宝物

あなたの宝物は何ですか?
恋人? 家族? それとも仲間?
形のあるもの? 形の無いもの?
あなたにとって価値のあるもの
とてもとても大切なもの
そんな宝物は何ですか?

「ティニーは本当に可愛いなぁ。私の宝物だ。」
行軍中、一休みしてる際にセティの口から発せられた言葉に、ティニーは恥ずかしそうに頬を染めた。
だが、その言葉に動揺した者は当の本人のみならず、解放軍のほぼ全員と言っても過言ではなかった。
そして、動揺が収まった後、誰しもが考え始めた。自分にとっての宝物は何なのだろう、と…。

「わたしの宝物はアーサー……じゃないわよね。うん、そういうイメージじゃないもの。」
マーニャの羽根を休ませながら、フィーは一人で考え込んでいた。すると、その独り言に対して陰から言葉が返って来た。
「イメージじゃなくて悪かったな。」
慌てて辺りを見回したフィーの前に草陰から姿を現わしたのはアーサーだった。
味方とは言えこんなに近付かれるまで気配に気付かなかった迂闊さを反省しつつ、フィーは言い返す。
「悪いなんて言ってないわよ。ただ、それじゃわたしにとっての宝物って何かとか、アーサーはどんな存在かとか、いろいろ考えちゃって…。」
「ふ〜ん。俺にとってのフィーは最高の相棒だけどな。フィーは違う訳?」
簡単に示された答えに、フィーは我が意を得たりと手を鳴らした。
「そうよ、相棒!! それよ、それ。恋人だからって、ロマンチックな言葉を探すことなんてなかったんだわ。」
深刻な表情からいきなりいつもの元気いっぱいの表情に戻ったフィーに、アーサーはクスっと笑うと、自分について来るように促した。
「互いの認識が一致したところでさ、皆のところへ行こうよ。向こうで、宝物談義が繰り広げられてるんだ。」
「宝物談義?」
フィーは、マーニャの手綱を引いてアーサーの後に続きながら首を傾げた。
すると、アーサーはクスクス笑いながら答える。
「要するに、セティの爆弾発言についてあれこれ言ってる内に、宝物の見せ合いとかに発展しちゃったんだ。」
「で、アーサーは何を見せたのよ?」
「俺?」
アーサーはフィーの問いに振り返ると、胸元をゴソゴソと探った。
「俺は、このペンダント。母さん達の形見だし、フィーやティニーとこうして一緒に居られるのはこいつのおかげだから…。」
戦場でティニーと顔を合わせた時、このペンダントがなければあんなに簡単には兄だと認めてもらえなかっただろう。
それ以前に、フィー達がペンダントの反射光に気付いて拾ってくれなければ、行き倒れていたかも知れない。少なくとも、フィーにソファラまで送ってもらわなければ、解放軍に参加することもなかった。今のアーサーがあるのはこのペンダントのおかげと言っても過言ではないだろう。
「だったら、わたしはマーニャかな?」
マーニャの翼があってこその出会い。シレジアからイザークまで少女が一人旅に踏み切れたのは、マーニャが居てくれたからこそだ。
「でも、マーニャもやっぱり相棒って方がしっくりくるのよね。」
「いいんじゃない? 形あるものにこだわらなくてもさ。」
頭を悩ませるフィーに、アーサーはさらりと言ってのけた。
「俺にとってはペンダントだけじゃなくて、こうしている時間や気持ちも宝物だよ。」
そんなアーサーに、フィーは爆笑した。
「気っ障〜。何よ、お兄ちゃんに対抗してるつもり?」
「そうじゃないけど…。思ったまま言ってみただけだ。そんなに笑うことないだろ!!」
アーサーはプ〜っと頬を膨らませた。
「あはは、ごめん。でも、あたしも似たようなこと言っていい?」
「似たようなこと?」
「あのね、あたしの宝物ってアーサーやマーニャとの絆だと思うの。」

 

-了-

《あとがき》

セティ様のあの一言から妄想を膨らませたお話でありました。
他の人達についても書くかどうかは未定です。
で、アーサーとフィーの場合は多分お互いを宝物とは思わないと言うか、手の中で大切に守りたいって感じではないような気がしたので、こんな形にしてみました。恋人はあくまで相棒です。
しかし、アーサーの持論で言うと多分ティニーちゃんの宝物も形見のペンダントだな。セティ様に何か貰ったらそっちが宝物になりそうだけど…。そして出産後はフレヴィくん?(^^;)

インデックスへ戻る