グランベル学園都市物語 外伝

クリスマスすぺしゃる3 愛の宝石箱

クリスマスが近付いて来たある日、セティは家出をした。
事の起こりは『ホテルセイレーン』がクリスマスディナーの予約受付を開始すると、常連客から問い合わせが殺到したことだった。
「今年もまた、あの少女の歌は聴けるのか?」
返答次第で予約を取り止めようという訳ではなく、あくまで期待感の表れとしての問いなのだが、昨年の一件は相当高い評価を得てしまったようだった。
「件のお嬢様は、歌手ではなくお客さまですので…。」
「今年もいらっしゃるとは限りませんので…。」
担当の者達はそんな風に答えながら、他にも良い音楽を用意しておくので宜しく、といった形で対応していた。そして、もしかしたらという期待から例年よりもかなり早く予約がいっぱいになろうとしたのを見て、ついにマネージャーはセティに連絡をとったのだった。
のんびり構えていたセティは、事態を知って驚いた。今年も『ホテルセイレーン』のメインダイニングでいいかな、などと考えていたところだったのだ。席がドンドン埋まってると聞いて、満員になる前に急いで予約入れなくては、とセティが思ったところで、マネージャーは言い難そうに話を切り出した。
「ティニー様に歌っていただく訳には参りませんでしょうか?」
「えっ?」
「皆様、それはそれは楽しみになさっておられまして…。」
ティニーが歌手ではなくセティの恋人であり、分家とは言えヴェルトマーとフリージの両家に連なるお嬢様であることは承知していたが、マネージャーとしては、もし叶うならセティとティニーにささやかなショータイムを提供してもらえれば幸いだとの思いだった。
しかし、セティは即答で断った。
「そんな話が決まってたら、彼女は緊張のあまり倒れてしまうかも知れないよ。」
その答えに、ダメでもともとと思っていたマネージャーはあっさり引き下がった。そしてセティは、クリスマスの予定を別の場所に変えるべくデート先の選定をやり直したのだった。
ところが、セティがデート場所を選定し直していざ予約を入れようとしたところで邪魔が入った。話を漏れ聞いたレヴィンが、ティニーの元に出演交渉の者を差し向けたのだ。
事態を知って、セティはレヴィンを問いつめた。
「ティニーを商品扱いするなんて、一体、どういうおつもりなんですか?」
「どういうもこういうも…。客が期待してるんだ。応えてやろう、って思うだろ。」
レヴィンは悪びれる様子を見せなかった。
「では父上は、お客様が期待しているなら、母上に歌や踊りを強要して商品扱いなさるのですね?」
「莫迦なことを言うな!! フュリーを商品扱いなんて、そんなこと誰にもさせないぞ。」
途端に、3対の冷たい視線がレヴィンに突き刺さる。そして少し遅れて、喜びの表情を一変させたフュリーの哀しそうな顏がレヴィンに向けられる。
「でも、あの娘は昨年も歌ったんだし、また歌ってもらうくらい…。」
「ティニーが自主的にその気になったなら、ね。」
キレてる時ならともかく、内気なティニーに人前で歌えなどとはとんでもないことである。加えて、話を断るにもかなり気まずい思いをすることになる。レヴィンの所為で、ティニーは寝込んでしまったのだ。
「まったく、あなたという人は、どれだけ私達の邪魔をすれば気が済むんですかっ!!」
付き合い始めた頃は悪評でデート場所を限定させ、ティニーからの電話を妨害し、セティの部屋の中を盗聴したが、それだけでは飽き足らず、最近ではセティのデート予定を耳にしては何かしら横やりを入れる始末。挙げ句に、これである。ティニーが寝込んでしまったこと事態も大問題だが、これでクリスマスに切り出そうとしていた大切な話も出来ず終いになるだろう。
「反省の色は皆無なんですね。もう、これ以上は我慢がなりません。」
セティはキッとレヴィンを睨み付けると、そのまま姿を消した。
