1.聖騎士誕生
ダーナへ軍を進めたセリス達は、そこで単身ブラムセルの傭兵集団と剣を交えている黒ずくめの騎兵を発見した。
      「何だか、凄い人が居るね。」
      セリスは感心して隣に居たリーフに同意を求めるように顔を向けた。すると、リーフはお化けでも見たような顔をして真剣にその黒騎士を見つめていた。
      「どうしたの、リーフ?」
      よく見ると、その横でナンナも同じような顔をしている。
      「エルト叔父様。ぃえ、そんなはずは…。では、あの人がアレス?」
      「知り合いなの?」
      セリスは2人に訪ねた。すると、自信なさげにリーフが答える。
      「直接知っている訳ではないのですが…。ラケシス様に見せていただいたエルトシャン様の絵姿にそっくりですから、多分あの方はアレス殿だと思います。エルトシャン様の忘れ形見です。」
      「それなら、あの強さも納得だけど…。腕がいいだけの、そっくりさんって可能性もあるんじゃない?」
      でもとりあえず救援はしようか、とセリスが動きかけた時、レヴィンの呆れたような声が聞こえた。
      「莫迦なことを言っていないで、さっさと救い出せ。あれは正しく十二の神器の一つ『ミストルティン』。それを振るっていることが、奴がアレス王子である何よりの証だ。」
      この言葉に、セリスが目の色を変えた。
      「皆、直ちに敵を殲滅するんだ。急がないと……経費が嵩む!!」
      そう言い放つとセリスは先陣をきって傭兵集団に切り掛かり、父から受け継いだ鍛え上げられた『銀の剣』で一撃の元に敵を切り捨てた。他の者達も同じように親から受け継いだ素晴らしい武器で次々と敵を屠っていく。
      「要らん手出しを…。」
      アレスがセリスに文句をつけようとした時には、既に片はついていた。
      ナンナが素早く駆け寄りアレスの傷を癒す。その間に、セリス達はダーナを落とすために更に進んで行った。
      「はい、これで大丈夫です。いくら腕に自信があるからと言って、あまり無茶なことはしないで下さいね。」
      「余計なお世話だ。」
      アレスはナンナにそう吐き捨てると、自分の手でブラムセルを倒すためにダーナ城へと急いだ。しかし、アレスが駆けつけた時は既に城は制圧されていた。
      「ごめんね。君がトドメ指したいだろうから弱らせる程度にしとこうと思ったんだけど、つい必殺の一撃を連発しちゃってさ。」
      セリスは笑って誤魔化そうとしたが、それはアレスの怒りを増大させただけだった。しかし、救い出されたリーンが駆け寄ると、少しだけその怒りは軽減されたようだった。それを見て、セリスはアレスに改めて声をかけたのであった。
 「改めまして、ようこそ私達の元へ。私はセリス。この軍のリーダーを務めさせてもらってます。」
      この挨拶に、アレスの怒りのゲージが再び上がった。
      「誰がお前の軍に入るなどと…。」
      そう言い返しかけて、アレスは別の事に気をとられた。
      「そうか、お前がセリスか。」
      アレスはミストルティンを握り直した。
      「俺は黒騎士アレス。だが、お前にはエルトシャンの子と言った方がわかるだろう。」
      「ええ。」
      セリスは今にも切り掛かって来そうなアレスの様子に動揺することなく、涼しい顔で頷いてみせた。
      「我が父エルトシャンはお前の父に殺された。母上はシグルドを恨み続けて死んだ。お前にその悔しさがわかるか!!」
      アレスは、セリスに向ってミストルティンを構えた。しかし、セリスは平然としている。代わりに慌てたのはナンナだった。
      「待って下さい!! 誤解です。伯父様は、エルトシャン様はシャガール王に…」
      「外野は黙っていろっ!!」
      飛び出しかけたナンナは、一喝されて口をつぐんだところをリーフに引き戻された。ナンナが周りを取り囲む者達の輪の中に戻るのを確かめると、セリスとアレスは再び向き合う。
      「確かに君の気持ちは君にしかわからないだろう。でも、君の父上と我が父シグルドは親友同士だった。不幸な結末にはなったけど、互いに恨んでなどいないはずだ。」
      「莫迦な…。シグルドは我が父の仇。俺はそう信じて今まで生きて来た!」
      セリスはミストルティンの切っ先を鼻先に突き付けられたが、まだ平然としていた。
      「ならば、しばらくこの軍に留まってみるといい。そうすれば、誤解も解けると思う。」
      アレスはしばらくそのままの姿勢でセリスとにらめっこを続けていたが、フ−っと軽く息を吐くとミストルティンを収めた。
      「わかった、しばらく様子を見よう。だが、もしお前の言うことが嘘だと判った時には父親の罪も合わせて貴様の命で償ってもらう。いいな、セリス!!」
      セリスはしっかりと頷いた。そして、心配そうに仲間達に向き直ると何事もなかったかのように叫ぶ。
      「さぁ、皆、強力な騎兵と踊り子さんが1名ずつ加わったところで一気にアルスターへ抜けるよ。」
      これには、まだ解放軍に参加して日が浅い者達は目が点になった。
      「リーフもナンナもぼやぼやしない。向こうにフィンを置いて来ちゃったんでしょ。一気に合流するから、急いだ急いだ!」
      言われて、リーフもナンナも慌てて駆け出した。
      「ほらほら、アレスも急いで。ここに留まるってことは私の指揮に従って戦ってくれるってことだよね? まずはアルスターの制圧。そろそろシャナン達が城を丸裸にしてる頃だと思うけど、ブルーム相手に早速ミストルティンを生かしてもらうよ。」
      そう言い放って馬を駆ったセリスを見送って、アレスは呟いた。
      「もしかして、俺はとんでもない奴に見込まれちまったのか?」
      後悔の念に駆られながらアレスはセリスの後を追うように馬を走らせ、そして皆の期待通りにブルーム相手に見事な戦いぶりを見せた。トドメを指す寸前にワープの魔法で逃げられはしたが、アレスの豪快な剣さばきに周りで見ていた者達は感嘆を漏らし、アレスはこの時から傭兵ではなく十二の神器を受け継ぐに相応しい聖騎士としての道を進むこととなったのであった。
《あとがき》
序章の話だと期待した方にはごめんなさいです。
      あくまで「お題」ですので、ゲーム内の同タイトルの章とは関係ありません。一応、このお題のインデックスページに注意書きはあるのですが…(汗;)
      さて、聖騎士といえば別にシグルド様でなくても全然OKよね。聖戦士で馬に乗ってる人なら誰でも聖騎士でしょ(笑) ってことで、アレスが傭兵から聖騎士になるって話にしてみました。
      書き始めた時点では、ここまでが前置きでこの後ナンナにいろいろ諭されたり何だりしてセリスへの誤解も解けて立派な志を持って戦うようになって初めて「聖騎士」になるようにするつもりだったのですが……連載ものになりそうなので止めました。LUNAは連載が苦手なんです(汗;)
      そんな訳で、アレスが解放軍へ参加する際のお話となりました。ちなみにアレスを助けに行く際のセリス様のあの号令は、プレイ中のLUNAの心の叫びそのものです(^o^;)
      勿論、ダーナを制圧する寸前までアレスとナンナが皆から離れたところで2人きりで隣接待機してるのも実話vv 

