Present for You

秋も深まり冬が押し迫って来た頃、ナンナは城下町であちこちの店を回りながら悩みを深め、そして押し迫って来るタイムリミットに焦りを覚えていた。
「何を深刻な顏してるの?」
店先にある品物を真剣に眺めて苦悩していたナンナは、いきなり肩を叩かれて声にならない悲鳴を上げた。
「…そんなに驚くことないじゃないの。」
呆れたように言うパティに、ナンナは気まずそうに振り向いた。
「そのくらいの値段なら思いきって買っちゃえば?早く買って、そろそろ帰らないとヤバいわよ。」
解放軍が制圧したとは言え、まだまだ町を完全に掌握しているわけではない。日が落ちてから女子供が一人でうろうろしていては危険なこと間違い無しである。
パティに促されて、この品物に決めてしまおうかとも思ったナンナだったが、やはり踏ん切りがつかず結局そのままパティ達と一緒に城へ戻ることにした。

「ねぇ、パティ。アレスが一番欲しいものって何だと思う?」
城へ戻って一息つくと、ナンナは徐にパティに問いかけた。ルームメイトの気安さと、情報通の彼女なら何か知ってるかも知れないと言う期待から出た言葉だったが、言ってしまってから、つい口が滑ったと慌てた。
「ああ、そういうことね。」
ナンナの分かりやすい一言で、パティは全てを察した。
「そんなに悩まなくても、ナンナが自分の為に選んでくれたものならアレス様は大喜びするわよ。」
「でも欲しいものがあるなら、それをプレゼントしたいじゃない?」
どうせプレゼントするなら、相手が欲しがっているものの方がいいに決まっている。高すぎるものとか入手困難なものとかは無理だけど、自分がプレゼント出来るものなら希望に沿いたい。
「ま、確かにアレス様が一番欲しいものをあげられるのはナンナしかいないけどね。」
ナンナは、パティがボソッと呟いた言葉を聞き逃さなかった。
「アレスが一番欲しいものって何!?」
つかみ掛かるようにして問いつめるナンナに揺すられて、パティは頭をガクガクさせた。おかげで何も言えなくなっていることに気付き、ナンナは慌てて手を離した。
「あ、ごめんなさい。」
パッと手を離されて反動でよろけたパティは、軽く首を振ったり背伸びをして体勢を立て直した。
「いいけどね。でも、あたしの口からはちょっと言えないな。これでも花も恥じらう乙女ですからね。」
「???」
「アレス様が欲しいのはナンナだ、なんて…って、やだ、もうっ、ナンナったら何言わせるのよっ!」
言えないなどといいながらしっかり言ってしまったパティは、ナンナの背中をバンバン叩いて誤魔化そうとしたが、ナンナの耳にはパティの言葉がしっかりを入っていしまった。
「私?」
「…そうよ。夜も更けた頃、部屋に忍んでいって「プレゼントは私よ♪」なんて言ったら、アレス様は天にも昇った気分になること間違い無し。でも、無理は禁物よ。まだ先は長いんだから、そうそう安売りすることないわ。」