本来なら年末には後援会の人達への挨拶やら何やら様々なことで跡取りとしての役目を果たさねばならず、セティの不在を取り繕うためにフュリー達が苦労するのは目に見えてる。だが、恐らく母が窮地に陥るようなことでもない限りあの父は己の行為を悔い改めることはないのだろう、とセティは心の中でフュリーに詫びながら家を出たのであった。


「で、何故僕のところへ転がり込む?」
「はぁ、実は…。」
「それで家出か。素っ気なくされ過ぎるのも悩みの種だが、興味を持たれ過ぎるのも似たようなものなのだな。」
突然押しかけて来たセティに、ユリウスは溜息をついた。
「でも、どうして僕のところなんだ?」
「ホテルでは足がつきやすいですし、ティニーやイシュタルのところに転がり込む訳には行きませんから。」
その点、ヴェルトマー本家なら家内のことが外部に洩れる心配は皆無と言って良いし、妙齢の女性は居ない。また、万一財団の手の者がセティを無理に連れ戻そうとしても、ヴェルトマー家が相手では強引な手段には出られない。
彼を匿うことを渋るユリウスに、セティはさも仕方なさそうな振りをして脅迫に出た。
「匿ってはいただけないのですね。それでは、イシュタルにセカンドハウスを提供してもらえるよう交渉します。」
イシュタルが個人的に所有しているセカンドハウスは、彼女が監視の目を逃れてユリウスと普通の恋人ごっこをしたい時に利用しているという秘密の家で、この家程ではないが秘密保護やセキュリティの面では相当なものだ。多少の不自由はあるだろうが、身を隠すには充分だろう。
ゆっくりと出ていこうとするセティを、ユリウスは慌てて呼び止めた。
「ちょっと待て!! それだけは認めないぞ。」
例えそれがセティでも、あの家の場所を他人に知られる訳にはいかないし、第一ユリウスはそこに自分以外の男性が足を踏み入れることなど絶対に認めたくなかった。
「それだけ、ってことはこの家で私を匿うことは認めていただけるんですね?」
「うっ、それは…。」
「そもそもの発端はあなたが昨年仕掛けた悪戯でもあることですし、きっちり責任とっていただきましょうか。」
にっこりと微笑むセティに、ユリウスはセティを匿うことを渋々と承知した。普通ならこんな簡単に言質を取られたりはしないのに、と悔しさを覚えながら、イシュタルが絡んだが故にまんまと填められたユリウスは、悔しそうに唇をひき結んだのだった。


しかし、さすがにユリウスは転んでも只では起きなかった。
セティが外へ出られないのを良いことに家庭教師代わりに利用し、その合間にセティから様々な話を引き出した。イシュタルとの付き合いに絡まなければ、こういうことはユリウスの方が断然上手である。
「要するに、すちゃらかな父親に対する積もりに積もった恨みが爆発した本当の理由は、ティニーにプロポーズし損ねたってことなんだな?」
「過去形で言わないで欲しいんですけど…。」
まだクリスマスまで日があるのだし、ティニーは回復したようだし、とセティは口の中で小さく呟いた。
そうやってユリウスがセティをからかっていると、イシュタルが訪ねてきた。
「あら、やっぱりここに居たのね。」
イシュタルはユリウスの目の前に居るセティを見ると、推測通りだとばかりにクスっと笑った。
「やっぱり、って…?」
「だってホテルでは足がつきやすいし、まさか私達のところへ転がり込む訳にも行かないでしょう?」
匿ってもらえそうな知り合いなんて他には居ないじゃないの、と言ってイシュタルは楽しそうに笑うと、ユリウスの横に自然な素振りで腰を下ろした。
「今回の件について、どの程度知ってる?」
「大体の事情はティニーからの電話で聞きました。何でも、フィーが血相変えて飛び込んできたらしくて…。自分の所為で大変なことになったって泣いてましたわ。」
イシュタルはユリウスの問いに答えながら、少しだけセティの方を睨むような素振りを見せた。
「まったく、ちょっとプロポーズの機会を逃しそうになったくらいで大騒ぎしないで欲しいわね。」
