魔道士会議
対フリージ戦を前にして、夜営地のあるテント内で魔道士会議が開かれた。
議題は"誰がヒルダを倒すか"。
出席者は、セイジのセティ、マージナイトのアーサー、マージファイターのティニー、ファルコンナイトのフィーの4人である。フィーは魔道士ではないが、アーサーにくっついてやって来て、強引に居座ったのだ。
まず、最初にセティが口を開いた。
「やはり、私が戦うのが一番良いと思うのだ。討ち漏らした分はみんなに手伝ってもらうことになるとは思うが…。」
3人を見回すようにして彼がそう言うと、アーサーとフィーは即座にうなづいた。
「そうですね。セティさんなら、ヒルダの部隊を一度に相手しても充分過ぎるほど戦えますね。」
「うん。お兄ちゃんなら、余裕よね。」
しかし、ティニーだけは賛同しなかった。思い詰めたような表情で、テーブルの一点を見つめていた。
「ティニー、どうかしたのか?」
「セティ様、ヒルダは私が倒します。」
ティニーはエルサンダーの魔道書を取り出して続けた。
「ヒルダは炎魔法の使い手です。風魔法では不利になる。ですから、私がやります。」
「大丈夫よ。風魔法と言っても、お兄ちゃんのは『フォルセティ』だもの。少々の悪条件なんてものともしないわよ。」
「ああ、それに炎魔法は詠唱に時間がかかるから、『フォルセティ』の加護を受けた私なら容易く避けられる。心配はいらないよ。」
「ティニー、無理するな。セティさんに任せておけよ。」
しかし、ティニーは納得しなかった。
「例え、セティ様が戦われるのが一番良いのだとしても、ヒルダは私がこの手で倒したいのです。」
「母上の為にか?」
「はい、セティ様。母様をいじめ殺した憎き敵ヒルダは、母様から受け継いだこの雷魔法の力で私が倒したい。」
「だったら、俺がやる。俺が母さんの敵をとってやる。だから、お前は前線に出ることはない。」
「いいえ、兄様。これは私の役目です。」
儚げに見えても、やはりティニーも聖戦士の血に連なるものである。しかも、気質的にはお気楽だった母よりも、見た目に似合わず芯の強かった父に似ているようだ。
「いいだろう。」
セティがうなづいた。
「ちょっと、お兄ちゃん。」
「ティニーがここまで強く望むことだ。私はその願いを叶えてやりたい。」
「無茶ですよ。ティニーじゃヒルダと対峙する前にゲルプリッターにボロボロにされてしまいます。」
「そうよ。だいたい、無傷で対峙したとしてもヒルダに勝てる保証はないのよ。」
「ならば、囮を使ってヒルダを引き寄せ、ティニーが止めを刺せばいい。」
セティは立ち上がると、テント隅に置かれた荷物の中を探り始めた。
セティは、荷物の中から詳細地図を取り出すと、戻ってきてテーブルの上に広げた。
「ここに道幅が狭くなっているところがあるだろう。ティニーはこの山側で待機し、引き寄せられたヒルダ達に止めを刺すんだ。もちろん、アーサーと力を合わせるようにしてね。」
「簡単に言うけどね、反撃されたらどうするのよ。」
「反撃できないようにしておけばいいだろう。」
「どうやって?」
「お前が山の上からヒットアンドアウェイで少々痛め付けておくんだ。お前なら多少反撃を食らっても大してこたえないだろう。」
セティは事もなげに恐ろしいことを言った。頑丈な妹よりか弱い恋人の方が遥かに大事らしい。
「勝手なこと言わないでよ。何であたしが!?」
「ティニーのためだ。我慢しろ。絶対に倒さないように注意するんだぞ。」
「いやよ。そこまでしてティニーが戦うことなんてないわよ!」
フィーはテーブルをバンバン叩いて抗議した。
「ごめんなさい、フィーさん。でも、どうしても母様の敵を討ちたいんです。」
「フィー、俺からも頼むよ。」
どうやらアーサーは、か弱い妹の方が頑丈な恋人より大事らしい。
「その手でヒルダを討つことで、ティニーには暗い過去と決別して欲しいんだ。」
「フィー、戦いたくないならここから出て行け。元々、お前を呼んだ覚えはないんだ。」
セティが突き放すように言い放った。こういうときの冷ややかさは父親によく似ている。
「戦いたくないなんて言ってないわよ。」
「だったら、いいな。」
「いいわ。でも、ティニーの為じゃないからね。アーサーが頼むから仕方なくやってあげるんだからね。」
「ありがとう、フィーさん。」
「ティニーの為なんかじゃないんだから、お礼なんて言わなくていいのよ。」
フィーはちょっと頬を朱に染めて、そっぽを向きながら言った。
その姿を見て、セティとティニーは密やかにほほ笑んだ。そして、笑い転げたアーサーはフィーに殴られた。
翌日、作戦通りフィーは鍛え上げられていない細身の剣でヒットアンドアウェイを繰り返し、セティはうまくティニーの元まで瀕死のヒルダを誘導した。そして、兄妹の力を合わせたエルサンダーでティニーは見事に母の敵を討った。
セティはティニーの望みが果たされたことを祝い、ティニーはセティの無事を喜んだ。そして、アーサーはフィーの文句を繰り返し延々と聞かされた。
「ほんとに大変だったんだからね。あんたの為だったんだからね。恩に着なさいよ。」
「わかってるよ。感謝してるってば。」
「ほんとに、ほんっとに大変だったんだからね。」
あとがき(という名の言い訳)
こんなところまで読んでいただいて、どうもありがとうございます。
LUNAは、セティ×ティニー、アーサー×フィー絶対主義者です。彼らについて、他の組み合わせは考えられません!
特に、ティニーを支えてあげられるのはセティしかいないし、セティを支えられるのはティニーしかいないって思ってます。
だって、ティニーを包み込んであげられるだけのキャパシティが有りそうなのはセティくらいだもの。他の男の子たちはそんなに包容力がありそうには見えないし、年長者は保護者っぽくなって必要以上にティニーをかばってしまいそう。
一方、かなり重い使命が降りかかって来ちゃうセティに、それを重みと感じさせないのはティニーくらいです。何しろ、LUNAのプレイでは、ティニーは民衆にとっても憎まれているヴェルトマーとフリージの血を引いてますから。アーサーみたいにお気楽な奴でも、エピローグであれだけの決意を表したんですから、ティニーはもっと深刻にならざるを得なかったでしょうね。セティは、神器の継承者ってことの方がよっぽど大変(だって、誰も手助けできない)なのにも拘わらず、ティニーの方が大変だと思って頑張っちゃいそうです。
ちなみに、アーサー×フィーはカップルというより、コンビとして大好きです。アーサーの天然ボケとフィーの突っ込み(というか、文句癖)が笑えます。あのボケについていけるのはフィーくらいでしょう。その場で言い返してすっきり終わりますから。他の娘じゃ愛想尽かされそうだ(^^;)
さて、実はこれも「愛は流星」「金茶の恋合戦」と同設定となっています。ちょっとだけ時間がずれていますが、「金茶〜」の冒頭で先行してた魔法部隊が今回のメンバーです。フィーはファルコンナイトだから、どこにでも現れます。夜は偵察飛行を終えて兄や恋人の元へ来てるわけですね。
しかし、今回はまた、えらくセリフラッシュしてましたね(^^;)
元々、セリフ遊びに地の文はありませんし、どうも彼らに関しては説明抜きでも誰のセリフか判別がつきやすいので、地の文を省きがちになってしまいました。
大丈夫よね、判るよね(^_^;)あせあせ