After War(アグストリア編 Vol.2)

アグストリアを解放するべく戦いを続けて来たアレス、ナンナ、デルムッド、リーンの4人はエバンスからアンフォニーまでの城と森の中の集落を手中に収め、アグスティ方面攻略に向けての英気を養うべく、ノディオン城で束の間の休息の時を過ごしていた。


部屋に入って来たアレスは、机に突っ伏して眠っているナンナを発見した。
「ナンナ、おいっ、こんなところで寝るなよ。」
起こそうとして軽く揺り動かしたが、一向に目覚める気配がない。仕方がないので奥のベッドまで運んで寝かせてやることにしたが、その時、ナンナの顔についたインクの文字が目に止まった。どうやら書いたばかりの文字の上に突っ伏していたらしく、乾く前のインクが頬に付いたようだ。
それは、鏡文字になっていたが「リーフ様」と読める文字が含まれていた。
まさか、と思ってアレスが机の上を調べると、そこにはナンナの書きかけの手紙と参照されるように置かれたリーフからの手紙があった。
リーフからの手紙は「親愛なるナンナへ」で始まり、国の復興のことやリーフ達の近況などが書かれていた。そして最後に「君の実家はレンスターだから、アレス殿に愛想が尽きたらいつでも帰っておいで。私は君の帰りを待ってるよ。」と結ばれていた。
「何て諦めの悪い奴なんだ、あいつは。」
アレスは苦笑しながらリーフの手紙を置いた。しかし、ナンナの手紙を見て顔色が変わった。
ナンナの手紙は「親愛なるリーフ様へ」で始まり、手紙の礼を述べた後、「私も実家はレンスターだと思っています。ですから、里帰りした時は暖かく迎えて下さいね。」などと書かれていたのだ。
アレスは直ぐさまナンナを叩き起こし、手紙を目の前に突き付けた。
「これはいったい、どう言うことなんだ!?」
「何なのよ、いきなり〜?」
「お前、リーフと文通してたのか!?しかも、レンスターに帰りたかったのか?」
「・・・読んだのね、私達の手紙。」
そう呟いてナンナはうつむき加減に起き出すと、アレスの手を引いて廊下へ向かった。そしてアレスと共に廊下へ出ると、踵を返して部屋へ飛び込み扉に鍵を掛けてしまった。


一瞬、何が起きたのかと呆気にとられて立ち尽くしたアレスが、慌てて部屋に入ろうとした時は手後れだった。
「おいっ、こらっ、いきなり閉め出すなんて何を考えてるんだ!?」
アレスは扉をガンガン叩いたが、中からは冷たい返事だけが帰って来た。
「嫌いよっ!当分、顔も見たくないわ!!」
いくら叩いてもそれっきり返事は帰って来なかった。
開かない扉に業を煮やしたアレスは、仕方なく他の場所から部屋に入ろうと画策した。
しかし、木切れを付けたロープをバルコニーに投げ入れて登っている最中に、ナンナに気付かれてしまった。
ナンナはおもむろに祈りの剣を抜き放つと、バルコニーの柵の間に引っ掛かっていた木切れ目掛けて斬り付けた。次の瞬間、木切れに一筋の傷を残し、結ばれていたロープが切断されてアレスは半階分の高さから落下した。
「ぃ痛っ・・・何てことしやがる。」
うまく衝撃を和らげて着地したアレスがぼやきながら見上げると、ナンナはバルコニーへ抜けるガラス戸にも鍵を掛け、薄いカーテンを引いていた。
その態度に頭に来たアレスは、再び部屋の扉を叩いて怒鳴った。
「どういうつもりなのか説明しろよ!!」
しつこく叩いていると、中から返事が帰って来た。
「ちゃんと謝るまで、絶対に許してなんてあげないんだからっ!!」
「だから、何を怒ってるのか言ってみろ!」
「自分の胸に聞いて見なさいよ!!」
「俺が、何をしたっていうんだ!?」
「自分がしたことも覚えてないって言うの!?」
「だから、いったいどういうことなんだよ!」
反応が帰って来なくなっても、アレスは扉を叩いたりノブを握って揺すったりし続けた。


