pas a pas

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アレスが朝食の席にも出て来なかったことで、セティ以外の者は昨日のことをかなり気にしていた。
「やっぱり、謝りに行った方がいいんじゃないの?」
セリスに言われて、リーフもナンナもアレスの部屋へ行ったが、そこはもぬけの殻だった。せっかく仲間になってくれたのに、嫌気が差して出て行ってしまったのかと、3人はアレスを捜して駆け回った。
あっちへうろうろ、こっちへうろうろしている様子を偵察から戻って来たフィーが見つけて声を掛け、どうにかアレスを見つけたナンナ達は彼が昼寝をしているところへ押し寄せる。
「あ、あの…、昨日は迷惑を掛けてごめんなさい。」
「私も早とちりしてしまって…。」
「皆の誤解も解けたから、機嫌直してお昼は一緒に食べに来てね。」
波状攻撃のように掛けられた謝罪と誘いの言葉に、アレスは顔をしかめながらまとめて答えた。
「ああ。」
それだけ言ってまた目を閉じるアレスに、3人は困ったように顔を見合わせて再び口を開こうとした。しかし、それをアレスが追い払うようにする。
これ以上何か言うとますます不機嫌にさせるだけだと察して、3人はすごすご引き上げたが、心の中にはそれぞれ重苦しいものを感じていた。
アレスはまだ怒っているようだ。それどころか、今ので更に怒らせてしまったかも知れない。早く謝りたくて相手の都合も考えずに押し掛けてしまって、反って気まずくなった感じだ。
「どうしたら良いんでしょう…?」
ナンナは、泣きそうな顔でリーフとセリスを交互に見遣った。
「そんなこと言われても、私にもどうしていいのか…。」
「自然に機嫌が直るまで、そっとしておくしかないんじゃないかなぁ。」
触らぬ神に祟りなし、という言葉もある。下手に突ついて薮から蛇が飛び出して来たり、折角寝た子を叩き起こして泣かせたりしてもいけないので、ここは静かに退散あるのみだ。とりあえず、お昼に姿を見せてくれれば良し。ダメならその時また考えよう、と提案すると、セリスは次の作戦の準備に向かったのだった。

「どうだった、ナンナ? アレスは見つかった?」
セリスと分かれたナンナ達にフィーが声を掛けて来た。そして、暗い表情を浮かべているナンナの顔を心配そうに覗き込む。
「どうしたの?」
「それが……ますます機嫌を損ねちゃったみたいなの。」
ナンナは簡単に事情を説明した。
「う〜ん、思ったより傷ついてたのかしら? そんな繊細な人間には見えないんだけど…。」
フィーがナンナの話を聞いて呟くと、横にいたセティがクスクス笑っていた。
「お兄ちゃんってば、何がおかしいのよ!?」
フィーにグイっと服を引っ張られて、セティは笑い止むと簡潔に言った。
「二日酔い。」
「えっ?」
フィーが声を、ナンナが顔を上げる。そしてリーフも目をパチクリさせていた。
「アレスはもう怒ってなんかいませんよ。「喧しい!」とは言わなかったのでしょう?」
その言葉にナンナとリーフは揃って頷いた。
「二日酔いで頭が痛いから、機嫌良くはないでしょうけど…。」
「…それだけのことなんですか?」
「ええ、何しろ朝まで飲んでましたからね。そろそろ薬が聞いて来るはずですから、心配ありませんよ。」
朝食を食べに来る元気などなくて当然。静かなところで休んでるのを邪魔されて少々機嫌を損ねたかも知れないが、そんなことより頭に響く声を聞いていたくなかったから追い払っただけのこと。
そんな風に笑うセティに、ナンナ達は少しだけ安堵した。
そして2人が立ち去った後、彼女達と違って冷静に話を聞いていたフィーは、訝し気な顔で兄の表情を伺った。
「何でお兄ちゃんにそんなにアレスのことがわかるのよ?」
「あれ? 言わなきゃわからないかい?」
セティは動揺の色を全く浮かべることなかった。それがまた、フィーの疑念を確信へと近付ける。
「さては、お兄ちゃん……一緒に朝まで飲んでたわね。」
「はい、正解。2人でワインを20本くらいは空けたかな。」
アレスでさえ二日酔いになったくらいだからかなりの量だろうとは見当が付いたものの、フィーは涼しい顔で言ってのけたセティに目を丸くした。2人でそれだけ飲んだのも驚きだが、そんなことを微塵も感じさせない程元気なセティに驚く。
「お兄ちゃん、強すぎ…。」
呆れるフィーに、セティは苦笑するだけだった。そこでフィーは思い出したように文句を言う。
「でも……だったら、早く教えてよ。もう、皆してビクビクしちゃったじゃないの!?」
しかし、フィーに責められても、セティは平然と答えた。
「誰か私にアレスのことを尋ねたかな?」
尋ねもしないのに教えなかったと責めるのは筋違いだよ、と涼しい顔で言って退けるセティに、フィーはそれ以上何も言えなかったのだった。

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