42.失意

アレスとナンナが結ばれた。

「リーフ、元気ないね。」
「……。」
返事のないリーフに、セリスはズバリ訊く。
「ナンナに振られたから?」
「……そんなにハッキリ言わないで下さい。」
予想に違わぬ答えを受けて、セリスは更に追い打ちをかける。
「てっきり、君たちって婚約してると思ってたけど、違ってたんだね。」
「私だって、そのつもりで居ましたよ。」
「つもり、ね。ちゃんと、ナンナと話してなかったんだ。」
「それは…。だって、いつも一緒に居たんですよ!! ずっと私のことを想ってくれてるような素振りだったし、私の為に一生懸命になって…。」
「でも、きちんとした告白はしてもされてもいなかったんだよね?」
「……そうです。」
セリスは大きく溜息をつくと言った。
「告白しておけば良かったんだよ。アレスよりも誰よりも先に、さ。そうしたら、ナンナだってその気になってくれて、そうなれば心変わりだってしなかっただろう。」
「心変わりですか?」
リーフは不思議そうに首を傾げた。
リーフからアレスに乗り換えた訳ではないのだから、此度のことはナンナの心変わりとは言えない筈だ。
すると、セリスは諭すように言った。
「ナンナも昔は君が一番だったんだと思うよ。もしかしたら近くに居過ぎて意識してなかったり、意識しても他のことにすり替えたりしてたかも知れないけどさ。とにかく、君がハッキリと自分の気持ちを伝えて真剣に口説いたら、私達が会った時にはもうとっくに婚約成立してたんじゃないかな?」
「……。」
リーフは返す言葉が無かった。そこへ更にセリスは続ける。
「"てっきり"とか"つもり"とかって、そんなこと言ってちゃいけないんだよ。」
妙な説得力を感じて、今度はリーフがズバリ訊く。
「それ、セリス様の経験ですか?」
「……君も、嫌なことハッキリ聞くね。」
「…ってことは、やっぱり?」
すると、セリスは自棄になったように叫んだ。
「ああ、そうだよ! 私はそうやって失敗したよっ!!」
「あの…、そんなに自棄にならなくても…。」
「どうせ私は"いい人"や敬愛対象であって、"恋人"にはなれずに振られ続けたよっ!!」
「セリス様、落ち着いて…。」
双方素面なのに、何やら酔っ払いの愚痴めいて来た。リーフが宥めようとするも、セリスは滔々と言い募る。
「まずは、ラクチェさ。私とラクチェはね、君とナンナ同様に物心ついた時から一緒に居て、私達は仲も良かったしラクチェは私の為に一生懸命になってくれてたよ。」
「でも、ラクチェは昔からシャナン様一筋だったって…。」
「だから、そこが"てっきり"だったんだってば! つまり、"敬愛"の対象がシャナンで"恋愛"の対象が私だと思ってたら逆だったって訳。」
「ああ、なるほど。」
「ユリアの場合も、私のことは"いい人"とか"大切な人"で恋愛対象はスカサハだったし、パティの場合はシャナンや私のことは結局ミーハー的に好きだっただけでレスターの方が良かったみたいだし…。」
「あの…、その2人の場合は告白したんですか?」
リーフは、「あの2人と一緒に居るところは結構見かけたけど、振ったとか振られたとかいうぎこちなさを彼女達から感じた覚えは無かったな」と思い返した。
案の定、セリスはボソッと答える。
「…しようとしたけど、先越された。」
リーフはしみじみと零す。
「はぁ…。やっぱり、先に告白するのって大事なんですね。」
「うん。でも、早けりゃ良いってもんでもないけどね。」
「何か、またまた妙に言葉に重みがありますね。もしかして…?」
「うっ…。鋭いね。」
「やっぱり…?」
もしかして彼女のことか、とリーフがある娘の姿を思い浮かべると、セリスは泣き濡れる真似をしながら告白する。
「今度こそと思ってティニーに告白したら、碌に意識もされてなくてあっさり振られて、その後アーサーに襲われるわティニーには避けられるわで…。」
「まぁ、そうなりますよね、ティニー相手にそんな真似したら…。しかも、それが解る前に告白だなんて、よっぽど焦ってたんですね、セリス様は…。」
「一目惚れだったんだよ!それの何が悪いのさっ!? 父上と母上だってそうだったんだし、あの二人なんて殆ど行きずりで次に会った時にはあっさり結ばれたんだから、私が一目惚れで告白したって良いじゃないか!」
「……それは特殊例なんじゃありませんか?」
リーフは言わずもがなのツッコミを口にせずには居られなかった。
「わ、わかってるよ。今はバカなことしたなぁって…。でも、あの時は真剣だったんだ。」
「…で、その結果が玉砕だったんですね」
リーフは淡々とセリスの古傷に塩を塗り込む。そんなリーフに、セリスは面白くなさそうに言う。
「リーフ…。君、すっかり元気になってない?」
「ええ、おかげさまで…。」
正に言葉通り、落ち込んだリーフの気持ちはセリスのおかげで随分と軽くなっていた。
落ち込んでいる相手を更にどん底まで突き落とし、その反動で浮上する。セリスとリーフは結構似た者従兄弟なのであった。

-End-

《あとがき》

セリスとリーフの恋愛談義です。
通常の子世代創作として書き進めていましたが、なかなかオチがつかず、タイトルも浮かばずにいました。
おまけに、とにかく地の文が入らずに台詞ばっかりがポンポンと飛び交う始末。かなり強引に地の文を入れ込みました。だって、ずっと二人で喋ってるだけで碌に動きが無いんですもの((+_+))
…で、ある程度形が整って来たところで、お題創作の未発表タイトルに適用出来そうなものがあったので、こちらを採用しました。
失意と言うか傷心のセリス&リーフです。

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