噂の二人

フィンとラケシスが結ばれた翌朝、ラケシスが呟いた。
「やっぱり、あの噂はデマだったのね。」
「何ですか?その噂って。」
「あなたとキュアン様がデキてるって噂よ。」
手にしていたカップを取り落とさなかったところは立派だったが、思わずフィンはテーブルに頭をぶつけてしまった。
「いったい、どこからそんな・・・。」
姫様はどこからそんな噂を、いや「デキてる」なんて言葉を聞いてきたんだ?
「私は、ベオウルフから聞いたんだけど。」
恋敵が自分を陥れるために吹き込んだのか、とフィンが思った矢先、ラケシスは更に言葉を続けた。
「結婚式の前に、エーディンからも言われたわ。レヴィン様やアレクからも。」
「キュアン様〜!!」
フィンはキュアンの部屋に走って行った。
「どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「あの、その、私とキュアン様のことで妙な噂が・・・。」
「妙な噂って、どれのこと?」
エスリンは、「何?」じゃなく「どれ?」と聞いてきた。
「あの、えぇっと・・・。」
口にするのが憚られてなかなか言い出せないでいると、エスリンは察しをつけて問い返した。
「もしかして、あなたがキュアンのお稚児さんだって話のことかしら?」
さらっと言われたセリフに、キュアンとシグルドはテーブルにフィンは壁に頭をぶつけた。
「馬鹿馬鹿しい噂よね〜。キュアンが私以外に手を出すはずがないのに。」
「エスリン〜、どこからそんな話を〜?」
「まぁ、あちこちで囁かれてたけど、出所はアレクよ。」
怒りを押さえたフィンの声が、シグルドに向けられた。
「シグルド様。今日の訓練でアレク殿を串刺しにしてもよろしいですか?」
「ん〜、出来るならやってもいいよ。訓練中はHP1で生き残るから。」
「では、そうさせていただきます。」
一礼して退室したフィンを見送って、キュアンがシグルドに問い返した。
「いいのか?あんなこと言って。やると言ったら本当にやるぞ、あいつは。」
「出来るならね。」
シグルドが見てる限り、フィンはアレクにやや押され気味に見えた。
「あいつが普段手加減してるの知らなかったのか?」
「えっ?」
「他国の騎士に主君の前で恥をかかせないように、私との訓練と実戦以外では上手に手を抜いてるんだぞ。」
アレク・ノイッシュ・アーダンは前線に出てこないから、未だに手抜きがバレていないのだ。
「じゃ、本当に串刺し?」
キュアンとエスリンは深く頷いた。

馬鹿馬鹿しい噂と戦いながら、フィンとラケシスのシレジアでの新婚生活は続いたが、ある日別れの時が来た。
「出発は3日後ですね。では、姫様にもそうお伝えします。」
「ラケシスは一緒に行けないと思うわ。」
「何故ですか、エスリン様?」
「多分、彼女は・・・。」
エスリンの告げた内容に、フィンは悲しみと喜びを綯い交ぜにした表情でラケシスの元に向かった。
「出発は3日後に決まりました。」
「じゃぁ、急いで支度しなくちゃ。」
「その前に、医師の診察を受けて下さい。」
「何故?」
「エスリン様が仰るには、あなたのお腹の中には・・・。」
フィンから告げれた言葉に、ラケシスは心当たりがあり過ぎた。
「もしそうなら、今のあなたをレンスターへ同行させるわけには行きません。」
馬車でゆっくりと帰るわけではないのだ。荒れた道を馬を飛ばしてレンスターまでひた走る。今のラケシスの身体はそんな行為に耐えられない。
「戦乱が収まってからゆっくり参られるか、私が迎えに来ます。」
「あなたは、私を置いて帰ってそれで平気なの!?」
「そんなことありません。」
「だったら、あなたもここに残って。」
「それは出来ません。」
そう、そういう人だから好きになったと分かっている。けれど、ラケシスは不安と寂しさを感じてしまった。エルト兄様のようにこれでお別れにならない保証なんてないのに、どうして離れていけるのか。
そして何処かよそよそしさを漂わせた二人の様子に、「フィンはキュアンとラケシスを天秤にかけて、キュアンを取ったんだ」との噂が囁かれた。
「出発前にちゃんと話し合わないとクビにしてやる。」
というキュアンの脅しに、フィンはラケシスとよ〜く話し合い、本人同士は納得ずくで別れたのだが、ラケシスの妊娠が公然のものとなるまで噂は広まり続けたのであった。

-了-

あとがき(という名の言い訳)

こんなところまで読んでいただいて、どうもありがとうございます。
フィン×ラケ話の第2弾です。内容的には「眠り姫」の続きと言うか、お星様シリーズのサイドストーリーと言うか・・・。

ラケシスは何故フィン達と一緒にレンスターへ行かなかったのか。
その辺りをLUNA的解釈から描いてみたかった訳ですが、それだけじゃ数行で終わっちゃうので以前から煮込んでいたネタと合わせてみました。お星様シリーズで出てきた馬鹿馬鹿しい噂の数々の一端です。
おかげでエスリンが危ないセリフをサラッと吐いてます。しかも、冒頭のセリフを深読みするとアダルト度が上がります(^^;)
こういうことするのは、シリアス書いた反動だろうか?

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