「どどど、どうしてそれを…。」
セティは慌てた。先程ユリウスにバレるまで誰にも話していないのに、何故イシュタルはこうもあっさりとセティの計画を見抜いてくれてるのか。
「あら、図星? まぁ、そんな気はしただけのことなのだけど…。」
ティニーが今度の春で高等部を卒業するというタイミングと、セティが来年で20歳になるのに婚約者が居ないという世間の目と、そして彼の性格を考え合わせると、今回のこの一件の真相はそうではないかとイシュタルは当たりをつけたのだった。しかも、しばらく前に構内で偶然顔を合わせた時に、天の助けとばかりの表情でティニーの指輪のサイズを聞かれたし…。
2人掛かりでからかわれ始めて、セティは憮然として言った。
「いいですよね、あなた方は。昔っから婚約が決まってるから、プロポーズの手間が省けて…。」
親が決めた婚約者とは言え、これだけ強く互いを思い合っているなら逆に障害がなくて楽そうに見える。
だが、そんなセティに対して、2人はキョトンとした表情を浮かべた。そして、顔を見合わせてからユリウスが口を開く。
「僕は、ちゃんとイシュタルにプロポーズしたぞ。」
「どうせ、子供の頃にでしょう?」
照れの無い子供同士で結婚の約束を交わすことなど珍しくも無い。そういうのは本当にプロポーズしたことにはならないのだ。自分がよくよく考え抜いて言い出す決意を固めた今回のこととそんなものを一緒にして欲しくない、といった顔をするセティに、ユリウスは胸を張って言い返した。
「おととしの春にだ。」
そう言い放つユリウスの隣で、イシュタルがしっかりと頷いてみせる。
「参考までにシチュエーションと台詞を聞かせていただけますか?」
疑わし気なセティに、しかし2人は揃って首を横に振った。
「却下。」
「それは2人だけの秘密よ。」
そうして、恨めしそうな目をするセティを残して、ユリウスとイシュタルは仲良くデートに出かけてしまったのだった。


そして、クリスマスイブ当日。
イシュタルは強引にティニーを連れ出して、ヴェルトマー家所有の小さな家にやって来た。そこでは既にクリスマスパーティー兼ティニーを元気づける会の用意が整えられている。
「姉さま?」
ティニーだけを誘ったにしては大掛かりな様子に、ティニーは首を捻った。
「ナンナ達も来ることになってるのよ。」
今年は冬休みの始まりが早かったから、お休み前に学校へ行き損ねてしまったでしょう? と優しく言うイシュタルに、ティニーは彼女の気遣いを嬉しく思った。
そして、イシュタルの言った通り、間もなくナンナ達はやって来た。もちろん、もれなく恋人がついている。
「本当に、金取られないんだろうな?」
「勿論、無料ですわ。可愛いティニーのために開いたささやかなパーティーですもの。」
参加させてあげるのではなく、出席していただくのだ。イシュタル達は、アレスから1Gだって貰うつもりはなかった。
「ご心配なさらずに、楽しんでいって下さいませ。」
営業用スマイルでにっこりと微笑むイシュタルに促されて、アレスはナンナと共に会場へ足を踏み入れた。嬉しそうにその身に寄り添うナンナの左手の薬指では、パールの指輪が穏やかな光を放っている。
「ナンナさん、その指輪…。」
「うふふ、素敵でしょう? アレスからのプレゼントなの。」
誕生日に貰った誕生石の指輪は、そのまま婚約指輪となった。2人で約束を交わしたのはもっと前だが、卒業式の翌日に父の事務所へ見習いとして就職したアレスは、不幸中の幸いと言うべきか忙しすぎてナンナとデートがままならぬ一方で衣食住の保証があるのをいいことに給料をすべて溜め込み、6月下旬の給料日を待ってナンナに指輪を贈ったのだ。文字どおり、給料の3ヶ月分である。この話を聞いた周りの者達から「そんな風に格好をつける前に、借金を返せよ」と言われたことは、ナンナの耳にもしっかり入っている。
「普段はなかなか嵌められないけど、こういう時には金庫から引っ張り出さなくちゃ♪」
