4.獅子王
聖戦が集結した後のパーティーで、アレスはセリスとリーフに強引に同じテーブルへとつかされて、不機嫌な顔で2人の話に適当に相づちを打っていた。
「……だよね?」
「そうかぁ。」
そうやって、肯定とも否定ともつかない返事をくり返していたアレスだったが、さすがに次の話題は無視出来なかった。
「聖王って格好良いですよね。」
「あはは、ちょっと恥ずかしい気もしたけどね。」
「セリス様にお似合いですよ。」
リーフの言葉にアレスはまともに反応してしまった。
「何処が!?」
これにはセリスもリーフも驚いたが、それまで上の空で居たアレスが自分達の方へと意識を向けたこの時を逃すほど親切でも甘くもなかった。
「おや、アレス殿はそんなこともお解りにならないんですか?」
リーフは、バカにしたような顔で問い返した。
それに対し、アレスは真正面から反論する。
「こいつが、そんな名に相応しくない腹黒い奴だってことならよく解ってるぞ。」
「やだなぁ、アレスったら。私のお腹の中はきれいなピンク色だよ。疑うんなら、証拠見せてあげようか?」
「要らん!!」
見せてみろ、などと言ったが最後、医師団に取り囲まれて一緒に胃カメラの画像を見せられかねない。
「それじゃ、私の言葉が正しいって認めるんだね?」
「ぅぐっ…。」
にっこり微笑みながら確認をとるセリスに、アレスは渋々と頷いた。
「何、拗ねてるんですか?」
頷いた後に膨れっ面で顔を背けたアレスに、リーフがからかうように声を掛けた。
「拗ねてなんかいない!!」
どうみても拗ねてるよね、とセリスとリーフは囁き合った。
「拗ねてないって言ってるだろっ!!」
2人の囁き声を聞き咎めて、アレスは再び向き直った。途端に、セリスがポンっと手を打って言う。
「そうか、妬いてたんだね?」
「はぁ?」
突然セリスが何を言い出したのか、アレスには解らなかった。勿論、リーフも首を傾げている。
「俺が妬いてる?」
「うん。だって、私には『聖王』、リーフには『賢王』って呼称があるのに、君だけ何もないじゃない。だから、仲間に入れなくて寂しいんだよね。」
「ああ、なるほど。」
セリスの言い分に、アレスは目眩がした。その間に、セリスとリーフの間で話がどんどん進んでいく。
「やっぱり、アレスと言えば『貧乏王』かな?」
「それでしたら、『借金大王』の方が良いのではありませんか?」
「『我が侭大魔王』ってのもいいよね?」
「あ、それいいですね。でも、ちょっと長くありませんか?」
そこで2人が考え込んだところで、アレスは正気を取り戻した。
「いいかげんにしろ!! 誰が『貧乏王』で『借金大王』で『我が侭大魔王』だっ!?」
その時、セリス達のみならず他のテーブルに居た者達までもが一斉にアレスを指差した。その中にはもれなくナンナも入っていた。
「おい、この指は何だ?」
アレスはつかつかとナンナの元へ歩み寄り、自分を指していた指を掴んだ。
「誰が、って聞くから…。」
ナンナは平然と即答した。その様子がへこむアレスの心に追い討ちをかける。
「お前なぁ、恋人ならせめてお前くらいは俺を擁護しようとか思わないのか?」
「だって、アレスが貧乏で借金回数が軍No.1で超我が侭だってことは紛れもない事実だもの。今さら取り繕いようがないわ。」
落ち込んだ位置から這い上がろうとアレスはもがいたが、ナンナの答えは身も蓋もなかった。
「そう言わずに、何かいい呼称を考えろよ。」
それがあれば、セリス達に変な呼称をつけられずに済む。アレスは自分でも考え始めた。
「そんなこと言われても…。」
ナンナも一生懸命知恵を絞ったが、先ほどのセリス達の案が頭をよぎって考えるのを邪魔した。それでも、それらを払い除けて頑張って考える。
「伯父様と同じじゃダメかしら?」
「父上と? ってことは『獅子王』か。いいな、それ。」
アレスは、ナンナの答えに満足気に頷いた。しかし、そこへセリス達2人からブーイングが出る。
「ええ〜っ!? そっくりなのは顔だけで、全然違うじゃない。」
「そうそう。エルトシャン様と言えば、知的でクールで騎士の中の騎士って方ですよ。そんな方と同じ呼称を、貧乏で我が侭で乱暴なアレス殿が冠するなんて罰当たりじゃないですか。」
「そうだよね、リーフ。物凄い親不孝だよね。」
しかし、セリスとリーフ以外の者達は「まぁ、いいんじゃないかな」という雰囲気でまとまっており、多数決でアレスの呼称は『獅子王』に決まった。
しかし、それでセリス達が大人しくなったかと言うとそんな訳もなく、アレスがその呼称に恥じない立派な国王になったとの声が世界に満ちるまでは、それがアレスをからかう新しいネタとなったに過ぎなかったのであった。
《あとがき》
あくまで「お題」ですので、ゲーム内の同タイトルの章とは関係ありません。
エルト兄様のお話にしようかとちょっとだけは思ったのですが、極力ゲームとシンクロさせずに書こうと思っているため、アレスのお話になりました。
お父さん3人組の中でエルト兄様だけ『獅子王』という呼び名を持ってる代わりに、お子様3人組の中でアレスだけがその手の呼び名を持ってないんですよね。何しろ主役張ってないから…(^^;)
それはそれでバランスがとれてるような気もしますが、3人中1人が持ってる場合は「別格ね♪」って思うのに対して、3人中2人が持ってる場合は残りの1人が仲間はずれに思えてしまうのです。おまけに、うちのセリス様ってああいう性格だし…。
そんな訳で、アレスにも何か呼び名を付けてあげたいなぁと思ったところから、こういう話になりました。この御題を見つける前から考えてた話だけど、ちょうどいいのでこの機会に書き上げました。
ちなみに、セリス達が挙げてる例はまさしくうちのアレスのイメージです(^^;)