Shoot The Sun

<後編>

アレスやリーン、ティニーを仲間に加え、レンスターのリーフ達と合流したセリス軍改め解放軍は、しばしの休息の後再び侵攻してくる敵を迎え撃つべく進軍を開始した。
レンスター城で防衛しているリ−フ達を少しでも早く援護するため、騎兵は全て森の脇道を抜けてレンスターへひた走った。当然、レスターも援軍としてレンスターへ向かい、森の中で戦うパティを援護してはくれなかった。
「ぼんやりしてないで!」
ラクチェに怒鳴られてハッとしたパティは、自分を庇うように剣を振るうシャナンとラクチェの姿を見た。
「どうして…?」
2人は最前線で進路を切り開いているはずなのに。どうして中央にいるはずの2人が左翼のはずれにいるのか、パティには不思議だった。
「レスターに頼まれた。」
シャナンにその気がないとは言えパティの憧れの王子様に彼女の援護を頼むことにレスターは複雑な表情を見せていたが、それでも一番頼れるのはシャナンだろうとパティのことをよくよく頼んで出立した。
「中央はスカサハに任せた。」
「まったく、こんなんじゃレスターが心配するはずよね。だいたい、碌に自分の身も守れないくせに、よくもまぁ彼の腕前にケチがつけられたもんだわ。」
悔しいが言い返せなかった。
「森を抜けたら、ちゃんとレスターにお礼言っときなさいよ。」
「…うん。」
珍しく素直に頷くパティに、ラクチェは拍子抜けした。
「とにかく、さっさと進みましょう。遅れないでついてくるのよ。」
またしてもパティは素直に頷くと、ラクチェ達の後に従って森を抜けた。
歩兵部隊が森を抜けた頃にはレンスターを攻める敵軍は殆ど残っていなかったが、その後を追ってイシュタルが向かって来ていると言う情報が入り、解放軍は気を引き締めて敵の動きをうかがった。
「凄腕の弓兵?」
偵察から帰ったフィーの報告によると、イシュタルの姿は見えないが弓兵が1人、城へ向かって進んでくると言うことだった。
「そんなの相手にして、よく無事に済んだな。」
「無事なんかじゃないわよ!イヤリング片方、吹っ飛んじゃったんだからねっ!!」
ふと漏らされたアーサーの一言にフィーは勢い込んで文句を言ったが、被害がイヤリング片方で済んだと聞いて一同は胸をなで下ろした。しかし、その直後、シャナンは大変なことに気付いた。
「まさか、最初からイヤリングを狙って射った…?」
「恐らくそうでしょう。もし射落とそうとして外れたなら、第2射が来るはずですから。」
フィーが急いで更に上昇したとしても、偵察距離でイヤリングの鎖を砕くだけの力があるなら届かないと諦めるようなことをするはずがない。そう思うからフィーも先程からその弓兵を「凄腕」と評しているのだ。
シャナンとオイフェの意見にレヴィンも黙って頷き、一同は青ざめた。
そんな中、慌てて陣を飛び出して行く者があった。
急ぎ後を追うレスターを見やり、今飛び出したのがパティであることをシャナンは覚った。
「何でパティが飛び出すんだろう?」
率直に疑問を口にしたリーフに、シャナンはパティの素性と自分の見解を明らかにした。

レスターが馬を引き出している間にもパティは街道を走って、かの弓兵の元へ近付いて行った。
「確かめなきゃ…。もしそうなら、やめさせなきゃ…。」
そろそろ出逢う頃かと思われた辺りでパティは道の脇の大木に身を潜め、息を整えながら念のためにそっと剣に手をかけた。
そして件の弓兵を視界に捉えられるかと思った矢先のことだった。
パティの耳には聞き慣れたひずめの音が飛び込んできた。同じく、弓兵もその音に気付いた。すかさず、矢が番えられる。
「お兄ちゃん、ダメ〜っ!!」
喉も張り裂けよとの思いで叫ばれた声に動揺したファバルだったが、既にその手は矢を放っていた。飛び出したパティの目の前をイチイバルの矢がレスター目掛けて通り過ぎる。
数瞬後、凍り付いたように動けなくなっていた2人の耳に再びひずめの音が聞こえてきた。そして、その音はパティの横で止まると別の声に変わった。
「パティ、無事か?」
恐る恐る声のする方向を見上げたパティの目に映ったのは、肩当てに矢が刺さりながらも微笑むレスターの姿だった。
「外れたの…?」
まさか、そんなことがあるのだろうか。あの兄が狙いを外すなんてことが…。
ファバルも不思議そうにレスターを見た。自分は確かに心臓を狙ったはずだ。それも、胸当てなど軽く貫き通せる強弓で。それが何故、肩当てに刺さっているのだろう。
「あれのおかげだよ。」
レスターは道に転がった2本の矢を指差した。
「射落とすのは出来なかったけど、勢いと方向は変えられたみたいだ。あはは、まだまだお前の基準はクリアできないな。」
でも持ってたのが勇者の弓で助かったよ、と笑うレスターにパティはホッとしたあまり泣き出した。
「おい、どうしたんだよ急に泣いたりして。らしくないなぁ。」
馬から降りてハンカチを貸すレスターの面倒見の良さに感心しながら、ファバルはそろそろと近付いてきた。
「あんた、いったい何モンだ?」
「えっ?俺はレスターと言って、解放軍の一員で…。」
うっかり身元を喋りかけて、レスターは慌てて口をつぐんだ。問いかけてきたのは今し方自分に向けて矢を放った張本人のはずだ。その人物は敵の傭兵で、凄腕の弓兵で…でも、さっきパティが「お兄ちゃん」って…あれ?
「あんた、こいつの恋人?」
「そうよっ!!」
否定しようとしたレスターの声が出る前に、パティが力一杯宣言した。
「「えっ!?」」
レスターとファバルは同時に驚きの声をあげた。
「何よっ、文句でもあるのっ!?」
「だって、まだまだこんな腕じゃ、って…。」
「そんなの…あの矢を迎撃したんだから充分合格よ。それとも、あたしが彼女じゃ不満なの!?」
「そんな訳ないだろ!俺が誰のために腕を磨いてたと…。」
そこまで言った時、レスターとパティの頭に拳が見舞われた。
「痛〜い、何すんのよっ!?」
すかさず殴りかえしたパティに、ファバルは不満そうに言った。
「お前ら、俺のこと無視してんじゃねぇよ!」
「あ〜、思い出した〜。もうっ、お兄ちゃんのバカ!こんなところで敵に雇われてんじゃないわよ!!」
当初の目的を思い出したパティは、聞いてる方まで息が出来くなるような勢いで息つく間もなくポンポンとファバルを責め立てた。
「あ〜、はいはい、わかった。わかりました。俺が悪かったっ。」
「本当にわかったの?」
疑いの眼差しで見つめるパティに、ファバルはイチイバルを握りしめて言った。
「こんなんじゃ、母さん達に申し訳ないしな。俺もお前らと一緒に闘うよ。それでいいだろ?」
また1人心強い味方が出来たことにレスターは喜んだ。
「しっかし、あんたもいい腕だよな。」
「いや〜、そんな…。」
「レスターってね、傍系だけど聖戦士ウルの血を引いてるのよ。」
「へぇ〜、聖戦士さまのねぇ。」
「お兄ちゃん、直系のメンツにかけて負けないようにね♪」
パティの爆弾発言にレスターとファバルがもう一騒ぎしたのは言うまでもない。

-End-

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