そして、その日がやって来た。
ナンナはあれこれ悩んだ挙げ句、結局、昼間は皆と一緒にわいわい騒いでお祝し、夜更けにアレスの部屋へと向った。
「どうした、こんな時間に?」
鎧を外してくつろいでいたアレスは驚きつつも、普段と違って町娘のような格好をしたナンナを、部屋へと招き入れた。
「あのね、お誕生日プレゼントを渡そうと思って…。」
そう言いながらも手ぶらに見えるナンナに、アレスはささやかな品物がポケット辺りから出てくるものと思った。しかし、それに続く言葉はアレスの想像を遥かに超えていた。
「プレゼントは私よ♪」
ナンナはパティが言った通りの言葉を口に乗せた。これでアレスは大喜びするはずだった。
ところが、アレスの反応はパティが言うのとは違っていた。
「冗談でも、言って良いことと悪いことがあるぞ。」
明らかに、アレスの機嫌は悪くなっていた。およそナンナの口から出るとは思えない言葉に、本気に受け取ることは出来なかったのだ。
「冗談なんかじゃないわよ!」
「だったら、意味わかってないだろ。」
わかってて言うなら、もう少しムードというかとにかくそれなりの雰囲気が漂っていてもいいはずだ。
「わかってるわよ!」
「…マジかよ、おい。」
もうちょっと腕が上に上がって来たらファイティングポーズと見紛うような格好で断言するナンナに、アレスは天を仰いだ。
「何よ、私がプレゼントじゃ不満なの?」
「いや、そうじゃなくって…。」
今の心境をどう説明したものかと、アレスは返答に窮した。
その様子に、ナンナは心の中で「パティの嘘つき!」と叫びながらアレスに背を向けた。
「いいわよ、もうっ!」
腹を立てたナンナが回れ右をして部屋を出ていこうとするのを見て、アレスは慌ててナンナを抱き止めた。
「不満など、あるはずがないだろう?」
後ろから抱き寄せられながら耳元に口を寄せられて、ナンナの心臓はバクバク言った。怒りで上気していた頬が、別の理由で熱くなる。
「夢のような話だし誕生日プレゼント程度で貰うには高価すぎるから、すぐには信じられないんだ。」
「じゃあ、喜んでくれるのね?」
アレスの腕の中で少しだけ身体を捻って、ナンナはアレスの方を見た。
「当たり前だ。」
アレスはナンナを自分の方へ向けると、その身体に回していた手をナンナの肩に置いた。
「だが、もう一度確認するぞ。本当にお前がプレゼントで、ちゃんと意味はわかってるんだな?」
「しつこいわね。さっきからそう言ってるじゃないの。」
「本当に本気なんだな?」
真剣に確認するアレスに、ナンナはしっかりと頷いた。
それを見届けると、アレスは再びナンナを抱き寄せた。そのままナンナの唇から首筋へと口付けて行きながら、片手をナンナの巻きスカートのリボンへと移動させた。
「ちょっと…ア、アレス?」
困惑しているような声を漏らしたナンナに構わずアレスがリボンを解くと、スカートは簡単に床へ落ちた。
次の瞬間、ナンナは渾身の力を込めてアレスから身体を引き剥がし、握りしめた拳を繰り出した。
「やっぱり、意味わかってなかったみたいだな。」
アレスは苦笑しながら容易くナンナの拳を受け止めた。そして軽く押し返すと、怒りと羞恥で涙目になってアレスを睨んで震えているナンナの足元に屈んでスカートを拾い上げ、手早く穿き直させた。
「誰に何を吹き込まれたか知らないが、気軽くあんな台詞は吐くもんじゃないぜ。」
立ち尽くすナンナを余所にアレスはティーテーブル横の椅子に腰掛けた。
「ましてや、自分の言ったことの意味もわからないような奴は尚更だ。」
「どういう意味よ!」
莫迦にされたと思ったナンナは怒りを募らせた。
「叔父上にでも聞いてみろよ。さすがに取り乱すかも知れないぜ。」
アレスは新しい悪戯を思い付いた子供みたいな表情をして続けた。
「どうしても今知りたいなら、俺が実地で教えてやってもいいけどな。」
それからアレスは、ふいっとナンナから視線を反らした。そして伏せ目がちにやや焦点がずれているような表情をして、少し落ち着きを取り戻したナンナに向って告げた。
「さっさと部屋へ戻れよ。これ以上長居されると押さえが効かなくなっちまう。」
果たしてナンナは即座に部屋へ戻ったか否か。
ナンナが部屋を空けるのをいいことにパティが夜回りするレスターの馬に同乗して出かけてしまった以上、真相を知る者は当事者達の他に誰も居なかったのであった。

-End-

11月21日:
アレス様(@AKIさん設定)、お誕生日おめでとうございます(^^)/
もちろんテーマはタイトル通り「プレゼント」ですが、裏テーマは「お子さまナンナと大人なアレス」です。
一歩間違うと18禁の世界へ踏み込んでしまいそうになりながらも、途中で引き返させたつもりですが、ヤバかったかしら?
結末は読者様の御想像にお任せしますわ(^^;)
(from LUNA)

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