幸せそうなナンナを見送りながら、ティニーはちょっと沈んだ顔をした。
「ティニー…。そんな顔するものじゃないわよ。」
肩を抱き寄せられて頭を撫でられながら、ティニーは寂しそうにイシュタルの顔を見上げる。
「さぁ、パーティーが始まるわ。私達も中に入りましょう。」
イシュタルに促されてティニーが中に入ると、会場で待っていたユリウスの音頭でパーティーが始まったのだった。


3組のカップルとティニーが歓談しながらかなりの時間が過ぎたところで、ユリウス達が少し席を外したかと思うと、何やら大きな箱を台車に乗せて戻って来た。
「本日のメインイベントだ。」
「ティニーに素敵なプレゼントを用意させてもらったわ。」
そう言って2人に差出された箱を、ティニーは恐る恐る開封して驚いた。中にはリボンでグルグル巻にされたセティが入っていたのだ。よくよく見ると、睡眠薬か何かで眠らされているようだった。
「セティ様!!」
ティニーはユサユサとセティの肩の辺りに手を伸ばして揺すってみた。その様子を見ながら、ユリウスが横から手を伸ばしてセティに気付け薬を嗅がせる。
「ん〜?」
目を覚ましたセティは、心配そうに覗き込んでいるティニーを見て、何度も目を瞬かせた。そして、彼女に手を伸ばそうとして、身動きがままなら無いことに気付く。
「ユリウス殿の仕業か。」
「ピンポ〜ン♪」
ユリウスは楽しそうに人さし指を立てた。
「セティ殿は先程、ティニーにクリスマスプレゼントとして贈呈されたんだ。」
「さぁ、ティニー。リボンを解いて受け取ってね。」
言われなくてもセティを解放するために必死にリボンを解いていたティニーだったが、一体ユリウスはどういう縛り方をしたのか、上手く解けなかった。焦りばかりが募り、セティを救出するはずのティニーまで解いたはずのリボンに絡まっていく。ついには、ティニーまでもが身動き取れなくなってしまった。
「あれ? こんな筈じゃなかったんだけどな。」
ユリウス達が事態に気付いた時は、既に手遅れだった。
「早く、ティニーを助けなきゃ。」
ユリウスとイシュタルに続いて、ナンナとパティもリボン解きに乗り出す。
「切ってやろうか?」
どこぞの道場主ほど器用ではないが、縛られた人間に傷一つ付けずに束縛を解くくらいなら俺にも出来るぞ、と言い出すアレスに、ナンナは困ったような顔を向けた。
「普通のロープならともかく、赤いリボンを切るのはちょっと縁起が悪いんじゃないかしら。」
ここはやはり、パティに期待をかけるのが最適だろう。
「はいはい、2人とも動かないでね。ああ、ナンナ、そっち引っ張って。レスターは、ここ持ってて。あ、アレス様、ちょっとセティ様を持ち上げて下さい。」
次々と指示が飛び、鮮やかにリボンが解かれていく。まず、ティニーが脱出を果たし、間もなくセティも自由の身になった。
「やれやれ、やっと自由になれたな。」
胸を撫で下ろすようにして溜息をつくセティの前で、ティニーが突然泣き出した。
「どどど、どうしたんだ、ティニー?」
「ひっく…ひっく…。だって、私の所為でセティ様が…。」
セティがユリウスの元へ身を寄せていたことを知らないティニーは、家出して身を隠していたセティが、自分にプレゼントされるためにユリウスに拉致されたものと思い込んだようだった。それに、そもそもティニーのことでレヴィンと喧嘩したのが原因で家出したと聞いている。
「あ、いや、君は悪くないよ。家出の本当の原因は私の一方的な都合だったし、薬のことだって…。」
ティニーを慰めるようにして、セティはポツポツと事情を話した。
「どうしてもクリスマスに私に渡したかったもの、ですか?」
家出の本当の原因を聞いて、ティニーは促すような素振りで聞き返した。その言葉にセティはコクコクと頷くと、ゴソゴソと懐を探って小箱を取り出した。荷物はヴェルトマー家に置きっぱなしだが、これだけは肌身離さず持っていたのだ。
「あの、えぇっと、これを君に貰って欲しくて…。」
