40.戦場の花

年明けに城の片隅で花札とポーカーチップを見つけたセリスは、リーフとアレスを部屋へ誘い込んだ。
「2人とも、やり方わかるよね?」
「そりゃ、まぁ…。」
「大体は知ってますけど…。」
その答えにニンマリして、セリスはいそいそとチップを配り椅子を配置し、勢いに流されて2人が席につくと問答無用でゲームを始めた。

「手役ある人居る〜?居ないね。では!」
セリスは手札から1枚抜き取ると、シュタッっと音を立てるような手付きで場の「月」に重ねた。
「あっ!」
「何て強欲な奴だ。」
2人は堪らず声をが漏らした、セリスの強欲さはそれだけではなかった。
「松!」
念を込めてセリスは松を、しかも赤短を引き当てると「鶴」まで持って行ってしまった。アレスは自分の手札の中の松カスを見て叫ぶ。
「泥棒っ!!」
アレスがそう言うのも無理はない。場にある物の中で、アレスが合わせられるのは松だけだったのだから。
「人聞きの悪いこと言わないでよ。ほら、松ならもう1枚出てるじゃない。」
「……点数が全然違う。」
それでも取らない訳には行かないし、他に取れる物もなかったアレスは渋々松カスを合わせると、何か良い物を捲って帰りたいとセリスのように念を込めた。しかし、良い物は出たが、場に合う物はなかった。
「ああ、また場が豪華に…。」
アレスは指先を震わせながら「花」を場に置いて手を引く。
「桜っ、桜っ!」
リーフは慌てて手札を何度も見直すが、そこに桜の姿はなかった。仕方なく他のものを合わせると、セリスに倣って念を込めて山札を捲る。
「桜!……何で鳳凰なの〜!?」
手札には桐カスが2枚。こんなことなら1枚捨てておけば良かったと思っても後のまつりだった。もう1周残って来て、と願いながら場に置いて行く。
そんなリーフの期待も空しく、セリスは手札から桐カスを繰り出した。
「逃がさないよ。」
「ああっ、泥棒…。」
「酷いな、リーフまで。」
セリスは苦笑しながら、また念を込めて山札を捲る。
「桜!」
「いくら何でも、それは欲をかき過ぎ…。」
そう言うアレスの目の前で、セリスは本当に桜を捲った。またしても赤短である。
「2ターンで『四光』成立なんて、詐欺ですよぉ。」
「お前、インチキしてないか?」
「してないよ。だって、2人とも切ったでしょ?」
それを言われては文句が言えなかった。しかし、2人はセリスの引きの良さに並々ならぬものを感じる。何しろ、単に『四光』を成立させただけでなく、『赤短』リーチのおまけ付きである。しかも、場では『うぐいす』が啼いている。
「こうなりゃ、せめて『赤短』だけでも阻止しないと…。」
「ええ。この際、アレス殿が持ってっても構いませんよ。」
しかし手札に梅がない以上、捲りに頼るしかない。2人は気合いを入れて山札を捲るが、セリスのようには行かなかった。
「残念でした。はい、成立♪」
手札から最後の赤短を出したセリスによって、2人は初っぱなから一気にチップを減らされたのだった。

詐欺のような光景で幕を開けたゲームは、その後白熱した戦いを生み、「泥棒!」「強欲!」と言い合いながら最後の月を迎えた。
「アレス殿、破産寸前ですね。」
「しかも、高額札を全然取れてないじゃない。負け点、払えるの?」
「……喧しい。」
アレスは何とか高額札をと思うが、一向に持ち帰れる気配がなかった。そもそも、手札に10点札が2枚ってところが悩ましい。1枚なら手役になったのに…。
そして、結局手持ちの10点札を2枚とも召し上げられてしまったアレスは、たった1枚の短冊と沢山のカスをもってゲームを終わらせた。
「チップ貸そうか?」
からかうように言うセリスと、そして夢中で勝ち点を数えているリーフに向かってアレスは手を突き出した。
「100点!」
「はいはい、100点借金ね。」
「借金はもっと申し訳無さそうにやったらどうなんですか?」
楽しそうなセリスと、呆れたように顔を上げるリーフに、アレスはムッとして言い返した。
「違う。『素十六』だ。」
「えっ、嘘っ!?」
2人はアレスの前に置かれた札を数える。
「何言ってるんですか。15枚しか…。」
そう言いかけて、リーフはアレスが指差している唯一の短冊に目を止めて絶句した。
「雨…。」
「そういうことだ。ほら、早く100点ずつ払え。」
渋々と2人がチップを渡すと、アレスは舌打ちしてそれをそのまま場に置いた。
「気の利かない奴らだな。それじゃ、これで釣り寄越せ。」
「リーフ、崩してよ。小金持ちしてるんだからさ。」
「あ、はい…。」
そうして小額チップの山を築き上げたリーフが両替えして釣りを払うと、ゲームは完全に終了した。
「何だか、各人の財布の中身を彷佛とさせる結果になりましたね。」
「今年の金運を暗示してたりして…。」
「……余計なお世話だ。」

-了-

《あとがき》

花札のお話でした(^_^;)
我が家のお正月の恒例行事(?)です。
ゲーム風景は殆ど実話に基づいています(笑)
我が家では、高額札同士で持って行ったり捲りで良いものを持って行くと「強欲だなぁ」と言われ、狙っていた札を目の前でかっ攫うと「泥棒!」と言われます。
ちなみに、この詐欺のような『四光』&『赤短』は母が実際にやりました(^_^;)
起死回生の『素十六』をやったのはLUNAだけど…。

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