ひょんなことから2人でノディオン家所有の別荘に泊りがけで遊びに行けることになった。
高等部の春休み直前にいきなりエルトシャンから事務所に呼び出されたアレスは要らぬ心配をして肝を冷やしたが、そこで受け取った地図と鍵を使ってナンナを口説き落とし、春休みに入って間もなく、ナンナをバイクの後ろに乗せて3泊4日で湖畔の別荘へと旅立った。
「さあ、これで今日から4日間、フィンは私だけのものね♪」
フィンはキュアンの思い付きでリフレッシュ休暇を与えられてしまったから、昨日から1週間お休みなのだ。そして、デルムッドは卒業式の翌日から都市内一周の冒険に出掛けているから、後はナンナさえ出掛けてくれればラケシスはフィンを独り占め出来る。フィンが休暇を取るという話を耳にした時から、ラケシスは彼を独り占めするための計画に力を注いでいた。
まずエルトシャンの元へ出掛けて、別荘を提供してくれるように頼んでナンナ達を旅行に出させた。
それと並行して、キュアンやエスリンにこっそり電話を掛けて、リーフが遊びに来たりキュアン達がフィンを必要とする事態が起きないようしっかり頼み込んでおいた。
更に、フィンがお休みの間は自分の仕事が入らないようにマネージャーにスケジュールを調整させた。
「随分と嬉しそうですね。心配じゃないんですか?」
「心配って、何が?」
「ですから、その…。」
フィンがバイク事故の心配をしているわけではないことを察してラケシスは、そんなことか、と笑い飛ばした。
「別に良いじゃない? だって、私達は…。」
「あれは、新婚旅行だと言ったでしょっ!!」
またしてもたった1度の旅行の事を持ち出されて、フィンは赤面しながら叫んだ。
「とにかく、もう行っちゃったんだから今更心配したって仕方ないわよ。それより私達も何処か遊びに行かない?」
「何処かと仰られても…。」
遊びに行く予定なんてそう簡単に立てられるものじゃないし、第一そんなお金ないし、とフィンがモゴモゴ言っていると、ラケシスは転がるような笑い声を上げた。
「スタッフから映画のペア招待券を貰ったの。だから映画見て、ついでに町中でウインドウショッピングして、帰りに商店街の夕方の大売り出しに繰り出しましょうよ♪」
フィンの性格と家計の状況を実に良く把握した誘い方に、フィンは抗えなかった。この内容でラケシスに誘われて、断る理由など見出せない。
2人は仲良く映画を見て、デパートで服やアクセサリーを眺めて楽しく過ごした。近所まで戻って来たところで缶の麦茶をねだった以外、ラケシスはフィンに財布を開かせることはなかった。
公園のベンチでひと休みしながら、ラケシスは買ってもらったばかりの麦茶を開け、半分まで飲んだところで缶をフィンに押し付けた。
「はい、後はあなたの分よ。」
「えっ?」
「あなただって、咽乾いてるでしょ?」
確かに乾いてるけど、これって間接キスになるんじゃないのか?
外でそこまで堂々といちゃつくという行為にフィンが躊躇していると、ラケシスは尚もグイグイと缶を押し付けた。そして、辺りに見てる人なんか居ないわよ、と態度で訴える。
「あの…いただきます。」
押され負けてフィンはラケシスから缶を受け取って飲み、その様子を嬉しそうにラケシスは眺めていた。そしてフィンが完全に飲み干す前に、
「少し多いので、手伝っていただけますか?」
と差し出すと、ラケシスは満面に笑みを浮かべて最後に残った3口ばかりを飲み干した。


一方、エルトシャンから貰った地図を頼りに私有地内をひた走っていたアレスは、夕方近くになってやっと別荘の姿を見い出した。確かに、聞いていた通り辺りの景色はなかなかのもので、こんなところでのんびり過ごせるとなると持つべきものは金持ちの親と思わないではなかったが、同時に、家はこんなに余裕があるのに何で俺の財布は軽いんだろうと、生まれて以来一度も小遣いをくれた試しのない父を恨めしく思わないでもなかった。
「わ〜、素敵な別荘ね。」
「ああ、立派なものだな。」
その佇まいに感心しながら、2人は別荘の中に足を踏み入れた。
預かった鍵で正面の扉を開けて中へ入ると、人気のない別荘の中は無気味なくらい薄暗く静かだった。
「とりあえず、明かりをつけて回りましょうよ。」
ナンナに促されて行く先々で明かりをつけて行くと、高級な内装が次々と明らかになっていった。そして、各自に割り当てられた部屋の中に入ると、ベッドサイドのテーブルにエルトシャンからの手紙が置いてあった。
ナンナ宛の手紙は、「部屋にいろいろ準備させておいたから、自由に使いなさい。」という内容だった。調べてみると、棚の中には予備のタオル類や毛布、ドレッサーにはブラシはもちろんのこと数種類の髪飾りや簡単なヘアピン、洗面所には歯磨きセットやタオル、クローゼットの中には数枚のワンピースとTシャツやジーンズ、その下の引き出しにはランジェリーまで用意されていた。
「これじゃ、手ぶらでも大丈夫だったな。」
「ええ。でも、どうして伯父様が私の服のサイズ知ってるのかしら?」
言われてみると、自分だって知らないのにあの父がナンナの服、それも下着のサイズまで知ってると言う事実にアレスは驚愕した。
「しかも、これって私が普段利用してるのと同じものよ。」
それなら、謎も解けて来るというものだ。別にエルトシャンがナンナの服のサイズを知ってたわけじゃない。ラケシスが情報を流したのだ。多分、手配しようとしたエルトシャンに聞かれて深く考えずにナンナの部屋をあさったのだろう。
「もうっ、お母様ったらっ!!」
「父上も、ずるいよなぁ。自分だけナンナの服のサイズ教えてもらうなんて…。」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
ナンナは恥ずかしさのあまり、手元の紙を横から覗き込んでいたアレスの頬に軽くパンチをかました。
気を取り直してアレス宛の手紙を読んでみると、ナンナへの手紙と同じようなことが書かれていたが、最後に「調子に乗ってナンナに不埒なまねをしたら即刻勘当するから覚悟しておけ。」と書かれていた。
「伯父様のことだから、本気よね?」
「確かに、父上なら本当にやるかも知れない。」
「せいぜい、身を慎むことね♪」
「ああ。幸いここには他にもいろいろと楽しいことがあるみたいだしな。明日からは思いっきり遊ぼうぜ。」
階下には釣り竿が用意されていたし、近くには登りやすそうな木が多いし、さすがはノディオン家の別荘だけあって剣の稽古場があるし。
「そうね。それじゃ、今日は早めに夕食をとってゆっくり休みましょう。」
早速シャワーを浴びて着替えて階下へ降りて行くと、厨房の冷蔵庫&冷凍庫には電子レンジで暖めれば済む食料がたくさん入っていた。流しの横には小型の食器洗浄乾燥機も完備されている。
世話をやくものが居なくても不自由なく過ごせるようにと手配された別荘で、2人は快適に過ごた。そして、どちらからともなく「新婚旅行はこういう所が良いな。」などと言い出しはっきりとした結婚の約束をしてしまったのである。
そして将来、プロポーズの言葉について聞かれる度に苦し紛れにあの展望スペースの話の終盤部分だけを話して誤魔化し続けることとなったのであった。

- 春休み編 完 -

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