金茶の恋合戦
シアルフィ城を解放した解放軍は、そこを拠点に各公国の解放に乗り出した。
セリスたちはエッダを解放すると、守備をアルテナに任せてすぐにドズルに向かって軍を返し、空き巣ねらいのドズル軍を返り討ちにした。そして、フリージへ向けて進行を開始したのである。
フリージでは魔法戦になる。
そう判断したセリスは魔法部隊を先行させ、戦士部隊に後方をまかせる隊列で軍を進めた。フィーに各部隊の連絡や偵察を行わせ、不測の事態にはいつでも騎馬部隊を増援に向かわせられるようにしていた。
「セリス様、後方にアクスナイト部隊が接近しています。」
フィーが上空から叫んだ。
「すぐに、援護に向かいましょう。」
リーフが馬首を返しながらセリスを促した。しかしセリスは首を縦には振らなかった。
「後方にはシャナン達がいる。斧が相手なら心配ないよ。」
「しかし…。」
「まぁ、念のために回復役を一人向かわせようか。」
セリスは斜め後ろに目をやると、ナンナに向かって言った。
「ナンナ、シャナン達を援護してあげて。」
「はい、承知致しました。」
ナンナは即座に馬首を返し後方へ走っていこうとした。しかし、その腕をアレスが掴んで止めた。
「ちょっと待て。セリス、何でナンナを行かせるんだ?」
「適任だから。」
「何でも屋のリーフを行かせればいいじゃないか。回復の杖を使えて、ナンナより戦力的に上だぞ。」
アレスは何とかしてナンナを後方へ送るのを阻止しようと必死になった。しかし、セリスは冷静に言い放った。
「リーフは今、杖を持ってないよ。」
「……」
「それにナンナならみんなを勇気づけることが出来るし、いざというときはリターンが使えるだろう。」
正論である。
「という訳だから、ナンナ、早く援護に向かって。」
「はい、セリス様。」
今度こそ本当に、ナンナは後方へ走り去った。アレスはその後ろ姿を見送るしかなかった。
「アレス殿、私が邪魔ですか?」
ナンナを見送って立ち尽くすアレスに、リーフが声をかけた。
「何故、そう思う?」
「不自然でしたから。客観的に見て、ナンナが支援に向かうのが自然であるのを、無理矢理阻止しようとする姿は、なかなか滑稽でしたよ。」
「貴様、この俺に喧嘩を売ってるのか。」
アレスはリーフを睨みつけた。その視線だけで普通の者なら震え上がることだろう。しかし、リーフは普通の者ではなかった。うっすらと笑みを浮かべて言い返した。
「まさか。あなたの売った喧嘩を買ってるだけですよ。」
「いつ、俺がお前に喧嘩を売った?」
「この私を『何でも屋』と呼んだでしょう。」
「それがどうした。」
「失礼な。『マスターナイト』だと何度言ったら分かるんですか!」
「『何でも屋』で通じるんだから、別にいいだろう。」
「許せません!」
リーフは完全に、毛を逆立てた猫状態になった。対するアレスもだんだん本気になってきた。睨み合う二人の間に火花が散り、回りの者達の背筋を凍らせた。
しかし、セリスは平然と号令をかけた。
「さあ、進軍再開。そこの二人は置いといて、出発するよ〜。」
固まっていた者達は逃げるように進軍を再開した。しかし、先頭のセリスの元へ、フィンが馬を近づけて来た。
「セリス様、お二人をあのままにしておいてよろしいのですか?」
「しばらく、あのままにしておこうよ。リーフが本気で喧嘩出来る相手は、アレスしかいないんだもの。」
「しかし、リーフ様が本気で喧嘩したら…それにアレス様だって…」
「そんなに心配なら戻って見守ってあげなよ。ナンナがいない今、何かあったときに止められるのはフィンだけだろうし。」
「何かって…。セリス様、あんまり物騒なことをおっしゃらないで下さい。」
フィンはあわてて馬首を返した。
「ははは、フィンは心配性だな。アレスが本気でリーフと喧嘩するわけないのに。」
セリスは笑いながら、傍らのオイフェに向かって言った。しかし、オイフェは意外に真剣な表情で、
「いや、わかりませんよ。ナンナ殿のことが絡むと、アレス様も平常心を失われるかもしれません。そうなれば、リーフ様は殺されかねませんぞ。猫が獅子に敵うはずがありませんから。」
と答えた。セリスの笑顔が凍りついた。
「で、でも大丈夫だよ。フィンが止めてくれるよ。」
「そのようなことをおっしゃって、止めに入ったフィン殿が命を落とされても知りませんよ。」
「いくら頭に血が上っても、リーフは育ての親に手を上げたりしないし、アレスだって義理の父親を殺したりはしないだろう。」
「セリス様。アレス様にとってフィン殿は義理の叔父です。」
「でも、ナンナと結婚するんだよ。」
そう、実は戦闘開始時に占いで「愛してしまったようじゃ」と言われていたアレスとナンナの仲は、既に「結ばれておる」に達していたのだ。アレスはまだ、そのことを知らないようだけど…。
あとがき(という名の言い訳)
こんなところまで読んでいただいて、どうもありがとうございます。
LUNAは、アレス×ナンナ絶対主義者です。このカップリングは譲れません!
でも、このカップルはまともにラブラブさせてあげるより、それを元にして回りと絡めて遊ぶ方が好きなんです。多分、エルト兄様の堅いイメージをアレスで崩すのが楽しいんだと思います。セリフ遊びでは、ふざけた会話ばっかり考えてました(^^;)
そして、リーフもゲーム中ではかなりまじめな雰囲気が漂ってるので、ちょっと発散させてあげようかな、という出来心が沸いてしまいました。リーフってエスリン似なんですよね。LUNAの持っているエスリンの印象って、気が強くって一途で自分が正しいと思ったら相手が誰だろうと意見するって感じです。と言う訳で、リーフはアレスが相手でも気合い負けしないだろうなって思いました。でも、フィンの教育が行き届いているのか、セリスには喧嘩を売れないみたい(^^;)
さて、作中でアレスがリーフのことを『何でも屋』って言っています。この呼び方、実はLUNAが初回プレイ中に呼んでたものです。初回プレイ時はとりあえず楽にEDを見ることを主目的にしてプレイしていましたから、キャラ名ではなくあだ名で呼ぶことが多かったんです。武器やお金の配分をするのに、装備出来るものを把握するため、その方が都合が良かったんです。『斧使い』とか『弓使い』とか『剣士』とかって、装備出来るものが分かりやすいような呼び方をしてました。だから、何でも装備出来るリーフは『何でも屋』なんです。もちろん、リプレイしてるうちにキャラ名と装備出来るものを把握出来ていったので、今は全員きちんと名前で呼んでます。
ところで、「愛は流星」をお読みになられた方はお気づきかと思いますが、この話は「愛は流星」と同時設定です。向こうの話の冒頭でセリスに知らせると言って飛び去ったフィーが、こっちの話でセリスに後方の危機を知らせています。そして、ナンナを向かわせましたが、セリスの読み通りシャナンとラクチェの前に斧部隊などあっさり倒されてしまったわけです。きっとナンナは合流するなり即座に引き返して来ることでしょう(^^;)