After War(シレジア&フリージ編)

終戦後、聖戦士の血に連なるものは各々、所縁の地の導き手として各国を治めるべくバーハラから旅立っていった。
その際、大抵の者達は戦時中に結ばれた相手と共に国へ戻り赴き、正式に国主夫妻として迎えられていたが、ここに遠く引き裂かれることになった夫婦が一組あった。
シレジア国王セティとフリージ女公爵ティニーである。
フォルセティの継承者であるセティは、自分がゆくゆくはシレジアの王位につくことになるであろうことを感じ取っていたが、ティニーのことは意外だった。フリージはアーサーが継ぎ、ティニーはシレジア王妃になるものと思っていたのである。
しかし結果としてアーサーがヴェルトマーに行ってしまったので、ティニーがフリージを治めなくてはならなくなってしまった。
最初にそのことを告げられた時、セティはセリスとアーサーを恨んだ。
ファラの血に連なる者なら、ユリア皇女がヴェルトマーを治めるって手だってあるだろう。アーサーよりよっぽど血が濃いじゃないか。そりゃ、数年のうちにスカサハの元に嫁入りするとは聞いてるけど、イザークにはシャナン様が居るんだから、スカサハを婿取りすればいいんだ。スカサハがソファラ城主になるならともかく、そういう訳じゃないようだし。
大体、アーサーがヴェルトマーを継ぐなんて言い出さなければ、ティニーは一緒に来てくれたのに。自分はちゃっかりフィーを連れて行くくせに、私とティニーの間を引き離すのに一役買うなんてなんて奴だ。しかも、フリージまではバーハラを抜けてすぐだとか言って、ティニーがシレジアへ来ないことを喜ぶなんて酷すぎる。
しかし、自分がシレジアを捨てられない程ではないにしても、アーサーもヴェルトマーを、ティニーもフリージを捨てられないのだということを頭では理解していた。
別れの前にティニーは言った。
「待っていて下さい。後から必ずシレジアへ参ります。フリージの復興を軌道に乗せ、代わりの指導者を立ててもやっていけるようにして。」
その言葉を信じ、セティは一人でシレジアに旅立った。
「待っているよ。そして君が帰ってくる時までに、私はシレジアを素晴らしい国にしておこう。」
と、二人だけの誓いを立てて…。


セティは、シレジアの王位に就くとすぐ、ティニーのことを公表した。そうすることにより、王妃候補を押し付けられる煩わしさを回避すると同時に、遠距離恋愛の応援を求めたのだった。
実際、シレジアには気さくな者が多く、みんな協力的だった。もちろん、面白がってるという要素もあったが…。
ともあれ、今日もセティの元に、ティニーからの手紙が着いた。
あれから、二人は頻繁に手紙のやり取りをして、お互いを励ましあっていた。とは言え、他国に国内事情の正確な事柄を知らせるのは立場上問題があるので、具体的な復興関連の話題は避けて、日常レベルのことを書いていた。視察の時に綺麗な場所を見つけたとか、またアーサーがフィーとペガサスで訪ねてきたとか。
そんな中で、今回の手紙はセティにとっても大変喜ばしいニュースが書かれていた。何と、ティルテュの妹の子供が見つかったと言うのだ。
当然、その二人(アミッドとリンダ)はトードの血を継いでいる。今は、ティニーの手伝いをしてもらっているがなかなか真面目な働き振りで、開拓精神には乏しいけれど安定を見せてからなら国を任せても大丈夫らしい。本人達に打診した結果、軌道に乗ったら公爵代理を務めてもいいと言ってくれたのだと言う。
だが、少々気になることも書かれていた。

これであなたの元へ行けると思ったら、まだ先のことなのですね。
そう気付いたら、いつも近くに存在を感じていられる分、
腕の中が寂しくなってしまいました。
ごめんなさい。こんなこと書いたらあなたを困らせてしまうと
分かっているのに…。

それを読むなり、セティは何とかフリージを訪問できるネタの1つもないものかと考えたのだが、いい案は浮かばなかった。
そんなセティの様子を見て、女官の一人が妥協案を出した。
すなわち、『セティの代理をフリージへ送る』。
早速、発案者の協力を得て、セティはひと抱えの大きさのクマのぬいぐるみをティニーの元へ送った。

次へ

インデックスへ戻る