ティニーが差出された小箱を開けてみると、中からは紫のトパーズが嵌まった指輪が顔を出した。それを見て、辺りの者はセティの意図を知って、期待に満ちた目をしてティニーの答えを待った。
しかし、当のティニーは何やら様子が変だった。
「綺麗…。」
「受け取ってもらえるかな?」
セティは不安そうにティニーに問い直した。
「はい、ありがとうございます。大切にしますね。」
ティニーがにこやかにそう答えた途端、セティは泣きそうになり、アレスとユリウスは背を向けて声を潜めて笑い転げ、イシュタルは頭を抱え、残りの者はその場に崩れ落ちた。
「えっ? あの、どうなさったんですか?」
どうもこうも…、と落ち込みに拍車がかかるセティを気の毒そうに見ていたパティは、ふと或ことに思い当たった。
「えぇっと、ティニーはこの宝石の名前を知ってる?」
「いいえ。紫ですけど、アメジストではないようですし…。」
その答えに、パティは「やっぱりね」と思った。
「それ、トパーズよ。」
「えっ!? トパーズ…って、あのトパーズですか?」
「そう。ティニーの誕生石のトパーズよ。」
ティニーは一転しておろおろし始めた。名前くらいは知っていたが、それを紹介しているどの本も掲載しているのは黄色い宝石で、まさかこんな綺麗な紫色のものもあるなどとは思いもしなかったのだ。しかし、これが本当にトパーズなら、セティが何を言おうとしていたのか、導き出される答えはただ一つである。
「もしかして、これって、プロポーズ?」
セティは涙目になっていた顔を上げて、コクコクと頷いた。そして、改めてハッキリと言葉で告げる。
「今すぐに、なんて無茶は言わない。大学を卒業したら、私と結婚して欲しい。」
短期大学部に推薦入学が決まっているティニーの卒業は、セティと同じく2年後だ。タイミングとしては悪くないだろう。
「夢とか聞き間違いじゃないですよね?」
ティニーは、傍らに居たイシュタルのドレスの裾を掴んで問い掛けた。
「少なくとも、セティがあなたに求婚しているように聞こえたのなら、夢でも間違いでもないはずよ。」
解ったら早くお返事してあげなさい、とイシュタルに促されて、ティニーは指輪の箱をセティの方へ差出した。
「えっ?」
それを見た一同は、ギョッとした。まさか、突き返す気か!?
「あの、ティニー…?」
「セティ様の手で嵌めて下さい。」
ティニーは、そう告げるとセティに指輪を箱ごと持たせて、甲を向けて左手を差出す。それが、彼女の答えだった。
セティが必死に緊張を押し隠しながらティニーの左手の薬指にトパーズの指輪を嵌めると、一斉に盛大な拍手が鳴り響いた。そして、いつの間にやら離れた所に移動していたユリウスが、下がっている紐を引っ張る。
「ユリウス兄様…?」
不思議そうに見上げるティニーの目には、"メリークリスマス"の横断幕の下に"祝☆ご婚約・セティ&ティニー"と書かれた横断幕が追加されるのが見えた。
「えらく、準備がいいですね。」
驚くレスターに、イシュタルは誇らしげに答えた。
「当然よ。このパーティーを企画したのはユリウス様ですもの。抜かりはないわ。」
そしてユリウスはというと、「随分と従妹想いなんだな」と呟くアレスに自慢気に答えたのだった。
「イシュタルの視線を独り占めするためなら、僕はどんな苦労も厭わない。」
そしてセティ達の元へ戻って来ると、こう言った。
「僕が全面的に協力してやる。だから、何が何でもお前達には幸せになってもらうぞ。」
ユリウスは、さもないとイシュタルがティニーの心配をして目を反らす、とセティを睨みつけた。
そんなユリウスの勢いに少々飲まれかけたものの、セティは自分の肩に3人分の幸せが掛かっていることを認識しながら、ティニーを幸せにすることを皆の前で改めて誓ったのだった。

-End-

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