FLOWER☆DREAM
「ピクニックに行かないか?」
戦闘がある程度収束に向かったところで、アレスがナンナを誘った。
「そんな余裕があるわけないじゃない。」
「近くにいい場所を見つけたんだ。ちょっと息抜きするくらい構わないんじゃないか?」
結局、そう遠くへ行くわけじゃないし息抜きは必要だしということで、ナンナはこの戦闘が終わったら一緒に出かけるという約束をした。
「お弁当?」
「ええ、作り方を教えて欲しいの。ねっ、お願い、お父様。」
ピクニックと言えば、お弁当。特に恋人同士で出かけるとなれば、手作りのお弁当を持って行こうというのがお約束の展開というものだ。
「どうしても、自分で作りたいのか?」
フィンとしては、失敗されると材料が勿体無いのでやらせたくはないのだが、ラケシスそっくりの顔でしつこくお願いされると弱かった。結局、およそ材料を無駄にはせずに済む簡単なサンドイッチだけをナンナに作らせた。
全部が自分の作ったものではないとは言え、一応手作りのお弁当が出来たので、それを持ってナンナは意気揚々と出かけて行った。しかし、待ち合わせの場所に行くと、アレスだけではなく他の人たちもたくさん居て、アレスがセリスに激しく抗議していた。
「お前、俺に恨みでもあるのか?」
「恨みなんてないよ。でも、息抜きにいい場所があるなら、独り占めしないで教えて欲しいなって思ってさぁ。」
戦闘中に話していたことを、セリスはしっかり聞いていて、あちこち声を掛けまくったのだった。
結局、逃げられそうにないと観念して、アレスはナンナだけではなく他の者までぞろぞろ連れて、丘の上の花畑まで移動した。
花畑に着くと、恋人達は思い思いの場所にピクニックシートを敷いて弁当を広げはじめた。どうやら、女の子達はその殆どが、手作り弁当を持ち寄ったらしい。さすがにラクチェはスカサハに作らせたと思われたが。
「あれ? ひょっとして、これはお前が作ったのか?」
「そうだけど・・・。どうして食べる前にわかるの?」
「そりゃ、見た目でわかるぞ、これは。」
バスケットの中のサンドイッチは、かなり歪だった。とても、綺麗に揚がった唐揚げと作者が同じとは思えない程に。
「初めて作ったんだから、仕方ないでしょ!」
「別に、悪いなんて言ってないぞ。」
そう言ってアレスは取り上げると崩れそうになるサンドイッチを口に放り込むと、
「見た目はともかく、味は最高だな。叔父上のより旨い。」
と誉めた。
「い、今さらお世辞言って誤魔化そうとしても・・・。」
「本当のことだぞ。」
そう言って次々とサンドイッチにパクつくアレスの姿に、二人っきりのピクニック計画が台なしになった不運も何のその、これで十分いいムードが漂い始めた。
しかし、そう簡単に二人の世界を長続きさせてはもらえなかった。
「ナ〜ンナ、その唐揚げ分けてもらえる?」
セリスが邪魔しに来たのだ。
「それから、そっちのクッキーとマドレーヌも貰おうかな♪」
セリスの手元には、他の者から巻き上げたと見られるおにぎりやサンドイッチ、フルーツやお菓子などが抱えられていた。
「やっぱり、何か恨みでもあるんじゃないか?」
「嫌だなぁ、そんなことないってば。でも、私のシートの上にリーフを足留めしてあるんだってこと、忘れないで欲しいな。」
痛いところを突かれた二人は、セリスの言いなりになって唐揚げとお菓子を差し出した。どうやら、ラクチェ達もこの手で多めに巻き上げられたらしい。
「それじゃぁ、あとはごゆっくり♪」
「ああ、もう邪魔するなよ。」
「あれ〜、そんなこと言っていいのかなぁ?サンドイッチは残してあげたのに。」
一目見て、サンドイッチだけがナンナの作品だと気付いたセリスは、それだけは巻き上げるのをやめたのだった。実は、崩れかけてるからやめただけなのだが、それを棚に上げて恩に着せることは忘れなかった。
「・・・前言撤回。感謝する。」
アレスが渋々と礼を述べると、セリスは楽しそうに笑いながら立ち去った。
残されたサンドイッチを食べながらセリスが遠方まで去ったのを確認すると、アレスは呟いた。
「あいつ、いっぺん絞め殺してやりたいな。」
それを聞いたナンナは、立てひざをついてアレスの頭を抱き締めた。
「何だ?」
「セリス様を絞め殺さなかった御褒美♪」
そう言いながら、ナンナはアレスの頭を撫でていた。
「褒美なら、この方がいいな。」
言うが早いか、アレスは顔を上げて素早くそして軽くナンナの唇を奪った。
「姫君からの御褒美はキスと相場が決まってるんだ。」
「でも、不意打ちは礼儀に反するわよ。」
「これは失礼いたしました、お姫様。」
2人で笑いあった後、そのままアレスは流れに任せてナンナの膝枕で昼寝をし、目を覚ましてもその体制のまま語り合った。
そして今度こそ、夕方まで誰にも邪魔されずに過ごすことに成功したのである。