ナンナが無反応になった状態でアレスが扉を叩き続けてから、どれだけの時間がたっただろうか。
「何やってんですか、アレスさま?」
デルムッドとリーンがやって来て、アレスに声を掛けた。
「見てわからないのか?」
「扉を叩いてることはわかりますけど・・・。」
「ナンナに閉め出された。」
アレスの返事に、デルムッドはリーンと顔を見合わせた。
「いったい、何をやったんですか?」
「どうしてそこで、俺が悪いと決めつけるんだ?」
「だって、ナンナが閉め出したってことは、そうされるようなことしたんじゃないんですか?」
「知らん!いきなり閉め出して、理由も言わないんだ。」
只でさえナンナに訳もわからず閉め出されてイライラしているのに、勝手に自分が悪いと決めつけられて、アレスはデルムッドにも腹が立って来た。
「もうっ、そこでデルムッド達まで喧嘩を始めてどうするの?」
そう言ってリーンが間に割って入らなかったら、おそらくデルムッドとも喧嘩になっていただろう。
「とにかく、何かなかった思い出してみたら?アレスにとっては些細なことでもナンナさんにとっては重要だったってことがあるかも知れないでしょ。」
「そう言われてもなぁ。」
煮え切らないアレスの態度に、リーンは2人の腕を掴んで近くの部屋へ入った。


リーンは丸テーブルのところに2人を座らせると、自分もアレスの向いの席に腰をおろした。
「ナンナさんが怒り出す前に何があったか、その言動から何から全て、思い出せる限りのことを話してみて。」
「どういうことなんだ、リーン?」
「あらデルムッド、わからないの?アレスに心当たりがなくて気付かないなら、私達が原因を見つけてあげるのよ。」
どうやらリーンは迷える人の心を導く父親の血が騒いでしまったらしい。
アレスがぽつぽつと話し出すと、リーンは時々確認を入れながらナンナが怒りそうなネタをピックアップしていった。
「原因として考えられるのは、こんなところね。」
リーンが書き出したメモを、アレスとデルムッドは覗き込んだ。
「やっぱり、リーフ様との仲を疑ったのがまずかったんじゃないですか?」
「しかし、それならさっさと否定してくれれば・・・。」
「じゃぁ、叩き起こしたのがまずかったとか。」
「乱暴に起こしたつもりはないんだがなぁ。」
メモを見ながら、ああでもないこうでもないと話し合う2人の会話を暫く黙って聞いていたリーンだったが、見当違いのことばかり言っている2人に溜息を付いた。
「ナンナさん、ちゃんと言ってあげないとダメだわ、やっぱり。」
そう呟いたリーンに、2人の会話はピタリと止まった。
「まさか、デルムッドまで気付かないなんて思わなかった。これを機にちゃんと覚えてね。」
「え?」
「あのね、手紙を勝手に読んだりしちゃいけないの。」
「そうなのか? だって、ティルナノグでは・・・。」
「子供のお手紙と一緒にしちゃダメ! とにかく、ナンナさんが怒ってる理由はコレよ。さっさと謝ってらっしゃい。」
アレスはリーンに促されて、ナンナの元へ向かった。


「ナンナ、開けてくれよ。もう、勝手に手紙を読んだりしないから。」
「本当に、悪いと思ってる?」
「ああ。」
「二度としない?」
「ああ。」
それでやっと、扉は開かれた。
しかし、リーンがミスをおかしていたことが判明したのは数日後のことだった。
「アレスの莫迦〜!!勝手に日記を読むなんて許せな〜い!!」
「あんなところに置いとくやつが悪いんだろうが!」
しかし、学習効果が上がらなかったアレスに対し、ナンナはあの一件でいろいろ学んだことがあった。ひとつは、何が悪かったのかちゃんと言ってあげないとわかってもらえないということ。そして、もうひとつは切り札を手に入れたこと。
「あんまり莫迦なことすると、ほんとに里帰りするわよ。」
ナンナにそう言われると、その気はないとわかっていてもつい、アレスは全面降伏してしまうのだった。

-End-

あとがき

インデックスへ戻る